【R18】仕方ないから、結婚してやる~ツンデレ御曹司と、傷の舐め合い契約婚~

染野

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26.新婚生活のゆくえ(2)

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「正直なところ、確かに違和感はありますが……今までもずっと傍で過ごしてきたので、いい意味であまり変わらないですね。緊張もしませんし」
「そっかぁ。でも、飾らずに素のままでいられるって一番大事なことだもんね」
「あはは……そうですねぇ」

 曖昧に笑いながら、藤野さんが淹れてくれたコーヒーをすする。確かに素のままでいられることは大事だが、本当の夫婦なら少しくらい緊張してドキドキする瞬間があるのだろう。まだ晶との同居生活は始まっていないが、緊張どころか喧嘩ばかりする未来しか見えないのが悲しい。

「まあ、びっくりしたけど、二人が幸せそうでよかったよ。美雨ちゃん、前の会社でのことや転職のことで辛かっただろうし」
「あ……そう、ですね。そのことなんですけど、来月からは私も笹屋飴の本社で働くことになったんです」

 結婚の承諾を得たあと、また別の日に改めて笹屋飴本舗の社長である晶のお父さんに話をしに行った。
 私も本社で働いて会社のことを知りたい、とお願いをしたところ、当初お父さんは「晶の妻になるのにわざわざうちで働かなくてもいい」と渋い顔をしていた。しかし、それではそもそもの契約が成り立たないし、今後晶との契約が切れたとき私の手元に何も残らなくなってしまう。
 主婦としてずっと家にいるのは性に合わないし、私も会社のためにできることをしたい――と、とっさに思いついた嘘を口にすれば、お父さんは目を潤ませながら「やっぱり美雨ちゃんがお嫁さんになってくれてよかった」と私を抱きしめたのだ。こんなに優しいおじさんを騙してしまったと罪悪感に襲われながらも、ひとまず就職先が決まったことに安堵した。

「へええ、美雨ちゃんも笹屋飴さんで働くんだ! もしかして、すぐそこの本社で?」
「はい、そうです。今後はもっと頻繁にコーヒーを飲みに来ると思うので、よろしくお願いします!」
「それは嬉しいなぁ。晶くんも嬉しいでしょ、こんなに可愛い奥さんと同じ職場で働けるなんて! ああ、かえって仕事に集中できなくなっちゃうかな」
「はは……そうですね」

 棒読みで返事をする晶をこっそり睨みつける。どうせ演技をするならもっと気持ちを込めろ、と心の中で悪態をついた。

「しかし、本当にびっくりすることばかりだなぁ。どうりで、しばらく美雨ちゃんがここに来なかったわけだ」
「すみません、いろんな手続きとか準備でバタバタしてて」
「いや、いいんだよ。晶くんは変わらず顔を出してくれてたから、美雨ちゃんが元気にしてるのは知ってたしね。でも、まさか結婚したとは……晶くん、もっと早く教えてくれればよかったのに」
「はは、そうですね。なんだか照れくさくて」

 作り笑顔を浮かべながら晶がそう言うと、藤野さんはにやにやしながら「それもそうかぁ」と納得した。
 私たちの突然の結婚騒動に周囲の人たちはそろって驚き、「どうしてそんなに急に?」だとか「そんな話一度もしてなかったのに」と疑問を抱いていた。そんな疑問を持つ人たちを一様に黙らせることができる魔法の言葉が、さっき晶が口にした「照れくさい」の一言なのだ。
 ずっと好きだったんだけど、やっぱり照れくさくて――とちょっと伏し目がちに言うだけで、みんなが「そっかそっかぁ」と生暖かい視線を送ってくれるのだ。幼馴染同士での結婚ということで、そう言うだけでそれぞれが勝手にストーリーを想像して納得する。そうなるとそれ以上深く追及されることもなく、とっても楽だった。

「二人はもう一緒に住んでるの?」
「いえ、まだです。来月から契約が……じゃなくて、私の仕事が始まるので、同じタイミングで引っ越す予定なんです。と言っても、すぐ隣なのであんまり実感はないんですけどね」
「え……それじゃあもしかして、晶くんの実家に?」

 はい、と頷くと、藤野さんはまた眼鏡の奥で目を丸くした。

「実家ってことは、晶くんのご両親もいらっしゃるんでしょ?」
「あ、いえ。晶のお父さんお母さんは、これを機に別荘で生活をするとかで……」

 苦笑いしながらコーヒーに口をつける。すると私の代わりに晶が話を続けた。

「もともと、俺の両親は仕事の都合で家を空けることが多くて。結婚して二人でどこか部屋を借りると言ったら、自分たちは別荘で暮らすから実家に住みなさい、とごり押しされたんですよ」
「わあ、別荘かぁ。さすが笹屋飴さんの社長ご夫妻だね」
「いえ、たいしたものじゃないですよ。年寄り二人だから、こぢんまりした別荘のほうが暮らしやすいと言っていました」

 ははは、とよそいきの笑みを浮かべながら晶が話す。
 彼の話したとおり、本当はマンションの一室を借りる予定でいたのだが、なんやかんやで晶の実家で暮らすことになってしまった。晶のお母さんいわく、自分たちは仕事で遠方に行くことが多いから実家を空き家状態にするのも気が引けるし、すぐ隣に美雨ちゃんのお父さんお母さんがいらっしゃった方が安心でしょ! ――とのことだ。
 私としてはできるだけ実家から離れたかったのだが、美晴と同じ屋根の下で暮らすわけでないならまだ大丈夫だ。仕事もあるわけだし、隣とはいえ家が違えば顔を合わせることもそうそうないだろう。それに、晶の実家は広いからルームシェアにはぴったりだ。

「じゃあ、来月から新婚生活が始まるんだ。楽しみだねぇ」
「あはは……そうですね」

 笑って返したけれど、正直なところ不安が大きい。新しい職場に対する不安もあるが、何より晶との同居生活がうまくいくかわからない。一緒に住み始めてすぐ喧嘩ばかりして、それに耐えられなくなって家を飛び出すようなことがないよう願うばかりだ。
 隣でまた胡散臭い笑顔を浮かべている晶を見ながら、小さくため息をついた。
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