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味覚がぶっ壊れている
しおりを挟む犬が一緒に食事をできる場所ということで、三人はテラス席のあるカフェに落ち着いた。
サラマンダーが適当にいくつか軽食と飲み物を見繕って注文しているのをアメリアは黙って聞いていた。
ほどなくして運ばれてきた料理を見ると、チーズと野菜のグリルとか、野菜のシチュー、柔らかい白パン、そしてフルーツティーという組み合わせで、正直家でピクシーが出してくれる食事みたいに野菜が中心のものばかりだった。
激辛スープを食べるつもりだったアメリアは、正直食欲は全然わかなかったが、せっかく注文してくれたのだからと匙を手に取る。
足元に大人しく座っているヘルハウンドには、サラマンダーが適当につまめるものを食べさせていた。
(味、物足りないなあ……)
辛みが欲しくて、テーブルにあるコショウを手に取って自分の皿にかけていたら、それをサラマンダーに止められた。
「かけすぎ」
「え?」
「かけすぎだっていってんだよ。見ろよ、この皿。コショウの山になってんだろ。ったく」
「ああ……でも、これくらいのほうが辛くて美味しいし……」
アメリアの返答に、おもいっきり顔をしかめたサラマンダーは、コショウの山をスプーンですくって取り除く。
そして、少し迷うそぶりをみせてから、アメリアに向き直ってこう告げた。
「あのなあ……ピクシーには言うなって口止めされてたけど、お前なぁ、味覚ぶっ壊れてんだって。そのことに自分じゃ気付いてないだろ?」
味、ほとんど感じてないだろと、全く身に覚えのないことを言われアメリアは戸惑う。
「や……別に私は辛い物が好きなだけで、おかしいとかじゃ……」
「おかしーんだって。ソレもただ辛さを感じなくなっているだけなんだって。前に町に来た時お前さっきの店で辛い料理食って、そのあと一週間寝込んだのを忘れたか? ほっとくとめちゃくちゃな味付けのもの食って体壊すから、危なくてほっとけないんだよ」
突然そんなことを言われて驚くしかない。
確かに以前激辛料理を食べてからしばらく胃が痛くて何も食べられなかったが、それが辛い物を食べたせいだとは思っていなかった。
まだ納得できない顔をしているアメリアに、帰ってから話し合おうとサラマンダーが提案し、結局激辛料理は諦めて家に帰ることになった。
重苦しい雰囲気で帰ってきた三人に対し、出迎えた他の者たちは何かあったのだろうと察し、そのままリビングへ通される。
ピクシーがお茶を淹れた後、サラマンダーが今日会った出来事と味覚異常の話を本人にしてしまったという報告をした。
「この間、胃を壊したのに凝りもせず激辛料理を食おうとしていたから、もう言っちまったほうがいいかと思って……」
口止めされていたのに勝手に暴露してしまって多少申し訳なさそうにするサラマンダーの言葉に、他の魔物が反応する前にアメリアが声を上げた。
「あの! でも私、味覚おかしいって言われてもそんなつもりなかったから……て、いうか本当に変? そもそも魔物とヒトじゃ味覚も違うだろうから比較できないんじゃ……」
まだ自分の味覚障害を認められないアメリアが往生際の悪いことを言うと、魔物たちが一気に呆れた表情になり大きくため息をついた。
「あのね……言いにくいんだけど、アメリアの味覚って本当におかしいのよ、最初、あなたが自分で調理すると海水の五倍くらいしょっぱい塩粥を作ってそれを普通に食べるでしょう? ヒトはね、あんな塩分濃度のものを食べられないのよ」
と、魔物相手に人の普通を説かれ何とも言えない気持ちになる。
「あと、苦みも感じてないよね? 前に塩と重曹間違えて料理に入れてたけど、気付かず食べてるの見て、本気でヤバイって僕ですらビビったもん」
人の世で暮らしてきた僕が言うのだからアメリアは間違いなくおかしいとケット・シーにまで言われ、思い当たるところがあり過ぎるのでもう認めざるを得ない。
「私、本当に味覚おかしかったんですね……自覚なかったです。でもそんなにやばいって思ってたんなら、普通に言ってくれれば良かったのに」
がっくりと項垂れる彼女を、魔物たちは痛ましいものを見るような目を向けてくる。
「アメリアに自覚がなかったから、アタシたちが注意しても信じてくれないと思ったというのもあるけど、なにより、おかしいとか病気だとか言われたらあなたがショックを受けるんじゃないかと心配で言えなかったのよ」
「だからさ、僕らが食事の管理をしていこうって話になったんだよね」
栄養の偏りをなくして普通の味付けのものを食べていれば味覚も治ってくるんじゃないかと考え、アメリアには事実を告げない決断をしたと説明された。
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