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「リオン殿下っ!!」
ソルズ城の門番に理由を話し、リオンのいる部屋へと通されたミーアは、扉を開け放つなり叫んだ。
中にいたリオンはミーアの姿を見ると同時に目を見開いたが、すぐに表情を険しくして問い詰める。
「ミーア……っ、なぜ戻ってきた!? 早く王都から逃げろと言っただろう!」
「リオン殿下に、急ぎ伝えなければならないことがあるのです! どうか聞いてください!」
緊迫した様子のミーアを見て、リオンは閉口する。そして、一歩だけ彼女に近づき「話してくれ」と言葉の続きを待った。
「リオン殿下と、ルカ殿下を賊に襲撃させたのは……トガミさんです。私はつい先ほど、王都の街中で彼に殺されそうになりました」
「な……っ!?」
「信じられないかもしれませんが、本当のことなのです! それにトガミさんは私だけでなく、いずれはリオン殿下の命も狙うでしょう。……そう、話していました」
リオンだけでなく、周囲に控えて様子を見守っていた他の側近たちや護衛も言葉を失うほど驚愕している。ミーアは声を張って、先ほど城下で起こった出来事を順々に説明した。
トガミが薬を偽ってミーアに飲ませていたことや、暗殺者らしき男との会話、そしてセイレン家の当主に助けられやっとの思いでここまで逃れてきたことまで早口で説明する。それから、リオンに向かって懇願するように叫んだ。
「きっともうすぐ、トガミさんもここまで辿り着いてしまいます! その前に、リオン殿下はどうか安全な場所に隠れてください!」
ミーアの叫びに、周囲がどよめく。これまでずっとリオンの近くにいたトガミが謀反を企てているなどということを、誰も信じることができないのだろう。
リオンは眉間に皺を寄せながら、ミーアに向き合った。
「信じたくは、ないが……ミーアの話は理解した。だが……」
「敵は、トガミさんだけではないのです! 彼はおそらく、暗殺に長けた者を引き連れて来ます。この城の人たちにも被害が及ぶ前に、早く逃げないと……!」
必死に説得するミーアに、リオンは真剣な顔で頷く。そして、彼は護衛たちに向かって声高々に指示を出した。
「護衛の者は、できるかぎりの装備をしたうえで陛下やルカたちの警護を頼む! それから、手の空いている者は城の皆を安全な場所へ導いてほしい!」
リオンの声に、傍に控えていた従者たちが一斉に動き出す。
しかし、リオン自身は彼らとともに逃げるどころか、堂々とした所作で部屋の隅に置かれていた剣を腰に携えはじめた。
「リオン、殿下……? 何をしているのですか? 早く、一緒に隠れないとっ……!」
「私は王子として……いや、トガミの主として彼と正面から向き合わねばならない。ここで彼を迎えよう」
その言葉に、ミーアは目を剥いた。
「なっ……、なりません! このことが露見した以上、トガミさんはきっとあなたを殺すつもりです! 今度こそ、殿下の命を狙って……っ」
「そんなことはどうでもいい。此度のことは、私が責任を持つべきだろう。ミーア、君は皆とともに早く逃げなさい」
ミーアの目を見もせずにそう言い放ったリオンに、彼女の体はおのずと震え出す。己の命など投げ出しても構わないとでも言うようなリオンの態度に、ミーアは我を忘れて憤った。
「そんな、こと……? リオン殿下ご自身は、どうなっても構わないというのですか!?」
必死の思いで叫ぶミーアを、リオンは苦しげな表情で見つめる。
「……その通りだ。ミーアや他の者たちが傷つけられるくらいなら、私一人が犠牲になる方がいい。君を守れるのなら、私の命などいくらでもくれてやろう」
覚悟を決めた眼差しでそう言ったリオンに、ミーアは思わず詰め寄る。そして、目に涙を滲ませながら彼に向かって叫んだ。
「誰かを大事に思うというのは、自分を蔑ろにしてもよいということではありません! 私は、あなたを守るためにここまで戻って来たのに……っ!」
ソルズ城の門番に理由を話し、リオンのいる部屋へと通されたミーアは、扉を開け放つなり叫んだ。
中にいたリオンはミーアの姿を見ると同時に目を見開いたが、すぐに表情を険しくして問い詰める。
「ミーア……っ、なぜ戻ってきた!? 早く王都から逃げろと言っただろう!」
「リオン殿下に、急ぎ伝えなければならないことがあるのです! どうか聞いてください!」
緊迫した様子のミーアを見て、リオンは閉口する。そして、一歩だけ彼女に近づき「話してくれ」と言葉の続きを待った。
「リオン殿下と、ルカ殿下を賊に襲撃させたのは……トガミさんです。私はつい先ほど、王都の街中で彼に殺されそうになりました」
「な……っ!?」
「信じられないかもしれませんが、本当のことなのです! それにトガミさんは私だけでなく、いずれはリオン殿下の命も狙うでしょう。……そう、話していました」
リオンだけでなく、周囲に控えて様子を見守っていた他の側近たちや護衛も言葉を失うほど驚愕している。ミーアは声を張って、先ほど城下で起こった出来事を順々に説明した。
トガミが薬を偽ってミーアに飲ませていたことや、暗殺者らしき男との会話、そしてセイレン家の当主に助けられやっとの思いでここまで逃れてきたことまで早口で説明する。それから、リオンに向かって懇願するように叫んだ。
「きっともうすぐ、トガミさんもここまで辿り着いてしまいます! その前に、リオン殿下はどうか安全な場所に隠れてください!」
ミーアの叫びに、周囲がどよめく。これまでずっとリオンの近くにいたトガミが謀反を企てているなどということを、誰も信じることができないのだろう。
リオンは眉間に皺を寄せながら、ミーアに向き合った。
「信じたくは、ないが……ミーアの話は理解した。だが……」
「敵は、トガミさんだけではないのです! 彼はおそらく、暗殺に長けた者を引き連れて来ます。この城の人たちにも被害が及ぶ前に、早く逃げないと……!」
必死に説得するミーアに、リオンは真剣な顔で頷く。そして、彼は護衛たちに向かって声高々に指示を出した。
「護衛の者は、できるかぎりの装備をしたうえで陛下やルカたちの警護を頼む! それから、手の空いている者は城の皆を安全な場所へ導いてほしい!」
リオンの声に、傍に控えていた従者たちが一斉に動き出す。
しかし、リオン自身は彼らとともに逃げるどころか、堂々とした所作で部屋の隅に置かれていた剣を腰に携えはじめた。
「リオン、殿下……? 何をしているのですか? 早く、一緒に隠れないとっ……!」
「私は王子として……いや、トガミの主として彼と正面から向き合わねばならない。ここで彼を迎えよう」
その言葉に、ミーアは目を剥いた。
「なっ……、なりません! このことが露見した以上、トガミさんはきっとあなたを殺すつもりです! 今度こそ、殿下の命を狙って……っ」
「そんなことはどうでもいい。此度のことは、私が責任を持つべきだろう。ミーア、君は皆とともに早く逃げなさい」
ミーアの目を見もせずにそう言い放ったリオンに、彼女の体はおのずと震え出す。己の命など投げ出しても構わないとでも言うようなリオンの態度に、ミーアは我を忘れて憤った。
「そんな、こと……? リオン殿下ご自身は、どうなっても構わないというのですか!?」
必死の思いで叫ぶミーアを、リオンは苦しげな表情で見つめる。
「……その通りだ。ミーアや他の者たちが傷つけられるくらいなら、私一人が犠牲になる方がいい。君を守れるのなら、私の命などいくらでもくれてやろう」
覚悟を決めた眼差しでそう言ったリオンに、ミーアは思わず詰め寄る。そして、目に涙を滲ませながら彼に向かって叫んだ。
「誰かを大事に思うというのは、自分を蔑ろにしてもよいということではありません! 私は、あなたを守るためにここまで戻って来たのに……っ!」
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