【R18】仕方ないから、結婚してやる~ツンデレ御曹司と、傷の舐め合い契約婚~

染野

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40.雨女と晴れ女(4)

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「その指輪、とっても素敵! 美雨は指が綺麗だから、シンプルなデザインが似合うね」
「そう、かなぁ……私は、もうちょっと捻ったデザインのほうが好きなんだけど」

 思わずそうこぼすと、美晴はちょっと驚いたように目を剥いた。やばい、と慌てて口を噤んだけれど、彼女は訝しげな顔で首を傾げる。

「指輪、あんまり気に入ってないの……?」
「あっ……いや、そういうわけじゃないよ! その、個人的な意見を言っただけで」
「それ、ちゃんと晶くんに言った? だめだよ、大事なことはしっかり二人で話さないと。美雨は昔から一人で抱え込むタイプだけど、我慢ばかりしてると息苦しいでしょ」

 ――今まさに、我慢してるんだけどな。
 もやもやした気持ちが芽生えたが、それを表には出さないよう蓋をする。美晴は私のことを心配してそう言っているのだと頭ではわかっているのに、晶と契約結婚したことを批難されたような気がしてしまった。美晴の言うことはいつも正しくて、だからこそ私の心にぐさりと刺さるのだ。

「ゆ……指輪なんか、なんだっていいし。それにこれは晶のお金で買ってくれたものだから、文句なんてないよ」
「でも、結婚指輪は二人のものなんだから」
「別にいいんだってば。私のことはいいから、美晴の話してよ」

 無理やり話題を変えようとする私に、美晴が眉根を寄せる。不審に思われたのではないかと一瞬ひやっとしたが、彼女は少し考え込む仕草を見せてから「そういえばアメリカでね……」と向こうでの生活について話し始めた。先ほどより気まずい空気が流れる中、その話に相槌を打ちながらなんとかパスタを食べ終える。
 そのあとはメインディッシュである鰆とトマトのソテーが運ばれてきて、私はナイフとフォークを手に黙々とそれを食べる。おいしいね、という美晴の声に頷きながらも、味がよくわからなかった。
 そして最後に、デザートのティラミスとコーヒーがサーブされる。これを食べ終えたら帰れる、とほっとした気持ちでいると、そんな私に向かって美晴がまた問いかけてきた。

「……あのさ、美雨。話したくなかったら、話さなくていいんだけど」
「え……な、なに?」
「美雨、いきなり転職したでしょ? もしかして……前の会社で、なにかあったの?」

 その質問に、ぴしりと動きが止まる。一番聞いてほしくなったことを聞かれ、心のうちで「だから美晴と会うのは嫌なんだよ」と悪態をついた。

「お母さんに聞いたよ。急に仕事辞めるって言い出して、転職活動してたんだって?」
「う、ん……」
「私がアメリカに行く前、ちょっとだけ話してくれたよね。働きやすくていい会社だし、その……同じ職場に、付き合ってる人がいるって」

 いつもズバズバとものを言う美晴でもさすがに口に出しづらいのか、ところどころ言葉を選びながら私に問いかけてくる。でも、そんな配慮をするくらいなら最初から何も聞いてくれないほうがずっといい。
 こうやって、私のことをすべて把握しようとしてくるところも苦手だ。姉妹だからって、なんでも共有すればいいというわけではない。華々しい経歴ばかりの美晴と違って、私の人生には何ひとつ誇れることがないのだ。

「あー……その話、美晴にしたっけ」
「うん。彼氏いるのかーってしつこく聞いたら教えてくれたじゃん」
 
 そうだった、と思わず頭を抱えたくなる。当時の自分はどうして美晴にそんな話をしてしまったのだろうと後悔した。しかし、美晴の目の前でそんな素振りはできない。平静を装って、当たり障りのないことだけ話すことにする。

「付き合ってる人はいたけど、いろいろあって別れたんだ。それに、前の会社は残業が多かったから転職したくて」
「そっか……じゃあ、その人と別れたことが原因で転職したわけじゃないのね?」

 まるで私を追い詰めるような質問に、だんだんと淀んだ感情が渦巻いていく。
 そっとしておいてくれればいいのに、どうしてそこまで私のことを把握したがるんだろう――美晴にそう言ったところで、きっと「だって姉妹じゃない」と当然のように返されるだけだ。
 黙り込んだ私に、美晴がまた眉根を寄せる。そして畳みかけるように言葉を続けた。

「ねえ、どうして別れたの? 美雨、前に言ってたでしょ。今の彼氏は職場の先輩だから落ち着きがって、とってもいい人だって。なのに別れてすぐ晶くんと結婚するなんて、その人に何か嫌なことでもされたの?」
「それ、は……」
「私、ずっとそばで美雨と晶くんを見てたからわかるよ。きっと何か深い訳があって、二人は結婚したんじゃないの? 違う?」

 その言葉に、思わず目を見開く。目の前には不安げな眼差しをした美晴がいて、彼女が本気で私を心配しているのが嫌でもわかった。
 でも、私は美晴にそんな目をして心配してもらいたいわけじゃない。対等な人間として扱ってほしいだけなのだ。
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