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第2章
10.決死のプレゼント大作戦
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「ただいまぁ、ユキちゃん。いやー、今日は飲みすぎてもう、た……」
上機嫌で部屋に帰ってきたソウが、わたしの姿を確認した途端固まった。
酒のせいか、少し頬が赤い。そして表情は固まったまま、わたしから目を逸らさず、辛うじて扉だけ閉めてこちらに近づいてくる。
わたしはといえば、その視線に耐えられずに俯いた。
「……ボク、ほんまに飲みすぎたな。幻覚が見えるわ……」
そう呟きながら、手を拘束されたままのわたしの隣に座る。わたしはまだ顔を上げられず、ただ黙りこくっていた。
「えーっとこれは……猫ちゃん、やんな?」
「うっ……」
その通りだ。
昨日、アンナとリサが最終的に決めたのは、いわゆる「猫こすぷれ」というやつらしい。
猫とはいっても、猫らしいのは頭に付けた耳型のカチューシャと、ふわふわの毛が付いたグローブ、それにパンツに取り付けられた長い尻尾だけだ。あとは、胸の部分だけを覆うチューブトップと、白いニーハイソックス、それに後から足してもらったケープとスカートという出で立ちである。
露出の多いことだけでも恥ずかしいのに、仮にもかつて一国の王であった自分がこんな衣装を着ているという事実に、じりじりと追いつめられているようだ。穴があったら入りたい、というのはまさにこのことである。
ソウはまだ目の前の光景を受け入れられないらしく、まじまじとわたしの姿を見回している。その視線から逃げるように、わたしは昨日のアンナたちとの会話を思い出していた。
『うーん、どれもピンとこないわね……ここはいっそ、原点回帰かしら』
『げ、原点回帰って?』
『いかにも男が好きそうなコスプレでいくのよ! 出すとこ出して、どうぞ召し上がれって感じの!』
『なるほど! それでしたら、最初のメイド服ですかね?』
『ううん、それより良いのがあるのよー! ほら、この猫ちゃん衣装なんてどーお?』
『ぶっ……! そ、そんなの、ただの下着じゃないですか!』
『違うわよ、下着だと思うから下着に見えるのよ! ソウみたいな独占欲強いタイプには、こういう動物系で行った方がいいと思うのよねー!』
『確かに、いかにもプレゼントって感じしますもんね! ユキ様、着てみてください!』
『ま、待って! これはさすがにっ……!』
『問答無用! ほらほら、早く着替えてー!』
そして結局、一番避けたかったこの衣装に決定してしまったのだ。あの時の二人の勢いにはどう頑張っても勝てなかった。
それでもソウが喜ぶなら、と思って言う通りにしたのだが、さっきからソウは固まったまま何の反応も示さない。やはり、こんな破廉恥な衣装を着ているだなんて、引かれてしまっただろうか。
恐る恐るソウの顔を見上げると、いきなり強く抱き寄せられて、そのまま強引に口付けられた。
「んんっ……! そ、ソウ……?」
「……なに、これ」
「あ……っ、や、やっぱり、おかしいよね! ご、ごめんっ! すぐ着替えるからっ……!」
いたたまれなくなって逃げようとするが、チェーンで繋がれていることを忘れていた。チェーンが突っ張った勢いで体勢を崩して、ベッドに倒れ込んでしまう。
慌てて起きようとしたけれど、その上からなぜか真剣な表情をしたソウが覆いかぶさってきてそれは阻まれた。
ソウなら、この姿を見て笑ってくれると思ったのに。なんなんそれ、と笑い飛ばしてくれるのを期待していたのに。
しかし、目の前のソウの顔はいつになく真剣だ。
呆れられてしまっただろうか。幻滅されてしまっただろうか。羞恥と後悔が頭の中を駆け巡る。
「……これ、ボクにくれるん?」
「え……?」
「そやから、これがユキちゃんからのプレゼントなんか、って聞いとんの」
「あ……えっとっ……!」
ソウの言葉で、昨日教え込まれた台詞をようやく思い出した。『これだけは絶対言いなさいよ!』と、アンナに念を押された言葉だ。
ソウの目を見つめて、ゆっくりと頷いてから、意を決して口を開いた。
「う、ん……あ、あの……わ、わたしが、プレゼント……です」
言い終わった瞬間、再び唇を塞がれた。今度は簡単には離れずに、執拗に口付けられる。
ソウからお酒の匂いがする。その匂いにあてられたように、わたしも夢中になってその口付けに応えた。
しばらくの間そうしていると、ふいに唇が離れる。息を整えながらソウの表情を窺うと、先ほどより幾許か顔が赤いように思えた。
「もう……こんなんして、ユキちゃんどうなっても知らんよ?」
「え……?」
「プレゼントいうことは、ボクの好きにしてええんやろ? この可愛い猫ちゃんを」
「う……っ、そ、そういうことに、なるのかな……?」
ソウの息も荒い。どうやら、呆れてもないし、幻滅してもいないらしい。
そのことに安堵して、昨日教えられた言葉をもう一つ思い出した。さっきの台詞の次はこれを言え、と言っていたはずだ。
もちろん恥ずかしさはあったが、気が昂ぶっているせいか、今度はするりと口にできた。
「え、えっと……か、可愛がって、ください……ご主人様」
上機嫌で部屋に帰ってきたソウが、わたしの姿を確認した途端固まった。
酒のせいか、少し頬が赤い。そして表情は固まったまま、わたしから目を逸らさず、辛うじて扉だけ閉めてこちらに近づいてくる。
わたしはといえば、その視線に耐えられずに俯いた。
「……ボク、ほんまに飲みすぎたな。幻覚が見えるわ……」
そう呟きながら、手を拘束されたままのわたしの隣に座る。わたしはまだ顔を上げられず、ただ黙りこくっていた。
「えーっとこれは……猫ちゃん、やんな?」
「うっ……」
その通りだ。
昨日、アンナとリサが最終的に決めたのは、いわゆる「猫こすぷれ」というやつらしい。
猫とはいっても、猫らしいのは頭に付けた耳型のカチューシャと、ふわふわの毛が付いたグローブ、それにパンツに取り付けられた長い尻尾だけだ。あとは、胸の部分だけを覆うチューブトップと、白いニーハイソックス、それに後から足してもらったケープとスカートという出で立ちである。
露出の多いことだけでも恥ずかしいのに、仮にもかつて一国の王であった自分がこんな衣装を着ているという事実に、じりじりと追いつめられているようだ。穴があったら入りたい、というのはまさにこのことである。
ソウはまだ目の前の光景を受け入れられないらしく、まじまじとわたしの姿を見回している。その視線から逃げるように、わたしは昨日のアンナたちとの会話を思い出していた。
『うーん、どれもピンとこないわね……ここはいっそ、原点回帰かしら』
『げ、原点回帰って?』
『いかにも男が好きそうなコスプレでいくのよ! 出すとこ出して、どうぞ召し上がれって感じの!』
『なるほど! それでしたら、最初のメイド服ですかね?』
『ううん、それより良いのがあるのよー! ほら、この猫ちゃん衣装なんてどーお?』
『ぶっ……! そ、そんなの、ただの下着じゃないですか!』
『違うわよ、下着だと思うから下着に見えるのよ! ソウみたいな独占欲強いタイプには、こういう動物系で行った方がいいと思うのよねー!』
『確かに、いかにもプレゼントって感じしますもんね! ユキ様、着てみてください!』
『ま、待って! これはさすがにっ……!』
『問答無用! ほらほら、早く着替えてー!』
そして結局、一番避けたかったこの衣装に決定してしまったのだ。あの時の二人の勢いにはどう頑張っても勝てなかった。
それでもソウが喜ぶなら、と思って言う通りにしたのだが、さっきからソウは固まったまま何の反応も示さない。やはり、こんな破廉恥な衣装を着ているだなんて、引かれてしまっただろうか。
恐る恐るソウの顔を見上げると、いきなり強く抱き寄せられて、そのまま強引に口付けられた。
「んんっ……! そ、ソウ……?」
「……なに、これ」
「あ……っ、や、やっぱり、おかしいよね! ご、ごめんっ! すぐ着替えるからっ……!」
いたたまれなくなって逃げようとするが、チェーンで繋がれていることを忘れていた。チェーンが突っ張った勢いで体勢を崩して、ベッドに倒れ込んでしまう。
慌てて起きようとしたけれど、その上からなぜか真剣な表情をしたソウが覆いかぶさってきてそれは阻まれた。
ソウなら、この姿を見て笑ってくれると思ったのに。なんなんそれ、と笑い飛ばしてくれるのを期待していたのに。
しかし、目の前のソウの顔はいつになく真剣だ。
呆れられてしまっただろうか。幻滅されてしまっただろうか。羞恥と後悔が頭の中を駆け巡る。
「……これ、ボクにくれるん?」
「え……?」
「そやから、これがユキちゃんからのプレゼントなんか、って聞いとんの」
「あ……えっとっ……!」
ソウの言葉で、昨日教え込まれた台詞をようやく思い出した。『これだけは絶対言いなさいよ!』と、アンナに念を押された言葉だ。
ソウの目を見つめて、ゆっくりと頷いてから、意を決して口を開いた。
「う、ん……あ、あの……わ、わたしが、プレゼント……です」
言い終わった瞬間、再び唇を塞がれた。今度は簡単には離れずに、執拗に口付けられる。
ソウからお酒の匂いがする。その匂いにあてられたように、わたしも夢中になってその口付けに応えた。
しばらくの間そうしていると、ふいに唇が離れる。息を整えながらソウの表情を窺うと、先ほどより幾許か顔が赤いように思えた。
「もう……こんなんして、ユキちゃんどうなっても知らんよ?」
「え……?」
「プレゼントいうことは、ボクの好きにしてええんやろ? この可愛い猫ちゃんを」
「う……っ、そ、そういうことに、なるのかな……?」
ソウの息も荒い。どうやら、呆れてもないし、幻滅してもいないらしい。
そのことに安堵して、昨日教えられた言葉をもう一つ思い出した。さっきの台詞の次はこれを言え、と言っていたはずだ。
もちろん恥ずかしさはあったが、気が昂ぶっているせいか、今度はするりと口にできた。
「え、えっと……か、可愛がって、ください……ご主人様」
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