恩返し勢が帰ってくれない

エイ

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チューベローズ家

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 ホウキでノロノロとしか飛べないアメリアは、空を飛ぶような速さで進むヘルハウンドの背に必死にしがみ付いて目も開けていられなかったが、『着きましたよ』という声で顔を上げると、かつては良く見慣れた村の門が目の前にそびえたっていた。

 チューベローズの一族は同じ集落で一つの村を形成している。メディオラが生まれてから一族は急激に勢力を伸ばし、今ではこうして大きな村へと成長している。
 集落の入り口には大きな門があり、訪問者は血族か許可証がないと門をくぐることができない仕組みになっている。
 ヘルハウンドの背から降りると、彼には中型犬くらいの大きさになってもらってから、カバンに入れておいた手紙を取り出す。

 封筒に入っている『visitor』の紙を手に持ち恐る恐る足を踏み入れると、結界に弾かれることなく入ることができた。
 ヘルハウンドも使い魔契約をしたからか、問題なく一緒に結界を越えられた。皆のアドバイスどおり、契約をしておいて本当に良かったと胸をなでおろす。
 数年ぶりに足を踏み入れたチューベローズの集落は、記憶にあるよりも暗い雰囲気で、なんだか空気が澱んでいるように感じる。しきりにスンスンと鼻を鳴らしていたヘルハウンドが、声を潜めてこう告げてきた。

「門をくぐった瞬間から、もう臭いです」
「え、ちょ、それってどういう意味……?」

 ヘルハウンドは、死の匂いが村のアチコチから漂ってくると言う。死者と契約をする死霊使いか、もしくは死の呪いを受けている者がいるのではないかと予想を口にしたが、はっきりとしたことはよく分からないらしい。

 村の中腹にあるチューベローズの本家に向かうと、その匂いは更に強くなったようだ。
 本家の巨大な玄関扉の前に立つと、ノックをする前に中から扉が開かれた。

「お久しぶりですね、アメリアさん。除名されたあなたが本家の敷居を再び跨ぐことができなんて幸運でしたね」

 扉を開いたのは、本家の執事だった。
 この執事とはさほど関りがあったわけではないが、アメリアが家庭教師に鞭で打たれている時にいつも『チッ』と舌打ちしていく人だったのでかなり苦手な人に分類されている。

「あ、どうも……。えっと兄、じゃなく、一ノ家当主様に呼ばれまして……」

 兄とアメリアが言いかけた瞬間執事の顔が般若になったので、すかさず言い直すとようやく扉のなかにいれてもらえた。
 一緒に入ってきた黒い犬を見て顔をしかめたが、『あ、使い魔です』と言うと、何も言わずそのまま通してくれた。

 大広間に入ると、そこには兄姉たち六人がすでに揃っていて、それぞれソファやテーブルについてお茶を飲んでいる。アメリアは入室すると、全員の目線が一気にこちらに向いたので、緊張から汗がどっと噴き出る。

「おや、アメリア久しぶりだね。息災にしていたかい?」

 真っ先に声をかけてきたのは、二番目の兄、ジレだった。この兄は長兄にくらべて穏やかな物言いだが、最もスパルタだった記憶がある。占術に長けていて、王様のお抱え占い師となっている。

「なあにその犬。ペットじゃないわね。使い魔のつもり?」
「やだ、野良犬を使い魔にしたの? 恥ずかしいわね」
「出来損ないの魔女だから、駄犬しか使い魔にできなかったんでしょ。仕方ないわ」

 長女のテューリ、二女のテレサ、三女のペチュニアがお菓子をつまみながら笑っている。この三人は良くも悪くもそっくりで、昔からこうしていつも三人そろって行動していた。現在は三人で魔法薬店を経営しているらしい。

「なんでコイツが呼ばれたの? 除名する時、二度とチューベローズ家には関わりませんって誓約書も書いたのに」

 少し離れたところに座っているのは、三男のヘレックだ。
 彼は小柄で童顔な見た目に反して好戦的な性格で、現在は軍隊に所属して戦争にも参加している。アメリアとは一番年が近いせいか、家にいた頃はアメリアを毛嫌いしていじめのような嫌がらせを散々された記憶がある。

「あ、えっと……ご無沙汰、しています……」

 ぼそぼそと挨拶のような言葉を口にすると、三姉妹から『聞こえないわよ』と文句がとんできたが、先にテーブルについていた長男のモノリスが間にはいってきた。

「母上がお待ちだ。ついてこい」

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