病弱少女は今日も遺書を書く

帝亜有花

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喋るな変態!

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 翌日、健がいつものように花梨の病室に向かっていると、その病室の前で花梨の母親が立っていた。

「こんにちは、あなたが佐田島君?」

「は、はい、初めまして! 佐田島 健です。お嬢さんとは常々清く正しい交際をさせて頂いております! あと娘さんを僕に下さい!」

 健は母親という存在に一ミリも怯むことなく、堂々と挨拶をした。

「ちょっと!! 付き合ってなんかないからっ!!」

 病室の中で聞き耳を立てていた花梨はついそう叫んだ。

「あ、あらあら、あの子ったらあんな大声で・・・・・・私は花梨の母親です。いつもお見舞いありがとうね」

「いえ、あのう、今日はすず・・・・・・花梨さんは?」

「ええ、まぁ中に居るのは分かったかと思うけれど、あの子に頼まれたのよ。佐田島君、酷な事を言うようだけれど、あの子もうあなたに会いたくないからここに来ないように伝えて欲しいって言うのよ」

 これは逃げだ。
 逃げだって分かっていた。
 直接言えばいい事なのに、面と向かって言う勇気が花梨にはなかった。
 直接会ってしまえばどうせあの男にほだされてしまう気がしていた。

「そうなんですか、分かりました」

 そう言って健は病室の扉に手をかけようとした。

「ええ、ちょ、ちょっと佐田島君、私の話聞いてたかしら?」

「はい、しかと聞きました! でも、その要望は拒否って事で」

「えええ? ちょっと待って」

「はい、待ちます」

 母親はくるりと後ろを向き、病室の扉をほんの少し開いた。

「花梨、お母さんダメそう。とっても押し負けそう。あの子ちょっと変わってるわ」

「しっかりしてよお母さん!」

 花梨は思ったより頼りにならない母親と我が強すぎる健と病を持った自分に目眩がした。

「ええとね、あの子はああ言うけれど、本当は毎日あなたが来てくれる事、凄く楽しみにしているんじゃないかと思うのよ。最近あなたの事良く話しているのよ」

 母親は花梨には聞こえないようにひっそりとそう言った。

「そうなんですか! じゃあなんで!?」

「そうね・・・・・・いつか来る別れが辛くなるから、かもしれないわね」

「えっ・・・・・・」

 それは健が一番聞きたくない言葉でもあった。
 毎日見る花梨のやせ細って弱々しい体、青白い顔、そして彼女が口癖のように言う『いつ死んでもおかしくない』という台詞。
 いつか来る現実・・・・・・それだけは考えないように、考えないように、考えないように、ずっと目を背けてきた。

「このまま毎日会ってたら・・・・・・あたし、健の事、本気で好きになっちゃう。これ以上好きになって別れが辛くなるくらいなら・・・・・・って事ですか?!!」

 健は似ていない花梨の声真似をし、もじもじと気色悪く体をくねらせながら言った。
 母親はそんな姿にドン引きし、声を失っていた。

「う、うるさい! もう喋るな変態!」

 花梨は嫌でも聞こえてきた声についそう怒鳴った。

「ふぅ、仕方がないですね。元気そうな花梨さんの声も聞けたことですし、今日はこれで帰ります」

「今日はって、明日も来るつもりなの?」

「はい! 確かに、そのいつかは来るかもしれません。だけれど、僕は諦めていないんです。いつか元気になって一緒に学校に行ける事、一緒に授業を受けたり、一緒に遊んだり、一緒に未来を歩んでいける事・・・・・・。そして、例えその別れの日が来ようとも、花梨さんの人生、一人じゃなかったんだって思って欲しいから。じゃ、これ今日のお見舞いの品です」

「あ、ありがとうね」

 母親は健からビニール袋を受け取るとそこには水で増えるカットわかめが入っていた。

「何故わかめ?」

 健が去り、母親は病室に戻った。

「あの子、変わってるけどいい子ね」

 そう言うも、花梨の返事は無かった。

「あら、花梨、寝ているの?」

 寝てなどいなかった。
 花梨は必死に寝たフリをしていた。
 声を出せば泣いている事がバレてしまうからだった。
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