恋人に「お前ただの金蔓だから」と言われた場合の最適解

エイ

文字の大きさ
14 / 37

真相

しおりを挟む

「補佐官からお褒めの言葉をいただけるとは思いませんでした。てっきり私の仕事ぶりが不満で、早く辞めてほしいのかと……」

「エリザさんが優秀な魔術師であるのは皆が認める事実です。でも、どれだけ優秀でもやはりあなたは女性なんです。師団長はあなたを男と同等に扱っていますが、それはやはり正しくないと私は思っているからです」

「でも、今どきは女性が働くのなんて当たり前になっています。現場捜査を希望したのは私の意思でもあるので、女だからって区別せず働かせてくれる師団長に私は感謝していますよ」

 事務方ではお金が稼げないし、という言葉はさすがに飲み込んだ。
 クロストが嫌味を言ってくるのは、危険な現場にでるエリザを気遣っての遠回しな気遣いだったようだ。年寄りみたいなことを言うなあと思わないでもないが、魔力持ちであることも含め、怪我でもして子供が産めなくなったらどうするなどという言葉を気遣いとしていう人もいるので、彼の気遣いも分からないでもない。

「ああ、あなたは士官学校に通う恋人のためにお金が必要だから、危険な任務にも手を上げていたんでしたっけ。そこまでしてその恋人をつなぎとめておきたかったんですか? だったらあなたは魔術師として名を上げるべきではなかった」

「……どういう意味です?」

「優れた魔力持ちの女性は結婚相手として引く手あまたです。そしてあなたが魔術師として成果を上げれば上げるほど、その恋人との結婚は難しくなるとは思いませんでしたか?」
「え……いや」

 そんな風に考えたことはなかった。
 下位とはいえ貴族である以上、政略結婚が避けられない場合もあるとは考えていた。
 だがエリザは魔術師団員という肩書があり自分で身を立てているから、政略結婚をしなくて済むと思っていたのだ。実際、師団長が勧誘してきた時も、魔法師団に入れば自分で人生を選べる地位を得られるとアドバイスを受けた。

 だからフィルが無事士官になれれば両親もエリザに文句を言えなくなるだろうと思い、これまで彼を支援してきたのだ。だがクロストはそれは全くの間違いだったという。

「あなたの名が貴族のあいだに知れ渡ってしまった以上、あなたの結婚には確実に貴族連が口出しをしてくるはずです。平民の士官と結婚なんて許されないでしょうから、あらゆる手を使って阻止されるでしょう」

 クロストから指摘されて、めまいがする。
 フィルの学費のために危険任務も積極的に引き受け必死に働いた結果が、彼との関係の破綻につながるとは思いもしなかった。

 エリザが黙っていると、クロストは重いため息をついて、実は……と噂についての真実を暴露する。

「あなたの悪い噂の出所が、士官学校の生徒からだという話は師団長から聞いたでしょう? あなたの耳には愛人だのなんだの程度しか入ってきていないでしょうが、本当はもっとえげつない話もあったんです」

 師団のほとんどの男と寝ているとか、仕事の失敗は体を使ってごまかしてもらっているとかの下品な話で、要はエリザが魔術師としては「本当は無能」なのだという噂を広めたかったらしいと調査で分かったそうだ。
 だが、エリザの普段の仕事ぶりから、無理のある噂は広まらず、かろうじて愛人疑惑だけが残ってエリザの耳にも届いていたらしい。

「もう予想がついているでしょうが、その噂を広めた中心人物はあなたの元恋人とその友人たちです。何故わざわざ自分の恋人を貶めるような噂を流したのか、直接聴取したわけではないから確証はないですが、彼はエリザさんを失脚させたかったのではないですか?」

 それが先ほどの話につながるわけだ。
 フィルがもし無事に士官になれたとしても、魔術師として名を上げたエリザとの結婚はまず不可能だとフィルは気づいてしまったのかもしれない。

「だからフィルは、私の悪い噂を流して、貴族令嬢としての価値を落とそうとした……ということですか?」

「確かなことは分かりませんが、師団長はそう結論付けてこの調査を終わりにしました」

 ふしだらな女だと噂が立てば、貴族たちが縁談候補から外すだろうと考えたのかもしれない。フィルがエリザを失いたくなくて間違った方法を選んでしまった……と考えられなくないが、それだとその後にエリザを罵って別れを告げた行動の意味が分からなくなる。

「どうしてその話をこのタイミングで話してくれたんですか?」
「恋人と別れたと聞いたからですよ。盲目的に信じてお金を貢ぎ、いいように利用されていた頃ではこちらの言うことなど信じなかったでしょう」

 うぐ、と言葉に詰まる。自分はこの補佐官にも師団長にも全く信用されていなかったのだ。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

処理中です...