略奪は 奪い取るまでが 楽しいの

エイ

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これまでとは違うキス

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「理沙? だからね、私としては理沙が圭司の家にこのまま住むのに賛成なの。ウチに来てくれてももちろんいいんだけど、安全性を優先するならやっぱここが最適だからさ」
「あ、うん……」

 理沙が別のことを考えていて言いよどんでいると、圭司が話を逸らす。

「それはまた後日考えようぜ。それよりさ、肉焼くけどまだまだ食えるよな」
「食えるー! 一キロくらいいけるー」
「いや食いすぎだろ。理沙、このあとパスタも作るんだけど手伝ってくれるか?」
「あっ、うん。ていうか準備を全部してくれたんだからあとは私がやるよ。むしろやらせて」
「やったあ、理沙の手料理ひさしぶりー。昔はよく鍋とかしたよねーお互い貧乏だからいつも肉少な目でさ。でも美味しかったなあ」
「あり合わせの調味料で鍋つゆ作ったりしてね。たまに奇跡みたいに美味しくできることがあって、でも何をいれたか分かんなかったんだよねえ。楽しかったよね」
「夏はペットボトル切って流しそうめん器作ったりね。もう普通に食べればいーじゃんっていいながらも、いつも付き合ってくれた理沙には感謝しかないわ」
「それを言うなら、いつもツラい時に笑わせてくれた萌絵ちゃんに私が感謝だよ。萌絵ちゃんがいなかったら私、どうにかなっちゃってたと思うもん」
「もー理沙ったら私のことそんなに好きなの~?」
「好き好き。一生大好きでいる自信ある」
「このやりとり大学生の時もした気がする。理沙が人間不信マックスだった頃」
「その節も大変お世話になりました……」

 なんとなく流れで萌絵と二人で一緒に料理を作りながら、昔話に花を咲かせる。
 圭司はそれを見ながらテーブルで別のお酒を飲み始めていた。
 理沙がステーキ肉を焼いている横で萌絵がお皿を出しながら、ふと声をひそめて耳打ちしてきた。

「てかさっきごめんね、なんか私先走って余計なこと言って圭司を怒らせちゃった」
「いやいや、萌絵ちゃんは心配して言ってくれたんだからありがたいと思っているよ。圭司も別に怒ってなかったと思うけどなあ。フツーじゃなかった?」
「んー、でもアレ内心めちゃくちゃイラっとしてたよ。ごめんって言っておいて」
「そうかなあ……」

 理沙からみた圭司は特に怒っている様子はなかった。でも付き合いの長い萌絵には彼のわずかな変化を読み取れるようだ。
 確かに圭司は感情的になることが少ない。嫌なことを言われても作り笑顔で上手く躱すタイプだから、もしかすると理沙も気づかないうちに圭司を怒らせているかもしれない。
 落ち込んでいる気持ちを悟られないように、明るく振舞って料理を作る。
 萌絵もそれ以上はさっきの話題に触れず三人で下らない話で盛り上がり、萌絵が酔いつぶれる前に帰ると言って飲み会は終了となった。

「はー飲んだ飲んだ。そして食った。じゃ私帰るからぁ。圭司、駅まででいいから送ってよー」
「はー? だから飲みすぎんなって……しょうがねーな。理沙、ちょっと萌絵送ってくる」
「うん、萌絵気を付けてね」




 圭司が駅まで萌絵を送ってくる間に、理沙は洗い物を済ませてしまう。棚に食器をしまっていると圭司がすっかり酔いの覚めた様子で帰ってきた。

 駅までならすぐだが、酔い覚ましにゆっくり帰ってきたようだ。少し疲れたように見えるのは、体が冷えてしまったからなのだろうか。

「あー、さむ。洗い物ありがとうな。置いといてよかったのに」
「ううん、こっちこそ萌絵ちゃん送ってくれてありがと」
「そんなに酔ってんならもう泊まっていけばって言ったんだけどな。理沙とベッド使っていいっつったら、男臭そうだからヤダって断られたわ。ちょっと心配になってきたんだけど俺って臭い?」
「あは、そんなことないよ。むしろいつもいい匂いする。なんだろ? 香水じゃないよね。柔軟剤? でも同じ洗剤使わせてもらってるけど、なんか違う。圭司はいい匂いする」
「えー、いい匂いする? 俺の匂い……好き?」
「うん、好き。あ、いや、匂いがね」

 うんと頷いてふと自分がかなり恥ずかしいことを言った気がして顔が赤くなる。それを見た圭司が、冗談っぽく理沙にハグをした。

「……今もいい匂いする? 嗅いでいーよ。なーんて」
「……っ」

 抱きしめられるのは初めてじゃないのに、胸板に頬が触れて体が硬直してしまう。理沙が真っ赤な顔でガチガチになっていると、それに気づいた圭司も黙ってしまった。
 その腕がはなれることはなく、そのまま二人黙ったまま抱き合うかたちになった。
 以前に抱きしめられた時には恥ずかしいとは思っても緊張なんて感じなかった。それなのにどうして今はこんな気持ちになるのか。

 その理由が知りたくて、圭司の背中に手を回して抱きしめ返すと、彼の体がビクッと跳ねるのを感じた。
 今、いったい彼がどんな表情をしているのかと顔を上げると、鼻がぶつかりそうな距離にその顔があった。
 目が合った圭司は何か言おうと口を動かしかけたが、結局何も言葉はないまま、唇が重ねられた。

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