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Calligraphy Crisis
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学期末試験が終わった頃、翠は顧問の先生に呼び出されていた。
「先生、大事な話というのは?」
「ああ露木君、実はだね、部活動の事でなんだが・・・・・・、校長が書道部は部活動として成り立っているのか気にされていてね」
翠はこの手の話に嫌な予感がしていた。呼び出し等ろくな話があったためしがない。
「文化祭でもちゃんと全員で作品を展示しましたが・・・・・・」
「そうなんだけれど、校長が部室を通りかかるといつも一人か二人しか居ないと心配しておられた」
「え、ええ、まあ、私と月島さんが主に活動をしていて・・・・・・、他の部員もたまに来ますよ」
聞こえるか聞こえないかの声で「一瞬だけ」と翠は付け加えた。
「そこでだ。県でこんな催しがあってね。これに是非参加して欲しいそうだ」
「はい・・・・・・」
翠はにこやかに笑う先生が差し出すチラシを受け取るとそれをまじまじと見詰めた。
「はあ・・・・・・困りました」
これはまた厄介な事になったと翠は溜息を吐いた。
「おや、書道部の部長の露木君じゃないか、どうしたんだい、溜息なんかして」
「え? 秋本先生」
正面から歩いてきた翠に声を掛けたのは時雨だった。
「まさか、体調不良かい? 頭痛、めまい、吐き気は? それとも腹痛、熱?」
時雨は翠の顔色を観察し額に手を当てた。
「うーん、熱はないようだ。怪我とかもなさそうだし・・・・・・」
「お気遣いありがとうございます。頗る元気ですので大丈夫です」
「ふーむ、じゃあ恋の悩みとか・・・・・・」
翠は話を早く切り上げたいと思っていたが、時雨はまだしつこく翠に絡んでいた。
「いえ、違います・・・・・・」
困惑気味にそう言うも、時雨はまだ去ろうとしなかった。
「あ、悩みの種はもしかしてそれかな?」
時雨は翠の手にあるチラシを掠め取った。
「ああっ!」
「ふむふむ、なるほど」
時雨はそのチラシで翠の悩みが何かをすぐに悟った。
というのも、ほのかからいつも部活の事を聞いており、全てを知るにはそのチラシ一枚で十分だった。
「ふふふ、良ければ君に策を授けよう」
まるで楽しい事を思い付いたかのように時雨はにこりと笑ってそう言った。
放課後、翠は部室に寄った後幽霊部員の一人、夏輝の居る教室に向かった。
「夏輝、少しお時間宜しいですか?」
「んー? 何だよ」
夏輝はまだ教室で日直の日誌を書いているところだった。
「実はですね、書道部存続の危機でして、あなたの力をお借りしたいのです」
「力って?」
夏輝は眉をひそめたが、取り敢えず少しだけ話を聞く事にした。
「これです! 県主催の高校書道コンクールです! 校長先生と顧問の先生からこれに参加しろと圧力を掛けられてまして、誰に見せても恥がないように全力で練習しましょう」
文化祭と違って校外の人は勿論、業界人等に見てもらう為、適当なものは出せないという判断だった。
「はあ? 嫌だね。部活なら名前だけって話だろ。冬の間はバイトも多くするつもりだし」
日誌は四分の三程書き終わっており、夏輝はそれが終わればすぐにでも帰ろうと思っていた。
「即答ですか。まあ、それも想定内です。ある人に助言を頂きまして、秘密兵器を持ってきました」
「は?」
夏輝は翠の言う秘密兵器とやらを見ると目をまん丸くした。
目の前には紙切れを両手に持ったほのかが立っていた。
翠は部室に寄った時にほのかを連れてきていた。
「幽霊部員の方がもし入賞出来たなら私からレジャー施設のチケットをプレゼントします」
「だ、だから何だよ。そんなの別にバイトすれば自分でも買えるし・・・・・・」
翠はここぞとばかりに含みのある笑みで言った。
「おや、それは残念ですね。ペアチケットになっていて月島さんと一緒に行ってもらうのが条件でしたが月島さんと行くのはお嫌でしたか、そうですか、いやー本当に残念だなぁ・・・・・・」
「ぐっ・・・・・・てめー、卑怯だぞ!」
夏輝は翠の胸倉を掴みキッと睨みつけた。
「夏輝、いくら私を睨んでもちっとも恐くないので無駄ですよ。何年あなたと腐れ縁だと思ってるんですか? さて、夏輝が不参加なら他の幽霊部員にあげるしかないですねぇ、いや残念残念」
翠は胸倉にある夏輝の手を解くとくるりと背を向けた。
「お、おい!」
「はい、何でしょう?」
「・・・・・・る」
「はて、良く聞こえませんでしたねぇ」
「だーー、もーー、やるっつてんだろ!」
チケットは確かに夏輝にも買う事は簡単だ。
だが、自分からほのかを誘うのと、もれなくほのかがついてくるのを天秤にかけた時、夏輝の中で皿は確かに後者に傾いた。
翠は己の勝利にほくそ笑んだ。
「では明日からよろしくお願いしますね」
翠とほのかは今度は体育館へと向かった。
「居ましたね、今日はバスケットボールですか」
体育館でバスケットボールをしていたのは部活の助っ人で参加していた陽太だった。
暫く練習を見ていると陽太は視線に気が付き二人に近寄った。
「あれ、先輩に月島さん。珍しいですね、どうしたんですか?」
「実はですね、書道部の危機なんです!」
「はい?」
それから翠は書道部全員でコンクールに参加しなければならない事を説明し、夏輝と同じ様にレジャー施設のペアチケットを見せた。
「それって入賞しなきゃ貰えないんですよね・・・・・・」
「そうですよ。しかも他の部員にも声を掛けてますからねぇ」
もし他の人が入賞したら、と陽太は想像した。
すると焦燥感に襲われた陽太は翠に返事をした。
「俺も参加します」
「ありがとうございます。では明日からよろしくお願いしますね」
残るは冬真だが、教室には既に姿がなく、翠は電話を掛けた。
『はい』
「ああ氷室君、こんにちは」
『こんにちは先輩。珍しいですね、電話してくるなんて。どうかしたんですか?』
冬真は何かあったのだろうと察していた。
それだけ翠が電話してきた事が今迄なかったのだ。
「実はですね・・・・・・」
翠は他の二人と同様にコンクールの説明とこれまでの経緯を説明した。
『分かりました』
冬真の返事は至極あっさりとしたものだった。
「ありがとうございます。では明日よろしくお願いします」
こうして、翠は三人の幽霊部員から協力が得られる事になり明日からの指導に心を踊らせた。
「先生、大事な話というのは?」
「ああ露木君、実はだね、部活動の事でなんだが・・・・・・、校長が書道部は部活動として成り立っているのか気にされていてね」
翠はこの手の話に嫌な予感がしていた。呼び出し等ろくな話があったためしがない。
「文化祭でもちゃんと全員で作品を展示しましたが・・・・・・」
「そうなんだけれど、校長が部室を通りかかるといつも一人か二人しか居ないと心配しておられた」
「え、ええ、まあ、私と月島さんが主に活動をしていて・・・・・・、他の部員もたまに来ますよ」
聞こえるか聞こえないかの声で「一瞬だけ」と翠は付け加えた。
「そこでだ。県でこんな催しがあってね。これに是非参加して欲しいそうだ」
「はい・・・・・・」
翠はにこやかに笑う先生が差し出すチラシを受け取るとそれをまじまじと見詰めた。
「はあ・・・・・・困りました」
これはまた厄介な事になったと翠は溜息を吐いた。
「おや、書道部の部長の露木君じゃないか、どうしたんだい、溜息なんかして」
「え? 秋本先生」
正面から歩いてきた翠に声を掛けたのは時雨だった。
「まさか、体調不良かい? 頭痛、めまい、吐き気は? それとも腹痛、熱?」
時雨は翠の顔色を観察し額に手を当てた。
「うーん、熱はないようだ。怪我とかもなさそうだし・・・・・・」
「お気遣いありがとうございます。頗る元気ですので大丈夫です」
「ふーむ、じゃあ恋の悩みとか・・・・・・」
翠は話を早く切り上げたいと思っていたが、時雨はまだしつこく翠に絡んでいた。
「いえ、違います・・・・・・」
困惑気味にそう言うも、時雨はまだ去ろうとしなかった。
「あ、悩みの種はもしかしてそれかな?」
時雨は翠の手にあるチラシを掠め取った。
「ああっ!」
「ふむふむ、なるほど」
時雨はそのチラシで翠の悩みが何かをすぐに悟った。
というのも、ほのかからいつも部活の事を聞いており、全てを知るにはそのチラシ一枚で十分だった。
「ふふふ、良ければ君に策を授けよう」
まるで楽しい事を思い付いたかのように時雨はにこりと笑ってそう言った。
放課後、翠は部室に寄った後幽霊部員の一人、夏輝の居る教室に向かった。
「夏輝、少しお時間宜しいですか?」
「んー? 何だよ」
夏輝はまだ教室で日直の日誌を書いているところだった。
「実はですね、書道部存続の危機でして、あなたの力をお借りしたいのです」
「力って?」
夏輝は眉をひそめたが、取り敢えず少しだけ話を聞く事にした。
「これです! 県主催の高校書道コンクールです! 校長先生と顧問の先生からこれに参加しろと圧力を掛けられてまして、誰に見せても恥がないように全力で練習しましょう」
文化祭と違って校外の人は勿論、業界人等に見てもらう為、適当なものは出せないという判断だった。
「はあ? 嫌だね。部活なら名前だけって話だろ。冬の間はバイトも多くするつもりだし」
日誌は四分の三程書き終わっており、夏輝はそれが終わればすぐにでも帰ろうと思っていた。
「即答ですか。まあ、それも想定内です。ある人に助言を頂きまして、秘密兵器を持ってきました」
「は?」
夏輝は翠の言う秘密兵器とやらを見ると目をまん丸くした。
目の前には紙切れを両手に持ったほのかが立っていた。
翠は部室に寄った時にほのかを連れてきていた。
「幽霊部員の方がもし入賞出来たなら私からレジャー施設のチケットをプレゼントします」
「だ、だから何だよ。そんなの別にバイトすれば自分でも買えるし・・・・・・」
翠はここぞとばかりに含みのある笑みで言った。
「おや、それは残念ですね。ペアチケットになっていて月島さんと一緒に行ってもらうのが条件でしたが月島さんと行くのはお嫌でしたか、そうですか、いやー本当に残念だなぁ・・・・・・」
「ぐっ・・・・・・てめー、卑怯だぞ!」
夏輝は翠の胸倉を掴みキッと睨みつけた。
「夏輝、いくら私を睨んでもちっとも恐くないので無駄ですよ。何年あなたと腐れ縁だと思ってるんですか? さて、夏輝が不参加なら他の幽霊部員にあげるしかないですねぇ、いや残念残念」
翠は胸倉にある夏輝の手を解くとくるりと背を向けた。
「お、おい!」
「はい、何でしょう?」
「・・・・・・る」
「はて、良く聞こえませんでしたねぇ」
「だーー、もーー、やるっつてんだろ!」
チケットは確かに夏輝にも買う事は簡単だ。
だが、自分からほのかを誘うのと、もれなくほのかがついてくるのを天秤にかけた時、夏輝の中で皿は確かに後者に傾いた。
翠は己の勝利にほくそ笑んだ。
「では明日からよろしくお願いしますね」
翠とほのかは今度は体育館へと向かった。
「居ましたね、今日はバスケットボールですか」
体育館でバスケットボールをしていたのは部活の助っ人で参加していた陽太だった。
暫く練習を見ていると陽太は視線に気が付き二人に近寄った。
「あれ、先輩に月島さん。珍しいですね、どうしたんですか?」
「実はですね、書道部の危機なんです!」
「はい?」
それから翠は書道部全員でコンクールに参加しなければならない事を説明し、夏輝と同じ様にレジャー施設のペアチケットを見せた。
「それって入賞しなきゃ貰えないんですよね・・・・・・」
「そうですよ。しかも他の部員にも声を掛けてますからねぇ」
もし他の人が入賞したら、と陽太は想像した。
すると焦燥感に襲われた陽太は翠に返事をした。
「俺も参加します」
「ありがとうございます。では明日からよろしくお願いしますね」
残るは冬真だが、教室には既に姿がなく、翠は電話を掛けた。
『はい』
「ああ氷室君、こんにちは」
『こんにちは先輩。珍しいですね、電話してくるなんて。どうかしたんですか?』
冬真は何かあったのだろうと察していた。
それだけ翠が電話してきた事が今迄なかったのだ。
「実はですね・・・・・・」
翠は他の二人と同様にコンクールの説明とこれまでの経緯を説明した。
『分かりました』
冬真の返事は至極あっさりとしたものだった。
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