恋人に「お前ただの金蔓だから」と言われた場合の最適解

エイ

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貶めて笑い者にしたいほど

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「で、でもフィルがどう思っていたかなんて本当のところは分からないわ。少なくとも彼は、私に魔力持ちであるのを羨んだことなどない」

「君には分からなくても、僕には分かるよ。だって僕は彼と同じように底辺の人間だからね」

 羨ましいなどと言ったら、あまりにも自分が惨めだから口になどできない。
 高みにいる人に対して、劣等感を抱いていないふりをするしかない。
 フィルがどうしてあのような暴言を吐くに至ったかの理由も、エリックは想像がつくと言う。

「内側で劣等感を膨らませていった結果、君に八つ当たりをするようになったんだ。高圧的な態度で無理な金銭要求を繰り返したのも、君を自分に従わせることでちっぽけな自尊心を満たしていたんだろうね。暴言を吐いて別れを告げた時は、ようやく君の上に立てた気になってさぞかし快感だったろう」

「ああ……」

 思い当たる節がある。
 フィルはエリザが彼の言うことに逆らわずに従うととても満足そうにしていた。嫌な笑みを浮かべる彼に嫌なものを感じていたが、突き詰めて考えないようにしていた。
 あれはただ、自分を従わせることだけが目的だったのか。そう考えると、誕生日の行動も全て納得がいく。

「私は……フィルに恨まれていたのね。貶めて笑い者にしたいほどに」

 クロストの予想では、フィルがエリザと結婚したいがために悪い噂を流して価値をさげようとしたのではということだったが、それには少し違和感があった。
 けれど、エリックの指摘で納得がいった。

 フィルはエリザを憎んでいたのだ。

 自分が得られなかったものを全て持っているエリザがそばにいることで、彼のコンプレックスを刺激し、いつの間にか憎むようになってしまった。わざわざ傷つけるやり方で別れたのも、そういった理由からだったのだろう。

「そうだとしても、単なる逆恨みだ。自分が無能だからって恋人に八つ当たりするようなクズだから、別れて正解だよ。でもさっき、復縁を迫ってきたね。手のひら返しが早いけど、他の金蔓にすぐ逃げられて困っているのかもね」

「ああ、そうかもしれません」

 金輪際近づくなと啖呵を切ったくせにあちらから接触してきたのは、何か事情が変わって困った事態に陥っているのだろう。

「泣きつかれても絶対お金を貸しちゃあ駄目ですよ。もう別のオトコを飼っているからお前を養う余裕はないと断りましょう」

 エリックの冗談にふっと笑うと、彼の頬を緩めて笑顔になった。そしてねぎらうようにポンポンと背中を叩かれる。

「……?」

「ええと、ヒモらしくご主人様を慰めようかと」

「慰め方は案外下手なのね。私なら大丈夫だから気にしなくていいわよ」

「残念。弱ったところにつけ込むつもりだったのに」

 それじゃあ胃袋からつかみますか、などと嘯いて、夕食を用意しておくから着替えておいでとエリザを自室に促してくれた。
 服を着替えているとつい、はあと大きなため息が漏れる。
 ついしゃべりすぎてしまった。
 あんな詳しい事情まで話すつもりはなかったのに、と後悔と反省が押し寄せる。
 乗せられる自分も悪いのだが、彼の話術と洞察力につい興味を引かれてしまうせいでもある。実際、フィルの考察は目からうろこであったし、おそらくそうであろうと納得がいった。
 そのおかげで、ずっともやもやしていた感情が収まるべきところに落ちたように感じてすっきりしてしまったのも事実だ。エリックに上手く転がされているようで少々悔しい。
 だが、彼に話すことで救われているのは否めない。

 上着を脱ごうとして、フィルに押し付けられたプレゼントをエリックが持ったままだったと思い出す。一瞬取りに戻ろうとしたものの、プレゼントを欲しがっていたと思われたら癪なので放っておくことにした。
 

 突き返してやりたいが、そのために彼に会いに行くのもバカバカしい。
 奇麗なリボンかけられた箱に入っていた奇麗な瓶の香水。
 いかにも若い女性が好みそうなデザインだったが、フィルが自分で選んだとは思えない。そもそもフィルからプレゼントをもらったことなんて子どもの頃以来である。
 あの日、フィルの家にしどけない恰好の女性がいたことを思い出す。

(あの女性たちが選んでフィルに持たせたのかしら……)

 金蔓ちゃんと呼ばれた記憶が蘇る。
 やっぱり金蔓ちゃんをキープしておこうと彼女たちが言い出したのではなかろうか。
 それで不本意ながらフィルはプレゼントでエリザのご機嫌をとろうとしてきたのかも……と想像すると、急な復縁要請も納得がいく。

「エリザさん? 着替え終わったかな」

 食事の用意ができたとエリックが扉をノックしてきた。

「あっ……今行きます」

 扉を開けるとエリックが食事を乗せたトレーをもって立っていた。

「疲れていると思って、お食事を部屋までお持ちしましたよ。ご主人様」

「わざとらしくご主人様っていうのやめてもらえる? というか、わざわざいいのに……」

 と言ったものの、本当に疲れていたので食事を持ってきてもらえたのは有難かった。ソファに座るとトレーを膝にのせてくれた。
 深めの皿に盛られたリゾットが美味しそうな匂いを漂わせている。一匙口に運ぶと、優しい味でとても美味しい。多分、エリザが遅くなるのを見越して消化に良いものを用意してくれていたのだろう。
 
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