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〈2〉
「おまえさあ、そこで『また浮気したでしょ、別れよう』って言えば済む話をなんで一旦持ち帰ってきたわけ? まさか別れたくねーの?」
「う……そういうわけじゃ、ないけど。二回も浮気されたら、さすがに信じられないし」
「じゃあなんだよ」
鋭い目でこちらを見るおにいちゃんから目を逸らす。なんだか言いづらくて、ぼそぼそと言い訳でもするかのように口を開いた。
「で、でも……もうちょっと待ってみようかなー、なんて思ったり? もしかしたら、今度こそちゃんと反省してくれるかもしれないし?」
「はあ……無理だろ。おまえ、なんでそこまでそのクズ野郎に執着してんの?」
おにいちゃんは盛大にため息をつきながら問いかけてくる。それが正論だなんてことは分かりきっているのだが、わたしは半泣きになって言い返した。
「だ、だってシンくん、顔がめちゃくちゃタイプなんだもん! クズだって分かってるけど、あの顔で『ユイカが一番好きだよ』って言われると何でも許しちゃうのっ!!」
ヤケ気味に叫ぶと、おにいちゃんは頭を抱えながらもう一度大きなため息をこぼした。そして、可哀想な子を見る目でわたしを見つめてくる。
「……おまえ、本っ当にバカだな」
「わ……っ、分かってるよ! でも、気持ちが落ち着いたら、ちゃんと別れようって言うもん。……たぶん」
「落ち着いたら『やっぱりもう少しだけ付き合ってみようかな』ってなるだろ、おまえ。こういうのは思い切りが大事なんだよ。電話でいいから、今すぐ別れろ」
「なっ……、なんで別れるタイミングまでおにいちゃんの言う通りにしなきゃなんないの!? おにいちゃんには関係ないじゃん!」
今すぐ別れろとしつこく迫ってくるおにいちゃんに、わたしはついそんなことを言ってしまった。口に出してから、自分で愚痴を聞いてもらいにきたくせに何てことを言ってしまったのだろうと我に帰る。
慌てて「ごめんっ」と謝ったけれど、それまで気だるそうにしながらもわたしの話を聞いてくれていたおにいちゃんは、とんでもなく怒った様子でゆらりと立ち上がった。
「――関係ない、だってぇ? どの口がそんな生意気言ってんだ?」
「うっ……ご、ごめん。ちょっと言いすぎた……」
「こっちが黙って聞いてりゃ、浮気されたって愚痴るくせに顔がタイプだから別れたくねえだと? そんなクズ野郎よりずっと顔のいい『おにいちゃん』がこんな身近にいんのに、おまえ何言っちゃってんの?」
「ま、まあ、確かにおにいちゃんもかっこいいけどさ」
「けどってなんだよ、けどって」
椅子から立ち上がり、おにいちゃんはわたしの方へと少しずつ歩み寄ってくる。その顔は明らかに怒ってはいるものの、改めて見てみると確かにおにいちゃんはかっこいい。
目は垂れ気味だけど眉毛はきりっとしているし、鼻筋も通っているし、ちょっと厚めの唇は綺麗な形をしている。それに、それぞれのパーツがシャープな輪郭に合わせたかのようにちゃんとバランスよく配置されているのだ。
現に、おにいちゃんは女の子にモテていた。学生時代、アイリがよくおにいちゃん宛てのラブレターの仲介をさせられていたことを思い出す。
あまりにもその数が多いものだから、そのうち面倒になったアイリが「ラブレター仲介料一件につき三千円」と絶妙な価格設定で受け渡しを請け負い始め、ちょっとした小金持ちになっていたことも同時に思い出した。
しかし、おにいちゃんがいくらかっこよかったとしても、恋愛対象になるかどうかは話が別だ。
「だ、だって……おにいちゃんはおにいちゃんだもん。小さい頃からずっと一緒だったんだし……」
わたしが5歳の頃ここに引っ越してきてから、かれこれ15年以上すぐそばで過ごしてきた人だ。わたしのすべてを知られてしまっているような身近な存在のおにいちゃんを「かっこいい」と思うことはあっても、「付き合いたい」と思ったことは一度もない。
もごもごと言いよどむわたしを見て、おにいちゃんは小さくため息をつく。
「……あっそ。おにいちゃんとは付き合えねーって?」
「つ、付き合えないっていうか……そんなの、考えたことないよ」
「ふーん。じゃ、今すぐ考えろ。おまえがどうしてもそのクズ野郎と別れられないっていうなら、俺が寝取ってやる」
言いながら、おにいちゃんはいつも着ているだぼだぼのパーカーを乱雑に脱ぎ捨てた。そして上半身裸という状態でわたしに近付き、息がかかりそうなほど間近に顔を寄せる。
「……はい? ね、ねとる?」
「ああ。ちゃんとした男に持ってかれるならまだしも、毎回懲りずにクソ男と付き合ってばっかりだもんな、おまえ。もう指咥えて見てるのやめるわ」
意味が分からず困惑しきりのわたしを、おにいちゃんはひょいっと持ち上げてベッドに運んだ。部屋の隅に置かれているそのベッドはおにいちゃんがいつも寝起きしている場所だから、そこに横たわった瞬間に嗅ぎ慣れたおにいちゃんの匂いがふわりと漂ってくる。
寝取る、という言葉と、彼の手でベッドに連れて行かれたことで、わたしはようやくおにいちゃんの発した言葉の意味を悟った。
「ね、寝取るってそういうこと!? 俺の体を覚えさせてやる的な!?」
「どこで拾ってきたんだよそのセリフ。まあ、そういうことだけど」
「ま……まさかおにいちゃん、わたしのことそういう目で見てたの!? う、うそだっ……!」
これっぽっちも予想していなかった展開に慌てるわたしを後目に、おにいちゃんはゆっくりと顔を近づけてくる。そして、わたしの着ているブラウスのボタンを一つずつゆっくりと外しながら囁いた。
「見てたよ、ずっと。でもアイリのやつが『ユイカに手出したら社会的に殺す』って言うから我慢してた」
「なっ……し、知らなかったのわたしだけ……!?」
今は遠く離れた地にいる親友の顔を思い浮かべながら、ボタンを外し終えてわたしの素肌を撫でようとするおにいちゃんの手を必死に振り払う。しかし、おにいちゃんはそれを難なく躱して、いとも簡単に下着まで外してしまった。
繊細なレース地のブラジャーを手にしたおにいちゃんは、なんだかとても楽しげな様子でわたしの腰のあたりにどっしりとのしかかる。そして、とてつもなく悪い顔をしてにたりと笑った。
「こっちはな、15年以上我慢してんだよ。いい加減、報われてもいい頃だろ?」
「う……そういうわけじゃ、ないけど。二回も浮気されたら、さすがに信じられないし」
「じゃあなんだよ」
鋭い目でこちらを見るおにいちゃんから目を逸らす。なんだか言いづらくて、ぼそぼそと言い訳でもするかのように口を開いた。
「で、でも……もうちょっと待ってみようかなー、なんて思ったり? もしかしたら、今度こそちゃんと反省してくれるかもしれないし?」
「はあ……無理だろ。おまえ、なんでそこまでそのクズ野郎に執着してんの?」
おにいちゃんは盛大にため息をつきながら問いかけてくる。それが正論だなんてことは分かりきっているのだが、わたしは半泣きになって言い返した。
「だ、だってシンくん、顔がめちゃくちゃタイプなんだもん! クズだって分かってるけど、あの顔で『ユイカが一番好きだよ』って言われると何でも許しちゃうのっ!!」
ヤケ気味に叫ぶと、おにいちゃんは頭を抱えながらもう一度大きなため息をこぼした。そして、可哀想な子を見る目でわたしを見つめてくる。
「……おまえ、本っ当にバカだな」
「わ……っ、分かってるよ! でも、気持ちが落ち着いたら、ちゃんと別れようって言うもん。……たぶん」
「落ち着いたら『やっぱりもう少しだけ付き合ってみようかな』ってなるだろ、おまえ。こういうのは思い切りが大事なんだよ。電話でいいから、今すぐ別れろ」
「なっ……、なんで別れるタイミングまでおにいちゃんの言う通りにしなきゃなんないの!? おにいちゃんには関係ないじゃん!」
今すぐ別れろとしつこく迫ってくるおにいちゃんに、わたしはついそんなことを言ってしまった。口に出してから、自分で愚痴を聞いてもらいにきたくせに何てことを言ってしまったのだろうと我に帰る。
慌てて「ごめんっ」と謝ったけれど、それまで気だるそうにしながらもわたしの話を聞いてくれていたおにいちゃんは、とんでもなく怒った様子でゆらりと立ち上がった。
「――関係ない、だってぇ? どの口がそんな生意気言ってんだ?」
「うっ……ご、ごめん。ちょっと言いすぎた……」
「こっちが黙って聞いてりゃ、浮気されたって愚痴るくせに顔がタイプだから別れたくねえだと? そんなクズ野郎よりずっと顔のいい『おにいちゃん』がこんな身近にいんのに、おまえ何言っちゃってんの?」
「ま、まあ、確かにおにいちゃんもかっこいいけどさ」
「けどってなんだよ、けどって」
椅子から立ち上がり、おにいちゃんはわたしの方へと少しずつ歩み寄ってくる。その顔は明らかに怒ってはいるものの、改めて見てみると確かにおにいちゃんはかっこいい。
目は垂れ気味だけど眉毛はきりっとしているし、鼻筋も通っているし、ちょっと厚めの唇は綺麗な形をしている。それに、それぞれのパーツがシャープな輪郭に合わせたかのようにちゃんとバランスよく配置されているのだ。
現に、おにいちゃんは女の子にモテていた。学生時代、アイリがよくおにいちゃん宛てのラブレターの仲介をさせられていたことを思い出す。
あまりにもその数が多いものだから、そのうち面倒になったアイリが「ラブレター仲介料一件につき三千円」と絶妙な価格設定で受け渡しを請け負い始め、ちょっとした小金持ちになっていたことも同時に思い出した。
しかし、おにいちゃんがいくらかっこよかったとしても、恋愛対象になるかどうかは話が別だ。
「だ、だって……おにいちゃんはおにいちゃんだもん。小さい頃からずっと一緒だったんだし……」
わたしが5歳の頃ここに引っ越してきてから、かれこれ15年以上すぐそばで過ごしてきた人だ。わたしのすべてを知られてしまっているような身近な存在のおにいちゃんを「かっこいい」と思うことはあっても、「付き合いたい」と思ったことは一度もない。
もごもごと言いよどむわたしを見て、おにいちゃんは小さくため息をつく。
「……あっそ。おにいちゃんとは付き合えねーって?」
「つ、付き合えないっていうか……そんなの、考えたことないよ」
「ふーん。じゃ、今すぐ考えろ。おまえがどうしてもそのクズ野郎と別れられないっていうなら、俺が寝取ってやる」
言いながら、おにいちゃんはいつも着ているだぼだぼのパーカーを乱雑に脱ぎ捨てた。そして上半身裸という状態でわたしに近付き、息がかかりそうなほど間近に顔を寄せる。
「……はい? ね、ねとる?」
「ああ。ちゃんとした男に持ってかれるならまだしも、毎回懲りずにクソ男と付き合ってばっかりだもんな、おまえ。もう指咥えて見てるのやめるわ」
意味が分からず困惑しきりのわたしを、おにいちゃんはひょいっと持ち上げてベッドに運んだ。部屋の隅に置かれているそのベッドはおにいちゃんがいつも寝起きしている場所だから、そこに横たわった瞬間に嗅ぎ慣れたおにいちゃんの匂いがふわりと漂ってくる。
寝取る、という言葉と、彼の手でベッドに連れて行かれたことで、わたしはようやくおにいちゃんの発した言葉の意味を悟った。
「ね、寝取るってそういうこと!? 俺の体を覚えさせてやる的な!?」
「どこで拾ってきたんだよそのセリフ。まあ、そういうことだけど」
「ま……まさかおにいちゃん、わたしのことそういう目で見てたの!? う、うそだっ……!」
これっぽっちも予想していなかった展開に慌てるわたしを後目に、おにいちゃんはゆっくりと顔を近づけてくる。そして、わたしの着ているブラウスのボタンを一つずつゆっくりと外しながら囁いた。
「見てたよ、ずっと。でもアイリのやつが『ユイカに手出したら社会的に殺す』って言うから我慢してた」
「なっ……し、知らなかったのわたしだけ……!?」
今は遠く離れた地にいる親友の顔を思い浮かべながら、ボタンを外し終えてわたしの素肌を撫でようとするおにいちゃんの手を必死に振り払う。しかし、おにいちゃんはそれを難なく躱して、いとも簡単に下着まで外してしまった。
繊細なレース地のブラジャーを手にしたおにいちゃんは、なんだかとても楽しげな様子でわたしの腰のあたりにどっしりとのしかかる。そして、とてつもなく悪い顔をしてにたりと笑った。
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