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33.初夜、しとく?(5)
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「やっ……やめるとは、言っていない」
「へ? 何を?」
「だ、だからその、せっ……セックスだよ!」
震える声で叫ぶ晶を、ぽかんとした顔で見つめる。何を言ってるんだこいつは、と彼の様子を窺ってみたが、そうしたところで何を考えているのかさっぱりわからなかった。
「えぇ……? しないって言ったじゃん」
「だ、だからそれは、美雨を練習台にはしたくないという意味で」
「同じじゃない?」
「同じじゃない! そ、その……前は初めてだったし、酔っていたのもあって、おまえに無理をさせたから……なんというか、やり直したいと思っていたんだ」
真剣な顔で話す晶を、じっと見つめ返す。頬を朱に染める彼を見るかぎり、どうやらそれは本心のようだ。
「要するに、もう一回私とセックスしたかったってこと?」
「お、おまえはまた、そういうあけすけな言い方を……!」
「違うの?」
「ぐっ……! ああ、そうだよ! 悪いか!?」
ついには逆ギレし始めた晶に、思わず笑ってしまいそうになる。必死で笑いを堪えてみたが、彼にはしっかりバレていたようで「笑うなっ!」とまた怒られた。そう言われても面白いのだから仕方ない。
しかし、そういうことなら話は早い。さっき話したように、女性と触れ合うことに慣れていけばそのうち恐怖心が薄れていって、トラウマを克服できるかもしれない。晶にその気があるというなら、試してみる価値はあるだろう。
まだ顔を真っ赤にしている晶と向かい合い、少しずつ顔を寄せていく。そしてそっと目をつぶれば、「えっ」という彼の戸惑った声が聞こえた。
それでも目を閉じたままじっとしていると、さすがの晶でもその意図を察したようで、そのうち震える手が両肩に添えられる。そして、少ししたあとにやんわりと唇同士が触れ合った。
「……なんだ。やればできるじゃん」
「う……こ、これくらいなら……」
目を開けると、難しい顔をしながら固まっている晶がいた。そんな彼の手を引いて、綺麗に整えられたベッドの上へと誘う。今日はお互いもうお風呂を済ませたし、あとは寝るだけの状態だし、やり直しセックスをするにはぴったりのタイミングだ。
「そういえば、私たちもう結婚してるんだもんね。これが初夜ってことになるのかな」
「なっ……わ、わざわざそんなふうに言うな! 緊張するだろ!!」
「あ、そう? ごめんごめん」
やっぱり童貞は何かと繊細なようだ。厳密に言うと晶はもう童貞ではないのだが、初夜という言葉を口にしただけで緊張してしまうのだからほぼ童貞ということでいいだろう。現に、酔っ払っていたときのあの一度しか経験していないのだ。
緊張気味の晶と、ベッドの上で座ったまま向かい合う。今度は何もせずとも晶の方からそっと私の肩を抱き、そのまま柔らかいキスを落とした。まだ動きがぎこちないが、前よりはいくらかスムーズだった気がする。
「あ……あの、前みたいに、俺のペースで進めてもいいか? やっぱり急に何かされると、少し……」
「うん、いいよ。怖くなったら途中でやめてもいいし」
その申し出に頷くと、彼はほっとしたように表情を緩めた。やはり私が相手とは言え、強引に体を触られることに抵抗があるようだ。彼のトラウマとなった出来事を思えば、それも当然である。私だってもし晶のような経験をしていたら、異性が怖くてまともに生活ができなくなっていたに違いない。
「それで、あの……俺なりに、やり方を調べたんだ。どうすれば、美雨に負担のかからない快適な行為ができるか」
「へっ? 快適……?」
「ああ。前は何もわからなかったし、俺は経験がないから……その、美雨はたいして気持ちよくなかっただろ? それが悔しくて、ネットでいろいろ調べた。だから、今日はそれを実践したい」
まるで仕事中のように真面目な顔で話す晶だが、私は反応に困って目をぱちくりさせるだけだった。思っていた反応と違ったのか、晶は怪訝な様子でじっと私を見る。
「……なんだ、その顔は。素人が下手なことをするな、とでも言いたげだな」
「え? いや、そうじゃないけど。なんだかかんだ言ってたくせに、私とまたセックスするつもりだったんだなーって思っただけ」
あの夜の出来事は、私からしてみれば完全に”一夜の過ち”だった。酔っ払って晶に絡んだところまではいいが、そのあと「童貞をもらってあげよう」なんてとんでもない発言をしてしまったことを思い出すと、いまだに頭を抱えたくなる。
しかし、それがあったからこそ今こうして平穏な生活を送れているのだと思うと、あのときの私は決して間違ってはいなかったとも思うのだ。幼馴染である晶と男女の関係を持ってしまったのは不本意だったにしても、そのあと彼との接し方に戸惑うことはなかった。普通はああいった過ちを犯した後は互いに気まずい思いをするはずだが、前と変わらず気楽に話ができるし、何なら一緒に暮らすことにだってさして抵抗がない。
きっと晶も同じことを考えているのではと思ってはいたが、まさか「次は美雨に負担がかからないようにセックスがしたい」と調べものまでしているとは思わなかった。あの行為が彼にとって嫌な思い出になっていなかったことにはほっとしたが、そこまで乗り気になられると逆に引いてしまう。
じっとりとした目をして晶を見つめれば、彼は慌てふためきながら弁解を始めた。
「ち、ちがっ、そういう意味じゃないっ! も、もし、また急にああいうことがあっても困らないようにと思っただけで……!」
「ふぅーん?」
「ぐっ……だ、だからその、にやけた顔で俺を見るのはやめろっ!」
言い訳をしてはいるが、それはつまり「二度目があったらこうしよう」とこそこそ計画していたということだろう。しかも、その相手は私を想定していたというのもびっくりだ。
とはいえ二度目を期待するくらいには、あの”過ち”は晶にとってまんざらでもなかったということだ。酔っていたせいもあるが、私もあの日の行為はそこそこ――いや、かなり楽しかった。いつも生意気な晶を私が支配しているかのような征服感も、何も知らない彼に一からすべてを教える優越感も、今まで味わったことのないものだったのだ。
「へ? 何を?」
「だ、だからその、せっ……セックスだよ!」
震える声で叫ぶ晶を、ぽかんとした顔で見つめる。何を言ってるんだこいつは、と彼の様子を窺ってみたが、そうしたところで何を考えているのかさっぱりわからなかった。
「えぇ……? しないって言ったじゃん」
「だ、だからそれは、美雨を練習台にはしたくないという意味で」
「同じじゃない?」
「同じじゃない! そ、その……前は初めてだったし、酔っていたのもあって、おまえに無理をさせたから……なんというか、やり直したいと思っていたんだ」
真剣な顔で話す晶を、じっと見つめ返す。頬を朱に染める彼を見るかぎり、どうやらそれは本心のようだ。
「要するに、もう一回私とセックスしたかったってこと?」
「お、おまえはまた、そういうあけすけな言い方を……!」
「違うの?」
「ぐっ……! ああ、そうだよ! 悪いか!?」
ついには逆ギレし始めた晶に、思わず笑ってしまいそうになる。必死で笑いを堪えてみたが、彼にはしっかりバレていたようで「笑うなっ!」とまた怒られた。そう言われても面白いのだから仕方ない。
しかし、そういうことなら話は早い。さっき話したように、女性と触れ合うことに慣れていけばそのうち恐怖心が薄れていって、トラウマを克服できるかもしれない。晶にその気があるというなら、試してみる価値はあるだろう。
まだ顔を真っ赤にしている晶と向かい合い、少しずつ顔を寄せていく。そしてそっと目をつぶれば、「えっ」という彼の戸惑った声が聞こえた。
それでも目を閉じたままじっとしていると、さすがの晶でもその意図を察したようで、そのうち震える手が両肩に添えられる。そして、少ししたあとにやんわりと唇同士が触れ合った。
「……なんだ。やればできるじゃん」
「う……こ、これくらいなら……」
目を開けると、難しい顔をしながら固まっている晶がいた。そんな彼の手を引いて、綺麗に整えられたベッドの上へと誘う。今日はお互いもうお風呂を済ませたし、あとは寝るだけの状態だし、やり直しセックスをするにはぴったりのタイミングだ。
「そういえば、私たちもう結婚してるんだもんね。これが初夜ってことになるのかな」
「なっ……わ、わざわざそんなふうに言うな! 緊張するだろ!!」
「あ、そう? ごめんごめん」
やっぱり童貞は何かと繊細なようだ。厳密に言うと晶はもう童貞ではないのだが、初夜という言葉を口にしただけで緊張してしまうのだからほぼ童貞ということでいいだろう。現に、酔っ払っていたときのあの一度しか経験していないのだ。
緊張気味の晶と、ベッドの上で座ったまま向かい合う。今度は何もせずとも晶の方からそっと私の肩を抱き、そのまま柔らかいキスを落とした。まだ動きがぎこちないが、前よりはいくらかスムーズだった気がする。
「あ……あの、前みたいに、俺のペースで進めてもいいか? やっぱり急に何かされると、少し……」
「うん、いいよ。怖くなったら途中でやめてもいいし」
その申し出に頷くと、彼はほっとしたように表情を緩めた。やはり私が相手とは言え、強引に体を触られることに抵抗があるようだ。彼のトラウマとなった出来事を思えば、それも当然である。私だってもし晶のような経験をしていたら、異性が怖くてまともに生活ができなくなっていたに違いない。
「それで、あの……俺なりに、やり方を調べたんだ。どうすれば、美雨に負担のかからない快適な行為ができるか」
「へっ? 快適……?」
「ああ。前は何もわからなかったし、俺は経験がないから……その、美雨はたいして気持ちよくなかっただろ? それが悔しくて、ネットでいろいろ調べた。だから、今日はそれを実践したい」
まるで仕事中のように真面目な顔で話す晶だが、私は反応に困って目をぱちくりさせるだけだった。思っていた反応と違ったのか、晶は怪訝な様子でじっと私を見る。
「……なんだ、その顔は。素人が下手なことをするな、とでも言いたげだな」
「え? いや、そうじゃないけど。なんだかかんだ言ってたくせに、私とまたセックスするつもりだったんだなーって思っただけ」
あの夜の出来事は、私からしてみれば完全に”一夜の過ち”だった。酔っ払って晶に絡んだところまではいいが、そのあと「童貞をもらってあげよう」なんてとんでもない発言をしてしまったことを思い出すと、いまだに頭を抱えたくなる。
しかし、それがあったからこそ今こうして平穏な生活を送れているのだと思うと、あのときの私は決して間違ってはいなかったとも思うのだ。幼馴染である晶と男女の関係を持ってしまったのは不本意だったにしても、そのあと彼との接し方に戸惑うことはなかった。普通はああいった過ちを犯した後は互いに気まずい思いをするはずだが、前と変わらず気楽に話ができるし、何なら一緒に暮らすことにだってさして抵抗がない。
きっと晶も同じことを考えているのではと思ってはいたが、まさか「次は美雨に負担がかからないようにセックスがしたい」と調べものまでしているとは思わなかった。あの行為が彼にとって嫌な思い出になっていなかったことにはほっとしたが、そこまで乗り気になられると逆に引いてしまう。
じっとりとした目をして晶を見つめれば、彼は慌てふためきながら弁解を始めた。
「ち、ちがっ、そういう意味じゃないっ! も、もし、また急にああいうことがあっても困らないようにと思っただけで……!」
「ふぅーん?」
「ぐっ……だ、だからその、にやけた顔で俺を見るのはやめろっ!」
言い訳をしてはいるが、それはつまり「二度目があったらこうしよう」とこそこそ計画していたということだろう。しかも、その相手は私を想定していたというのもびっくりだ。
とはいえ二度目を期待するくらいには、あの”過ち”は晶にとってまんざらでもなかったということだ。酔っていたせいもあるが、私もあの日の行為はそこそこ――いや、かなり楽しかった。いつも生意気な晶を私が支配しているかのような征服感も、何も知らない彼に一からすべてを教える優越感も、今まで味わったことのないものだったのだ。
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