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別荘1階『~ モノローグ ~』
しおりを挟む『 マモルの場合 』
「では、こちらへどうぞ」
スーツ姿の男が案内を始める。
「タクシーにいる、もう一人は?」
俺が聞く。
「大丈夫です。後ほどご案内いたします。
さあ、どうぞ」
スーツ姿の男はそう言うと、別荘の入り口へと向かう。
まずい。
タクシーの運転手を巻き込んでしまった。
どうする・・・
このスーツ姿の男は、俺たちを誰かと間違えているのは確かだ。
隣のクレナイを見ると、冷たい表情のまま、ゆっくりと見返してくる。
非情な女だ・・・
「どうぞ、スリッパです」
スーツ姿の男は玄関でスリッパを差し出す。
俺とクレナイはスリッパを履き、スーツ姿の男の後をついて行く。
いかにもな感じの和風の長い廊下だ。
左側は庭園が広がる。
右側には、ふすまがズラリと並ぶ。
いったい、いくつ部屋があるのか。
とんでもない豪邸だ。
しばらく進むと、スーツ姿の男が足を止め、ふすまを開ける。
「こちらです。
スリッパを脱いでお上がり下さい」
俺とクレナイが和室の部屋に入ると「しばらくお待ちください」とスーツ姿の男が言い、去って行った。
「どうするんだ?これから」
俺が座卓の座布団に座り、クレナイに聞く。
「そうね・・・」
クレナイは腕組みをして、ゆっくりと部屋を歩く。
「タクシーの運転手はどうするんだ?」
「あなたはどうしたいの?」
「どうしたいって、助けるに決まってるだろ。
これでも、まだ警官だ」
「そうよね・・・
ねぇ、マモル」
「何だ?」
「前にも言ったけど・・・
あなた、警察辞めて、私と組まない?」
「冗談だろ?
そんな事できるか」
「あらそう?いいコンビになると思うけど」
「そういうお前こそ、足を洗おうとは思わないのか?」
「足を洗う?私が?」
「ああ」
クレナイが座卓の向かいに座る。
「出来るわけないでしょ」
「どうして?」
「私についてる血は、洗ったぐらいじゃ落ちないからよ」
「・・・・・」
「あんた、なに引いてんのよ」
「あ、いや・・・
お前、今までに何人、」
「そういう話はまた今度よ、今はそれどころじゃないわ」
「そうだな。
で、どうするんだ?」
「やる事は一つよ」
「ひとつ?」
「頭を取るのよ」
「頭?」
「そうよ、何においてもトップを消せば終わり。
簡単な話よ」
「簡単って、お前・・・」
「よーし、それじゃ行くわよ、マモル!
頭を狩るわよ!」
「頭をかるって、散髪じゃねぇんだから」
スー、バタン!!
突然ふすまが開く。
「まずい!バレてます!」
タクシー運転手が大慌てで飛び込んで来た。
な!何だ!?
『 タクシー運転手の場合 』
バタン。
どう見てもヤクザの男がタクシーに乗り込んで私に言う。
「このまま進んで下さい。
門から入って左に駐車場があります」
「は、はい」
私は、言われるがままにタクシーを駐車場に入れる。
ど、ど、どうなるんだ、一体?
私は自分の言った事を思い返してみる。
『いや~ドラマとかでよくあるでしょ?前の車追ってくれってヤツ。
私、ああいうの一回やってみたかったんですよね!』
私は、アホだ。
アホの極みだ。
これぞマサに自業自得。
なにが、
『一度くらい羽目を外したっていいじゃないか』
だ!
見ろよ!これ!
どうすんだよ!
ヤクザの本拠地だぞ!
ど真ん中だぞ!
どうすんだよ!
「それじゃ、行きましょうか」
バタン。
どう見てもヤクザの男が車から降りる。
「は、はい」
私は覚悟を決める。
そう言うとカッコよく聞こえるが、そうするしかないのだ。
私には、選択肢などないのだ。
ただ言われるがままについて行くしかないのだ。
なぜなら私は、単なるタクシードライバーなのだからだ。
別荘の玄関に入ると、どう見てもヤクザの男がスリッパを用意してくれた。
「どうぞ」
「あ、いや、このままで結構です」
私はやんわりと断る。
なぜならヤクザの男はスリッパを履いていないからだ。
家の者が履いていないのにスリッパなんか履けるわけながない。
私はどうせこの後、袋叩きに会うのは目に見えている。
そんな袋叩きに会う男がスリッパなんか履けるわけない。
「それでは、こちらへ」
ヤクザの男が長い廊下を進む。
なんて長い廊下だ。
こんな屋敷が本当にあるんだという感動さえ覚える。
状況が違えば、本気で感動していたことだろう。
廊下を半分ほど進んだところでヤクザの男は足を止めると、ふすまを開ける。
「中へどうぞ」
私はヤクザの男に頭を下げると部屋に入る。
誰もいない部屋は純和風だ。
「お呼びするまで、こちらでお待ちください」
ヤクザの男はそう言って、ふすまを閉める。
一体、何がどうなっているのか私には全くわからない。
女がさらわれて、男が追いかける為に私のタクシーに乗った。
そして救出した女が言うには、この別荘に連れ込まれる予定だった。
別荘に男女が行くと、すんなりと向かい入れられた。
なぜ?
さらに私まで・・・
ここまでの所、私は客人としての扱いだ。
本当に訳が分からない・・・
廊下から人の気配とヒソヒソ声がしてきた。
「・・・て、ことは、あの男と女は一体誰だ?」
さっきのヤクザの男とは別の声だ。
どうやら話しているのは2人だ。
「さぁ、わからねぇが、アニキが部屋に案内してた」
「アニキが?」
「ああ」
「て、ことはアニキも気づいていないのか?」
「そうかもしれない」
「男と女はどこの部屋にいるんだ?」
「奥の方だ」
「奥から何番目の部屋だ?」
「それは分からないが、スリッパが置いてある部屋だ」
「スリッパのある部屋か・・・あそこだな。よし、分かった。
すぐに知らせよう」
廊下から気配が遠ざかって行く。
ああ・・・何てことだ。
私は、聞いてしまった・・・
これ・・・
非情にマズい状況のヤツ・・・
あの男女がこれから大変な事になるヤツ。
どうする?
というか、これ完全にアウトだ。
あの2人の事が怪しまれるなら私も同じだ。
これは時間の問題。
私は、ふすまをそっと開け、誰もいないのを確認し廊下へ出る。
奥の部屋の前にスリッパがある。
あそこだ!
あの部屋に2人がいる!
私は急ぎ足でスリッパ目掛けて突き進む。
スリッパを目の前にして、私は少し考える・・・
そして勢い良くふすまを開けると叫んだ。
「まずい!バレてます!」
私は部屋に飛び込み、ふすまを急いで閉める。
「どうした?何があった?」
男性が私に聞く。
「廊下から聞こえたんです!
あなた達の事が怪しいって話してるのを」
「そうか、バレたか・・・」
ドタドタドタ!!
複数の激しい足音が廊下から聞こえる。
来た!
ドタドタドタ!!
徐々に足音が近づいて来る。
男性と女性が身構える。
バタン!!
激しくふすまを開ける音と叫び声がする。
「何だ!どこだ!!
奴らはどこに行った!!」
「ここに居たはずです!!」
男たちの叫び声が隣の部屋から聞こえる。
不思議に思った男性が小声で私に聞く。
「どうなってるんだ?」
「ここのスリッパを隣の部屋の前に置きました」
私が答える。
隣から男たちの慌てふためく声がする。
「クッソー!何してる!探せ!!
探し出せ!!」
今はまだ見つかってはいない。
だがこの後、私たちはきっと捕まる。
ああ・・恐怖だ・・・
これが本当の恐怖だ・・・
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