きみこえ

帝亜有花

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祭りの後に

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    少年はパソコンでSNSのサイトから無数の写真を眺めていた。
    その写真は色々な高校の文化祭の様子が写ったものだった。
    どの写真も楽しげで、笑顔に溢れていた。
    少年はその写真を隅々まで目を通し、見終わるとマウスを動かし次のページへと移動する。
    そして、数ページ程進んだ所で少年はようやく見知った顔を見つけ出した。

「やっと・・・・・・、やっと見つけた」

    少年の目には金色で柔らかそうな長い髪に、肩からスケッチブックを掛けた少女の姿が映っていた。




    文化祭が終わり、休み明けは朝から片付けが待っていた。

【おはよう】

    ほのかは教室に入ると陽太と冬真にいつも通り挨拶をした。

「おはよう」

「おは・・・・・・よう」

    冬真は普通に挨拶したが、陽太は途中で顔を赤くさせ勢い良く頭を九十度回転させた。
    その怪しい挙動にほのかは首を傾げたが、冬真には何となく察しがついた。
    だが、冬真は取り敢えず何も追求せずにほのかに伝達事項を話した。

「月島さん、朝から片付けを始めていいそうだ。力仕事はなるべく男子に任せて」

【分かった】




    ほのかは早速ゴミ集めから始めた。
    自分達が用意してきた飾りや廊下の巨大絵、メニュー表、そのどれもに思い出があった。
    あれだけ準備するのには時間が掛かったというのに片付けてしまうのはあっという間で、ほのかはとても寂しい気持ちになった。
    ほのかはそれら一つ一つの思い出を胸に抱き締めるように、なるべく丁寧にビニール袋に入れていった。
    そして、次第に袋は大きくなり、いつの間にかずっしりと重くなってしまっていた。
    一度ゴミの収集所に捨てに行かなければと思った時、陽太が声を掛けてきた。

「それ、重いでしょ? その・・・・・・俺が持って行くから」

    ほんのりと赤い顔に伏し目がちな表情の陽太をほのかは不思議に思いながらも有難い申し出にゴミ袋を差し出した。
    しかし、陽太の指先がほのかの手に触れた時、陽太は慌てて手を離してしまい、それと同時に袋を受け取ってもらえると思っていたほのかも袋から手を離していた為ゴミ袋は床に落ち耳障りな音を奏でた。

「ご、こめん!」

    陽太は床に散乱したゴミを拾い集めた。
    ほのかもそれを手伝い、最後の一つを拾おうとした時、再び二人の手が触れ合った。

「のわーーー!」

    それに焦った陽太は変な声を出しながら後ろにのけ反り、机の脚に頭を盛大に打ちつけてしまった。

「っつーーーー!」

    陽太は頭を押さえ、声にならない悲鳴を上げ悶絶していた。

【大丈夫?】

「だ、大丈夫、大丈夫! 平気、平気!」

    陽太は目を泳がせながらゴミ袋を掴むとそそくさと教室を出ていった。
    そんな二人のやり取りを冬真は一部始終見詰めていた。



    片付けが終わり、ほのかは席に座りホームルームが始まるのを待っていた。
    そして、ちらりと隣の席の陽太を見た。
    ほのかは陽太に違和感を抱いていた。
    いつも以上に会話が少なく、心做しか目があまり合わなくなった。
    以前にも似たような事があったが、最近何か怒らせるような事でもしただろうかと考えたが、ほのかには何も思いつかなかった。
    そんなぎこちない二人の様子を見ていた冬真は陽太の席に近付いた。

「陽太、ちょっと来てくれないか」

「ん? ああ」

    冬真が陽太を連れて向かったのは屋上前にある階段の踊り場だった。
    そこは普段から人気ひとけのない場所だった。

「おい冬真、どうしたんだよこんな所に呼び出して。もうすぐホームルーム始まるぞ?」

「話はすぐ終わる」

「何だよ、まさか愛の告白じゃないだろうな?」

    おちゃらけて陽太はそんな冗談を言ってみせた。

「そんな訳あるか。月島さんの事だ」

「へっ!?」

    陽太はその名を聞き動揺した。

「はあ・・・・・・、ほんと分かりやす過ぎ」

    冬真は深い溜め息をついた。

「うっ、最近良く言われます」

「何? 自覚でもしたのか?」

    そう冬真が核心をつくと陽太の顔はみるみるうちに赤みを増した。

「・・・・・・そーみたい。やっぱお前には隠せないか」

「そりゃあれだけ挙動不審ならな。だが、問題はそれだ。お前のそれ、何とかならないのか?」

「そんな・・・・・・すぐには無理だ」

    陽太は力なく俯きそう言った。
    陽太なりにいつも通りにしようと努力はしていたが、どうしてもいつも通りに出来なかった。

「お前がそうするのは勝手だが、一つ忠告しておく。お前のその態度は月島さんを傷つける事になるぞ」

「わ、分かってるよ! でも、どうしたらいいか分からないんだ・・・・・・」

「ふん、なら仕方がない。俺が少し協力してやろうか?」

「は? 何とかって?」

    自分の問題だというのに、冬真に何の策があるのだろうかと陽太は疑問に思った。

「まあ、焼け石に水かもしれないけど・・・・・・あとは自分で何とかしろよ」

    そう言って冬真は階段を降り教室へと向かった。

「ちょっと! 冬真! 何をする気なの?」

    陽太は予鈴が鳴る中、不安に思いながら冬真の後を追いかけた。
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