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七夕の願い事 if 中編 Change! Choice! Change!
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ゆらゆらと揺れる感覚の中で、ほのかはその懐かしい感覚を知っている気がした。
その温かい手を、太く逞しい腕を心地よいと思いながらもう少しだけ眠っていたくなった。
ふと思い出すのは断片的な記憶。
あの海での記憶だった。
ほのかが目を覚ました時、ほのかは夏輝に抱きかかえられていた。
夏輝の周りの取り巻きはいつの間にかいなくなっていた。
「あ、目を覚ましたかい? お姫様?」
ほのかは夏輝とあまりに近い距離に顔があるのと、いわゆるお姫様抱っこをされている事に気が付き慌てに慌てた。
「このまま保健室に行こうと思っていたところだよ」
そう言われてほのかはますます慌てた。
保健室には時雨が居る。
時雨には心配をかけさせたくないとほのかは思った。
【もう大丈夫なので下ろしてください】
「んー、どうしよっかなー」
夏輝はニヤニヤと笑いながらそう言った。
そして、夏輝は方向転換すると階段を上り、屋上の手前の踊り場でほのかを下ろした。
ほのかはやっと下ろして貰えた事にほっとしたが、それも束の間、夏輝はほのかを壁際に追いやると逃げられないように壁に両手をついた。
いわゆる壁ドンの体勢にほのかの心臓は休まる事がなかった。
「ねえ、まだ返事聞いてないんだけど?」
【?】
なんの返事かと思いほのかはそんな記号をスケッチブックに記した。
「デートに決まってるだろ?」
夏輝はくすりと笑った。
【知らない人にはついて行っちゃいけないって先生が言ってた】
返答に困ったほのかはそんな断りの常套句を書いてみた。
「知らない人だって? 悲しいな・・・・・・、まさか俺の事本当に忘れたなんて言わないよな? 俺は覚えてるぜ、子猫ちゃんと出会ったあの夏の日のあの海もお祭りも・・・・・・」
そこまで言われてほのかはハッとした。
ほのかはまさかと思いながら思い切り背伸びをして夏輝の前髪をぐっと後ろにかき上げてみたり、パッチリと開かれた瞳を無理矢理目付きを悪くさせてみたりした。
そしてやっと目の前の人物が夏輝本人である事に気が付いた。
しかし、そのあまりの変わり様にほのかはただただ驚くばかりだった。
「デートしてくれないって言うんなら、ここでこのまま襲っちゃうのもありなんだけど?」
艶めかしい表情をした夏輝の顔がぐっと近付き、ほのかはまた目が回りそうになった。
あと数センチで互いの唇が触れ合いそうになったところでほのかは夏輝の胸に両手をつき、グッと力を入れて押し返した。
そして頬を紅潮させ、混乱する頭で一心不乱にスケッチブックに文字を書いた。
【行くので離れてください】
ほのかはこのままでは心臓が早鐘を打ちすぎておかしくなってしまうと思い白旗を上げた。
「嬉しいなぁ、じゃあ夜七時に駅前で待ってて」
夏輝は笑顔でそう言い、上機嫌な様子で階段を下りていった。
ほのかは見えなくなっていく夏輝の背中を見ながら床にへたりこんだ。
理由も原因も分からない、言いしれない感情がほのかの心の中を渦巻いていた。
放課後、ほのかが部室に行くと翠が青い顔をして机に突っ伏していた。
ほのかが部室に入ってきたのを見て翠は僅かに顔を上げた。
【お疲れ様です】
「ああ、月島さん・・・・・・」
ほのかはいつもと様子の違う翠が気になり問いかけた。
【どうかしたんですか?】
「うん、実は夏輝がね・・・・・・」
翠はほのかに夏輝の変わりようについて語った。
「実際どうしていきなりこうなってしまったのか分からないんだ。だけれど、可能性があるとしたらこれかもしれない」
そう言って翠は懐から銀色の短冊を取り出した。
「昨日これと同じ金色の短冊を夏輝に渡したんです。非現実的な事ですが、夏輝はその短冊に何かを願って、それが叶ってしまったのかもしれません」
確かに翠の言う事は到底信じ難い事だった。
だが、今のところ夏輝が変わった手掛かりらしき出来事はそれしかなかった。
【じゃあその短冊で先輩を元に!】
翠の言う事が正しければ、翠の手元に残った短冊を使えば夏輝を元に戻せるのではないかとほのかは考えた。
しかし、翠は静かにかぶりを振った。
「それも考えたのですが、せっかく夏輝の望みで変わったのならそう簡単に戻してよいものか分からなくなったのです。あれだけ人気者になったのですし・・・・・・しかし、人の人生を変えてしまったという事実もまた罪悪感があります」
翠はほのかに短冊を差し出した。
「月島さん、あなたに選択を預けたいと思います。お恥ずかしながら私には決断する勇気がありません。あの夏輝は我々の知る夏輝ではありませんが、夏輝である事実は変わりません。どんな夏輝を選んだとしてもあなたの選択ならば夏輝は受け入れると私は信じています」
ほのかは頷きながら翠から短冊を受け取った。
こんなにも軽いのに、その手にずしりと重みがのしかかるように感じられた。
その温かい手を、太く逞しい腕を心地よいと思いながらもう少しだけ眠っていたくなった。
ふと思い出すのは断片的な記憶。
あの海での記憶だった。
ほのかが目を覚ました時、ほのかは夏輝に抱きかかえられていた。
夏輝の周りの取り巻きはいつの間にかいなくなっていた。
「あ、目を覚ましたかい? お姫様?」
ほのかは夏輝とあまりに近い距離に顔があるのと、いわゆるお姫様抱っこをされている事に気が付き慌てに慌てた。
「このまま保健室に行こうと思っていたところだよ」
そう言われてほのかはますます慌てた。
保健室には時雨が居る。
時雨には心配をかけさせたくないとほのかは思った。
【もう大丈夫なので下ろしてください】
「んー、どうしよっかなー」
夏輝はニヤニヤと笑いながらそう言った。
そして、夏輝は方向転換すると階段を上り、屋上の手前の踊り場でほのかを下ろした。
ほのかはやっと下ろして貰えた事にほっとしたが、それも束の間、夏輝はほのかを壁際に追いやると逃げられないように壁に両手をついた。
いわゆる壁ドンの体勢にほのかの心臓は休まる事がなかった。
「ねえ、まだ返事聞いてないんだけど?」
【?】
なんの返事かと思いほのかはそんな記号をスケッチブックに記した。
「デートに決まってるだろ?」
夏輝はくすりと笑った。
【知らない人にはついて行っちゃいけないって先生が言ってた】
返答に困ったほのかはそんな断りの常套句を書いてみた。
「知らない人だって? 悲しいな・・・・・・、まさか俺の事本当に忘れたなんて言わないよな? 俺は覚えてるぜ、子猫ちゃんと出会ったあの夏の日のあの海もお祭りも・・・・・・」
そこまで言われてほのかはハッとした。
ほのかはまさかと思いながら思い切り背伸びをして夏輝の前髪をぐっと後ろにかき上げてみたり、パッチリと開かれた瞳を無理矢理目付きを悪くさせてみたりした。
そしてやっと目の前の人物が夏輝本人である事に気が付いた。
しかし、そのあまりの変わり様にほのかはただただ驚くばかりだった。
「デートしてくれないって言うんなら、ここでこのまま襲っちゃうのもありなんだけど?」
艶めかしい表情をした夏輝の顔がぐっと近付き、ほのかはまた目が回りそうになった。
あと数センチで互いの唇が触れ合いそうになったところでほのかは夏輝の胸に両手をつき、グッと力を入れて押し返した。
そして頬を紅潮させ、混乱する頭で一心不乱にスケッチブックに文字を書いた。
【行くので離れてください】
ほのかはこのままでは心臓が早鐘を打ちすぎておかしくなってしまうと思い白旗を上げた。
「嬉しいなぁ、じゃあ夜七時に駅前で待ってて」
夏輝は笑顔でそう言い、上機嫌な様子で階段を下りていった。
ほのかは見えなくなっていく夏輝の背中を見ながら床にへたりこんだ。
理由も原因も分からない、言いしれない感情がほのかの心の中を渦巻いていた。
放課後、ほのかが部室に行くと翠が青い顔をして机に突っ伏していた。
ほのかが部室に入ってきたのを見て翠は僅かに顔を上げた。
【お疲れ様です】
「ああ、月島さん・・・・・・」
ほのかはいつもと様子の違う翠が気になり問いかけた。
【どうかしたんですか?】
「うん、実は夏輝がね・・・・・・」
翠はほのかに夏輝の変わりようについて語った。
「実際どうしていきなりこうなってしまったのか分からないんだ。だけれど、可能性があるとしたらこれかもしれない」
そう言って翠は懐から銀色の短冊を取り出した。
「昨日これと同じ金色の短冊を夏輝に渡したんです。非現実的な事ですが、夏輝はその短冊に何かを願って、それが叶ってしまったのかもしれません」
確かに翠の言う事は到底信じ難い事だった。
だが、今のところ夏輝が変わった手掛かりらしき出来事はそれしかなかった。
【じゃあその短冊で先輩を元に!】
翠の言う事が正しければ、翠の手元に残った短冊を使えば夏輝を元に戻せるのではないかとほのかは考えた。
しかし、翠は静かにかぶりを振った。
「それも考えたのですが、せっかく夏輝の望みで変わったのならそう簡単に戻してよいものか分からなくなったのです。あれだけ人気者になったのですし・・・・・・しかし、人の人生を変えてしまったという事実もまた罪悪感があります」
翠はほのかに短冊を差し出した。
「月島さん、あなたに選択を預けたいと思います。お恥ずかしながら私には決断する勇気がありません。あの夏輝は我々の知る夏輝ではありませんが、夏輝である事実は変わりません。どんな夏輝を選んだとしてもあなたの選択ならば夏輝は受け入れると私は信じています」
ほのかは頷きながら翠から短冊を受け取った。
こんなにも軽いのに、その手にずしりと重みがのしかかるように感じられた。
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