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命の味は美味である
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「んで、アンタも同じなんでしょう?死にかけの身にアメリアの魔力はたまらなかったでしょうね」
アメリアの魔力を食べて満足そうに腹を見せるヘルハウンドにピクシーは声をかける。
「んっ? そうすね! すげえ美味かったっす!」
命の味はさぞかし美味かっただろう。ヘルハウンドもまた消滅の危機にあったと話し始めた。
「悪魔召喚の儀式をおこなった術者が、途中で失敗して俺だけこの世に取り残されちゃったんです……」
ヘルハウンドは人間が悪魔を呼び出した時に共に現れる。
この魔物も儀式によって地獄からこちらの世界にわたってきたのだが、その儀式が途中で失敗してしまったのだ。
「俺の後ろで地獄の門がバターン! って閉じちゃったんすよ。もうね、えー! 嘘でしょー!? 叫んだけど門は消えちゃうし、呼び出した奴にお前もっかい儀式やり直せって言ったら死んでるし、あの時の絶望ったらないですよ」
悪魔を召喚できないまま地獄の門は閉じ、術者は魂を取られ死んでしまった。足を踏み出していたこのヘルハウンドだけが現世に取り残されてしまった。
現世から地獄へ干渉する術は、再び人間が儀式を行い地獄の門を開いてもらう以外に方法がない。その術者は死んでしまった。現世に存在しないはずのヘルハウンドは、地獄との繋がりを絶たれ消滅するのを待つだけだった。
段々と力を失い巨大な黒犬の体は力の衰えと共にちぢんでいき、やがて小さな子犬程度の体になってしまった。
「そこで偶然アメリアに助けられるんだから、アンタ運がいいなんてもんじゃないわね」
「そうなんすよ~抱き上げられた瞬間、頭から魔力をバケツでぶっかけられたみたいな感じがしましたよ! アメリアさんのおかげで俺、この世に顕現できたんです」
もうすぐ塵となって消える寸前の状態で野犬に追いかけられていた時、アメリアに助けられた。
「命の恩人を探すためにアチコチで聞きまわったんですけど、アメリアさんって魔物の中じゃ有名人なんですね。みんな彼女の魔力を食いたがってるけど、全然つけ入るスキがないって」
「そうだね。いろんな魔物があの手この手で誘惑しているけど、この人どんな魅惑をつかってもガン無視なんだよ。唯一小さい生き物には気が緩むみたいで、うっかり手を貸しちゃうんだよねえ」
ケット・シーがベッドの上で丸くなりながらヘルハウンドの話に相槌を打つ。皆も彼の言葉にうんうんと頷くのは、とにかくアメリアを狙う魔物がどれだけ多いか身をもって知っているからだ。
最初、人里離れた森のなかに一人ぼっちで住み始めた変わり者の人間のことなど、森に住む魔物たちは気にも留めていなかった。
アメリアはいつも気配を消して行動していたので最初気付かれなかったが、ふと彼女の近くを通り過ぎた魔物が、彼女から立ち上る魔力に気が付いた。
魔力がある。ああ、ならばただの人間じゃなく、魔女の系譜なのだろうと気付く。それと同時に、その魔力が異様に『美味そう』に感じたのだという。
試しにすれ違う時にこっそりと彼女の魔力を舐めてみたところ、ほんのわずかでも異様なほど美味だったらしい。
最初に気付いた魔物がその話を広めるまでもなく、アメリアのその不思議な魔力のことは魔物たちの間で噂にのぼるようになっていた。
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