転生お姉さんの主食は百合

スイ

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「ちっす神です」

「あ、はいどうも」

 一人称【神】というおかしな白髪の男の声に、黒髪のお姉さんは無表情を貫いていた。
 心の中ではなんだコイツと思っているのだが、度重なる勤務時間外労働とパワハラクソ野郎のせいで、表情筋が死んでいた。

「えっと、私死にました?」

 彼女の記憶は、大型トラックと正面衝突したところで止まっていた。そして、気づいたら白い空間。
 死後の世界、と言われるのが1番しっくりくる。

「うん。衝突相手は飲酒運転だね」

 まあそうですよね、と呟くと、彼女はズレかけていたメガネを上げた。
 それから小さく欠伸をして、失礼と呟いた。

「随分と冷静だね。怒ったり、泣いたりするかと思ったけど。神びっくり」

「私不運なんで。死ぬならこんなんだろうと思ってました」

 お姉さんの愛想笑いに、神は気取って指を鳴らした。

「そーなんだよ!君さ、前世不幸過ぎヤベェ~って訳で、来世は超超超ハッピーだから安心して?神がなんでも叶えてあげんよ。」

 そう言うと神はクルクル回りながら、指を空間に走らせた。右へ左へ。何かをいじっているようにも、遊んでるようにも見えるが、何をしているかは分からない。

 ま、なんでもは言いすぎだけどねん。

 付け加える前にお姉さんの口が開いた。

「え……なんでも……?その世界、女の子同士がイチャイチャしてますか…?」

 神は見た。彼女の漆黒の瞳に、前世では幼少期以降一切映らなかった光がさしたのを。

 神は手元の空間ーー自分だけが見えるお姉さんの人生の履歴書に目を通す。

 彼女にはまだ伝えていないが、神の不手際で、前世では相当な不運が起こっていたことが赤文字で記載されている。(ミスは反省はしている。怒られたので。)
 神はその次のページ、次のページとペラペラめくり、【恋愛】のページにたどり着いた。読み飛ばしながら目当てのページを探す。

【恋愛……好意に鈍感なため
ペラッ
小学校のころは
ペラッ
中高生の
ペラッ



(備考)重度の百合(女性同士の恋愛モノ)好きです。妄想癖が強いです。百合がないと飢えて死にます。】




 そして思った。こいつなかなかやべぇなと。

「おぅ……なるほどな、おう……じゃあここにしよう。剣と魔法のファンタジーなんだけど、数百年前に聖母によって全ての人に平等が与えられた世界。誰と恋愛しようがもちろん自由だ。混血が進み、ケモ耳とかそんなのも多い」

「最高っすね」

「目がガチで怖い。あとヨダレをふいてくれ」

「魔法ってどんなの使えますか?」

「要相談?前世の不運の分はサービスしとくよん」

「じゃあーー」







「もう勘弁してください」

 神の白いふわふわだった髪がしなしなになっていた。
 対照的に、お姉さんの黒髪はツヤが良くなっていた。

「ええ。本当にありがとうございます」

「うん。まあ。元はと言えばこっちにも……いやなんでもない。神は優しいからね」

 事情も知らないお姉さんは、満足気なオーラをまとっていた。

「ええ。ありがとうございます。それでは夢の百合のくに……もとい異世界に飛ばしてください」

「あ、その前に。君、名前はどうする?そのままでいい?」

「どうでもいいです。モブお姉さんとかでどうです?百合豚でもいいですよ?」

 お姉さんは真顔だが、ノリノリなことは声色から分かった。

「あー、こっちで決めさせてもらう」

 神は天を仰いでも誰もいないことを知りつつも、上を見上げてしまった。



「おけ、じゃ、リリ。君は今日からリリさ。じゃあリリ。行ってらっしゃい」

「リリーー了解しました。ありがとう神様。それじゃあ」

お姉さん、改めリリは、真っ白な光に包まれた。光の粒が乱反射したと思ったら、急に小さくなって、

消えた。





 誰もいなくなった白い空間に白髪の男が1人立っていた。

「だいぶ変わった子だったけど、これでだいじょぶっしょ!!あの子はこれでハピハピさ!」

「馬鹿だにゃ」

 どこからともなく現れた白猫は、金色の瞳をとじて呆れ顔をした。

「あんなチーター、あの平和な世界に放ってしまえば、魔力の量に歪みができて、まーたあの子がアホなほど不幸になるにゃ」

「は?」

 白髪野郎がペラペラと手元の空間に浮かぶ、透明の何かを捲る。恐らくマニュアル本だろう。
 数分、いや、数時間後。顔あげると部屋にも劣らず真っ白だった。

「やっっべえどぉしようシロまた俺上層部に怒られるんだけど助けて無理無理無理」

 猫のため息が、白い部屋に溶けていった。




 空からふわりふわりと落ちていくお姉さんは、そんな裏話をまだ知らない。
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