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番外編

私と彼と制服と 前編

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「ただいまー」
「おかえりなさい、大和さん! ……あれ? どうしたんですか、制服のままで」
 
 夕方、今日は早あがりの平原さんが帰ってきた。私は休日だったから、これからちょうど夕飯を作ろうとしていた時のことだ。エプロンを片手に持ったまま玄関まで迎えに出ると、なぜか平原さんは運転手の制服姿のまま帰ってきたので少し驚きながら尋ねる。
 
「実は、出勤したとき服にコーヒー零しちゃって。それじゃちょっと恥ずかしいから、制服で帰ってきたんだ」
「そうだったんですね。じゃあ染み落とすので、汚れちゃったの貸してください」
「ううん、自分でやるよ」
「そうですか? じゃあ、私はご飯の準備しますけど……ふふ、なんだか新鮮ですね」
 
 もうすっかり見慣れた彼の制服姿だが、家の中だとまた違って見える気がした。
 平原さんの勤めるバス会社の制服は、紺地で袖と襟に白い線が入ったジャケットと、同じく紺地のスラックスに白のワイシャツ、そして臙脂色のネクタイだ。仕事中はそれに加えて社章の入った帽子を被っているけれど、さすがにそれは会社に置いてきたらしい。
 相変わらずかっこいいなと思って見惚れていると、靴を脱いだ平原さんは私の腰をぐっと自分の方に引き寄せた。
 
「そんなに見つめられたら、ちょっと照れるな」
「……うそつき。屋代さんが言ってましたよ、大和さんはいくら女の人に熱視線を向けられてもちっとも動じないって」
「倫は別だよ。ていうか、そんな話いつ聞いたの?」
「この前、一緒にご飯食べに行った時です。大和さんがトイレに行ってる間に」
「もう、屋代さんは余計なことしか言わないな」
 
 そう言いながらも平原さんは笑っている。つられて私も笑うと、彼はすっと身を屈めて私の唇に触れるだけのキスをした。
 
「……もう、可愛い。なんでこんなに可愛いんだろう、倫は」
「え……それは大和さんの趣味が悪いからです」
「そんなことないよ。だってみんな言うよ、奥さん可愛いねって」
「そう言うしかないんじゃないですか? 社交辞令ですよ」
「もう、卑屈なのは相変わらずだね? 少しは直ったかなって思ったけど」
 
 呆れたようにそう言ったくせに、平原さんはもう一度私にキスをする。今度は触れるだけではなくて、唇を優しく食んでからぬるりと舌を差し込んできた。大人しくそれを受け入れて、入り込んできた平原さんの舌をなぞる。同時に彼の唾液も口内に流れ込んできたけれど、嫌悪感はまったく無くて、私はそれをこくんと飲み込んだ。
 
「っ……、ああ、それ好き」
「んっ、え……?」
「倫が、そうやって俺の飲んでくれるのすごく好き……興奮する」
「あっ……ま、待って大和さんっ!」
 
 熱い視線で私を見つめたかと思うと、平原さんの手のひらが私の体中を撫でまわし始めた。これではおかえりのスキンシップの範疇を越えてしまう。慌ててその手を止めようと思ったのに、もう片方の手でやんわり押さえられて再び口付けられた。
 
「んんっ、だめ、ご飯作らないとっ……んぅっ」
「いいよ、あとで。んっ……、まだ時間あるし、先に倫を食べたい」
「なっ……! あっ、ちょ、ちょっと……!」
 
 何が平原さんのスイッチを押してしまったのかは分からないが、彼はもうやる気満々だ。にこにこと笑いながら、でもどこか飢えた獣のような怪しい目をしている。この目をしているときは、私が何を言っても駄目だ。
 通勤用の鞄は玄関に置きっぱなしのままで、平原さんは軽々と私を抱き上げた。そして、まだ許可も何もしていないのにすたすたと寝室に向かってしまう。
 
「ちょ、ちょっと待ってください! 私、いいなんて言ってません!」
「大丈夫だよ、ちゃんと気持ちよくするから」
「はっ……!? だ、だって昨夜もしたじゃないですか! もう十分じゃ……!」
「え、もしかして倫は俺とするの飽きちゃったの? ショックだなぁ、一応マンネリにならないようにしてきたつもりなんだけど」
 
 そういう問題ではないのだが、平原さんは何やら考え込んでしまった。論点こそずれているけれど、彼を止められたので良しとしよう。
 この隙に逃げ出そうと思って彼の腕の中でもぞもぞと動いていると、それまで黙っていた彼が突然明るい声を出した。
 
「良いこと考えた!」
「……え?」
「ねえ倫、確か高校の時の制服とってあるよね? 今日はそれ着てしよう!」
「はぁっ!?」
 
 絶対良からぬことを考えるとは思ったが、平原さんは私の予想の何倍もぶっ飛んだことを提案してきた。
 確かに平原さんの制服姿はかっこいいし思わずときめいてしまったけれど、私が昔の制服を着たところでただの痛い女だ。そもそも、あの頃とは多少体型も変わったし着れないんじゃないだろうか。スカートがきつくて入りませんでしたーとか、ブレザーのボタンが閉まりませんでしたーとか、そんな辱めに遭いたくはない。
 
「い、嫌ですよ! 私、何歳だと思ってるんですか!?」
「二十五歳」
「そうです! 高校卒業して、もう七年も経ってるんです! あれは着るためにとってあるんじゃなくて、ただの思い出として……!」
「いいじゃん、たまには。コスプレだと思ってさ」
「なおさら嫌です!!」
「もう、つれないなぁ。昨夜より、もっと気持ちよくしてあげるよ?」
 
 そう言って、平原さんは私の体をベッドに横たえた。デニムのパンツ越しにつうっと太ももをなぞられて、それだけで鳥肌が立つ。そのまま優しい手つきで腰を撫でられたら、昨夜も彼に気持ちよくしてもらったことを体が思い出してしまう。
 
「んっ、ああっ……」
「ね、いいでしょう? ちょっとだけ。倫の制服姿、久しぶりに見たいなぁ」
「で、でもっ……着れなかったら、恥ずかしい……」
「大丈夫だよ。そんなに太ってないし、もしきつくなっててもそれはそれで興奮する」
「へ、へんたいっ……!」
「うん、そうだよ? 倫に対してだけね」
 
 耳元でそんな風に甘く囁かれたら、どう頑張ったって絆されてしまう。すでに体の中心は熱を持って、いつものように平原さんに弄られるのを期待している。彼のことを変態だと言ったけれど、これでは私だって十分変態だ。
 
「ね、お願い。いつもよりもっと気持ちよくしてあげる。倫がすぐイっちゃうとこたくさん弄って、倫の気持ちいいこといっぱいするから」
「んっ、やぁっ……!」
「それで倫がイったら、最後は俺ので埋めて中にいっぱい出してあげる。好きでしょう? 中から溢れちゃうくらい出されるの。昨夜も、それでイっちゃったしね?」
「や、いやっ、ちがっ……!」
「ふふっ、嘘つき。いっぱいイってぐちゅぐちゅになったところに俺の出されて、それだけでまたイってたくせに。中にびゅうって出されるの、大好きだもんね?」
「いやぁ、もういやっ、もう言わないでぇっ……!」
 
 平原さんの紡ぐ卑猥な言葉だけで、陰部が濡れてしまうのが自分でも分かった。その言葉通りにしてほしくて、でも直接的な刺激は与えられなくてもどかしい。早く触ってほしくてたまらない。どうしてこんなに我慢しているのか、自分でも分からなくなっていた。
 すっかり彼に支配されてしまって、羞恥心なんかどうでもよくなる。クローゼットをごそごそと漁っている彼の姿を見つめながら、足を摺り合わせて熱をやり過ごしていた。
 
「ああ、あった。倫、着てくれるよね?」
 
 仕事着のままの平原さんが、ハンガーにかけられていた私の制服を手にして問いかけてくる。濃紺のブレザーとチェック柄のスカート、白いブラウス、それにストライプの入った赤のリボンタイまでちゃんとある。こんなことになるんだったら、残しておくんじゃなかった。
 心の中で後悔したけれど、それよりも早く彼と愛し合いたい気持ちの方が大きかった。まんまと彼の策にはまってしまったと思いながら、制服を受け取ってのろのろと着替える。まさかこの年になって制服を着るなんて、誰かに知られたら恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
 
 入らなかったらどうしようと思ったけれど、意外にすんなり着ることができた。ブラウスのボタンは少しきつかったものの全部閉められたし、スカートも履ける。三年間ほぼ毎日着ていたものだから、当時のことを思い出してなんだか懐かしい気持ちになった。
 
「わあ、懐かしい。倫、全然変わらないね。可愛い」
「そ、それって褒めてるんですか……?」
「もちろんだよ。あ、あとこれも履いてね」
 
 次に平原さんが手渡してきたのは、校章の入った紺のハイソックスだ。制服と一緒にこれもしっかりとってあったらしい。変な所で真面目な自分の性格が嫌になる。
 黙ってそれも受け取って、ベッドに腰掛けて履く。そして「履きましたけど」と彼を見上げた瞬間、いきなりベッドに押し倒され、そのまま荒っぽく口付けられた。
 
「んぅっ、ん、んっ……!」
「……っは、ん、可愛い、倫……なんかいけないことしてるみたい」
「や、やっぱり変態ですっ、大和さん……っ、んんっ……!」
「倫限定なんだから、いいでしょう? はあ、もう今すぐにでも入れたいけど……いっぱい気持ちよくしてからって約束したからね」
 
 そんな約束は律儀に守らなくていいのに。
 そう思ったのに、平原さんは私の手を取って床に立たせると、スカートの中に手を突っ込んでするりとパンツだけを脱がせた。
 
「ひゃあっ!? や、ちょっと大和さん……!?」
「倫、少し足開いて。舐めてあげるから」
「いっ、嫌ですっ! だってまだお風呂っ……」
「言うこと聞かないなら、その制服姿写真に撮るけどいいの?」
「なっ……!? そ、そんなのひどいっ」
「ふふっ、嫌でしょう? じゃあ大人しく足開いてください、?」
 
 もう駄目だ。平原さんの言う通りにしないと、いつまで経っても終わらない。
 諦めにも似た気持ちで、私はおずおずと肩幅くらいまで足を開いた。パンツは足元でくしゃくしゃになっているし、スカートは履いているけれどその中はすかすかするし、違和感しかない。
 そしてぎゅっとスカートを握って恥ずかしさに耐える私に、彼はくすっと笑ってから次の命令を出した。
 
「裾、自分で捲って。離しちゃ駄目だよ?」
「えっ……」
「手離したり、しゃがみこんだりしたら倫の負け。俺の言うこと全部聞いてもらうから」
「そ、そんなっ」
「その代わり、五分耐えられたら今日はそれで終わりにしてあげる。もう倫が恥ずかしがることもしないよ。どう?」
 
 挑戦するような目で、平原さんが私を見据える。
 五分間、スカートの裾を自分で持って立っていられれば私の勝ちらしい。何をされるのかは恐ろしくて聞けないけれど、五分くらいだったら耐えられそうだ。
 その条件に無言で頷くと、平原さんはにやりと笑った。ちょっと嫌な予感がしたが、私だって彼にしてやられてばかりではいられない。負けず嫌いな性格もあって、私は負けてやるものかと意地になっていた。
 
「倫に全部着せたんだから、俺も正装にしようか。帽子はないけどね」
「え……?」
 
 何のことかと首を傾げると、平原さんはジャケットの胸ポケットから白い手袋を取り出した。いつも仕事中にはめているものだ。そしてそれを両手にしっかりはめると、私に足を開くように再度指示をする。
 
「や、大和さん、手袋なんかしたら汚れちゃうっ……!」
「どうして? 何で汚すつもり?」
「それ、はっ……!」
「大丈夫だよ。もし汚しちゃっても洗えばいいし、替えもあるから」
 
 そういう問題ではないのだが、もう何も言えない。反抗すればするほど恥ずかしい目に遭いそうだ。
 諦めて、彼に促されるままにそろそろとスカートの裾を捲った。
 
「もうちょっと上まで。お腹の辺りまで捲って」
「んっ……! こ、このへん……?」
「そう、良い子。すごいやらしい格好だね? 倫」
「だ、だって大和さんがやれって言うから……!」
「ふふっ、そうだね。じゃあ、離したりしゃがんだりしたら倫の負けだからね」
「え……ひ、ああっ!」
 
 そう言い終わる前に、平原さんは私の目の前に膝をつく。そして露わになった股の間に顔を埋めたかと思うと、舌を伸ばして陰部にある突起を舐め擦った。
 
「あ、っんぅ! ひぁ、やだ、ああんっ!」
「んっ……、倫、ちゃんと足開いててよ。奥まで舐められない」
「いっ、いいっ、なめなくていいですっ……! あ、やぁ、きたないぃっ……!」
「はぁ、可愛い……ここ、もう固くなってるけど、いつから? すごいよ、舌で突いても押し返してきそうなくらい」
「やだっ、やだぁっ! あっ、も、もう舐めるの、いやぁっ……、い、いっちゃ……」
「倫、いくらなんでも早すぎない? もうちょっと我慢しなよ」
 
 そんなこと言われたって、こうなってしまったのは他でもない平原さんのせいなのに。
 舌先でつん、と突起を小突かれるだけでも気持ちいいし、ざらざらとした表面で擦られるのもたまらない。そのうえ唇全体で吸われたりなんかしたら、スカートが皺くちゃになるくらい握ってその快感に耐えることしかできなかった。
 
「ふぁ、ああっ、きもち、いっ……」
「倫、舐められるの大好きだもんね? 一回これでイこうか?」
「ん、やぁ……だめ、い、いっちゃったら、立ってられなっ……!」
「ああ、そうだったね。じゃあ次は指で触ってあげるね?」
「へ……あっ、ひああっ!」
 
 唇を離してくれてほっとしたのも束の間、今度は平原さんの指でぐにぐにと強く突起を捏ねられる。舌で責められるよりも強い刺激に思わず力が抜けそうになったけれど、しゃがみこんだらいけないことを思い出して膝に力を入れ直した。
 五分だけなら耐えられると思ったのに、そのたった五分が異様に長く感じる。でも、負けたらどんな目に遭うか分からないのだ。耐えるしかない。
 「イったら駄目」と意識すればするほど体は敏感になってしまって、それに加えて手袋をつけたまま触られているせいで、いつもと違って布が擦れる感覚に体が震える。それに、彼が仕事で使うものを汚してしまっている背徳感に苛まれた。
 
「んんぅ、や、やま、と、さんっ……、それ、やだぁっ」
「ん? どうして?」
「いや、いやなの、それっ、てぶくろ、とってぇっ……!」
「ふふっ、嫌なの? すっごく気持ち良さそうだけど」
「あああっ……! あ、んんっ!」
 
 人差し指と中指で突起を挟まれて、上下に擦られる。それだけで立っていられなくなりそうで、私は荒い息を吐いて必死に耐えた。きっと、達してしまったらもう終わりだ。確実にしゃがみこんでしまう。
 
「はっ、可愛いっ……、倫の感じてる顔見るだけで、俺までイっちゃいそう」
「んあっ、はぁっ……! や、やまと、さんっ、もうだめ、こするの、だめぇっ……!」
「イったら立ってられないもんね? はぁ、もう本当に可愛い……キスしようか、倫」
「は、いっ……、ん、んんっ、んぅっ」
 
 キスの最中でも、平原さんは指の動きを止めてくれない。それどころか擦り上げるのと同時に、くにくにと捏ねる動きも加わって、快感のあまり膝ががくがくと震えた。今にも膝から崩れ落ちてしまいそうだったけれど、キスに応えながら必死に足を踏ん張る。
 
 負けてしまったら、何をされるか分からない。きっと今以上に訳が分からなくなってしまう。平原さんとこうして肌を重ねるのは好きだけど、おかしくなるのは嫌だ。理性を失ってしまうほど快感を与えられたら、もう以前までの自分には戻れなくなるような気がした。
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