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2話目
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「クローネ様、こちらに」
時計台ーー薔薇園の奥にある塔ーーに着くとジュドは慣れた手つきで、腰にぶら下げた鍵でドアを開けた。
彼がいなければいつもみたいに、窓から入ることになっていた。たまたまフリルの多い服だったので助かる。
「ジュド、ありがとう」
「いえ。お嬢様が他の方々に見つかる前で良かった」
ジュドはそう言うと、私の頬を拭うように撫でた。
ウッ、君顔がいいのを自覚してくれ。心臓に悪いから。
「ところで、何があったのですか?」
「心当たりがないの。ともかく、悪い予感がしたので逃げましたわ」
ジュドは口元に指を当てた。
「……皆様何故クローネ様の話を聞かないのでしょうか……私がいくら彼らに弁解してもいつも同じことを言い返されるのですよ…」
ジュドの話に私は曖昧な笑顔を浮かべた。
まさかゲームの仕様上です、なんて言うことできないし。
「妹がとても素敵な子だからよ。みんなの気持ちが偏るのは当然じゃないかしら」
まあ、嘘はついてない。彼女は、主人公補正でなんでもできるし、認めたくはないが可愛らしいし。
私の曖昧な答えに、そういうものですかねとジュドは首を傾げた。
笑いで誤魔化そうとしたが、変な声が出た。
「お、おほほ。私のことよりも、貴方のお仕事は大丈夫なのかしら……助けてくれたのは本当に嬉しかったけれど、貴方の負担が心配ですわ」
ジュドは一瞬目をまあるくしてから、眉を八の字にして、白い歯を見せた。
「あはは、あ、失礼しました。大丈夫ですよ。何年ここの執事やってるとお思いですか。クローネ様のお転婆には慣れっこです」
こういう謙虚で、少しおちゃめな性格が人気キャラの所以だろうなあ。
推しとして尊い以前に、私はジュドを人として尊敬している。
「うう、お淑やかって難しいですわ……」
「……随分とお変わりになられましたね。少し前までは私も手を拗らせるほど元気でしたのに」
中身が悪役令嬢から、この世界線のガチゲーマー(エンド分岐全て暗記済み)に変わったから、そりゃね。
なんと言おうか少し悩んでから、ソウダネと棒読みの苦笑いを返した。
唐突にドタドタと足音が響く。
「居たか!?」
「いやいない!絶対、あいつが妹君のネックレスを盗んだ犯人だ!」
しばらく息を殺していると、足音が止んだ。
「お嬢様、心当たりは?」
「無いわ……どこにいったのでしょう。誰かが私の部屋に隠していたら怖いですわね」
「そんなことが過去にあったのですか?」
やっっっばいやらかした。
「あ……えっと、ここの人達は優しいからそんなこと無い、ですわよね?あはは」
この世界線的には私がヴィランが正解なんだった。
本当は今すぐにでも妹を直訴したいくらいだけれど、当然ゲームにそんなルートは無い。
私の目的は、推し達のハッピーエンド。
下手にオリジナルストーリーを始めて、彼らに悪影響を出すなんてこと、望んでいない。
慌てる私を前に、ジュドはため息をついた。
「クローネ様。お優しいのは素敵なことだと思いますが、以前のように、私にくらいわがままになっていいのですよ」
ジュドは、鍵を私の手に握らせるとそっと頭を撫でた。
「お渡ししておきますね。誰も入りませんし。何かあればいつでも私を頼ってくださいね」
では、ネックレスを探して汚名を晴らしておきますので。
ジュドはそう言い残して時計台の外へ消えていった。
ジュドの優しさが染みる……嬉しい……だけどそれ以上に……
何かあればいつでもだって!?
あれ、スタート画面起動時のセリフじゃん!?は!?生で聞いちゃった!!
今日が命日かもしれない、と、時計台の窓から見える昼間の月に呟いた。
時計台ーー薔薇園の奥にある塔ーーに着くとジュドは慣れた手つきで、腰にぶら下げた鍵でドアを開けた。
彼がいなければいつもみたいに、窓から入ることになっていた。たまたまフリルの多い服だったので助かる。
「ジュド、ありがとう」
「いえ。お嬢様が他の方々に見つかる前で良かった」
ジュドはそう言うと、私の頬を拭うように撫でた。
ウッ、君顔がいいのを自覚してくれ。心臓に悪いから。
「ところで、何があったのですか?」
「心当たりがないの。ともかく、悪い予感がしたので逃げましたわ」
ジュドは口元に指を当てた。
「……皆様何故クローネ様の話を聞かないのでしょうか……私がいくら彼らに弁解してもいつも同じことを言い返されるのですよ…」
ジュドの話に私は曖昧な笑顔を浮かべた。
まさかゲームの仕様上です、なんて言うことできないし。
「妹がとても素敵な子だからよ。みんなの気持ちが偏るのは当然じゃないかしら」
まあ、嘘はついてない。彼女は、主人公補正でなんでもできるし、認めたくはないが可愛らしいし。
私の曖昧な答えに、そういうものですかねとジュドは首を傾げた。
笑いで誤魔化そうとしたが、変な声が出た。
「お、おほほ。私のことよりも、貴方のお仕事は大丈夫なのかしら……助けてくれたのは本当に嬉しかったけれど、貴方の負担が心配ですわ」
ジュドは一瞬目をまあるくしてから、眉を八の字にして、白い歯を見せた。
「あはは、あ、失礼しました。大丈夫ですよ。何年ここの執事やってるとお思いですか。クローネ様のお転婆には慣れっこです」
こういう謙虚で、少しおちゃめな性格が人気キャラの所以だろうなあ。
推しとして尊い以前に、私はジュドを人として尊敬している。
「うう、お淑やかって難しいですわ……」
「……随分とお変わりになられましたね。少し前までは私も手を拗らせるほど元気でしたのに」
中身が悪役令嬢から、この世界線のガチゲーマー(エンド分岐全て暗記済み)に変わったから、そりゃね。
なんと言おうか少し悩んでから、ソウダネと棒読みの苦笑いを返した。
唐突にドタドタと足音が響く。
「居たか!?」
「いやいない!絶対、あいつが妹君のネックレスを盗んだ犯人だ!」
しばらく息を殺していると、足音が止んだ。
「お嬢様、心当たりは?」
「無いわ……どこにいったのでしょう。誰かが私の部屋に隠していたら怖いですわね」
「そんなことが過去にあったのですか?」
やっっっばいやらかした。
「あ……えっと、ここの人達は優しいからそんなこと無い、ですわよね?あはは」
この世界線的には私がヴィランが正解なんだった。
本当は今すぐにでも妹を直訴したいくらいだけれど、当然ゲームにそんなルートは無い。
私の目的は、推し達のハッピーエンド。
下手にオリジナルストーリーを始めて、彼らに悪影響を出すなんてこと、望んでいない。
慌てる私を前に、ジュドはため息をついた。
「クローネ様。お優しいのは素敵なことだと思いますが、以前のように、私にくらいわがままになっていいのですよ」
ジュドは、鍵を私の手に握らせるとそっと頭を撫でた。
「お渡ししておきますね。誰も入りませんし。何かあればいつでも私を頼ってくださいね」
では、ネックレスを探して汚名を晴らしておきますので。
ジュドはそう言い残して時計台の外へ消えていった。
ジュドの優しさが染みる……嬉しい……だけどそれ以上に……
何かあればいつでもだって!?
あれ、スタート画面起動時のセリフじゃん!?は!?生で聞いちゃった!!
今日が命日かもしれない、と、時計台の窓から見える昼間の月に呟いた。
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