ネジレコネクション ~ キャンパスは7色にねじれる ~

刺片多 健

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シークエンス 021

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「大丈夫です。破いたりしませんよ」

マンビさんが、心配そうに見つめる俺に言う。

よかった・・・
マンビさんは冷静だ・・・

「とりあえず、部屋に戻りましょう」
マンビさんが封筒を持ってリビングダイニングへと戻る。
俺も後をついて行く。

俺とマンビさんは、リビングのイスに座る。
そして、マンビさんがテーブルに封筒を置く。

「まずは順番にいきましょう。
 このバラバラになった手紙を完成させて、その後でこの封筒を開けましょう」
マンビさんがそれぞれを指差す。

「そ、そうですね・・・」
もっともだ。
最初の手紙にはルールが書かれてある。
ルールを理解した上で、次の封筒に進むのが正解なのは間違いない。

俺とマンビさんは、バラバラになった手紙をつなぎ合わせる作業を開始する。

どうやらマンビさんは、封筒を俺と一緒に開けるという事らしい。
俺は、真っ先に封筒を奪い取ろうとしていた自分が恥ずかしく思えてきた。

が!

んな事知るか!

俺は逃げのびるのだ!
この303号室から、何が何でも先に逃げ出すのだぁあああ!!

「できましたね・・・」
マンビさんがつぶやく。

テーブルの上には、ツギハギになった手紙が見事に完成している。
俺とマンビさんは手紙を覗き込む。


・暗証番号の入力ミスは2回まで
・先に出ると勝利、敗者はデータを警察へ
・制限時間90分
・時間オーバーで、全データを警察へ
・共通点
・器物破損は、全データを警察へ
・勝者は63万円を得る

「制限時間があるんですね・・・」
マンビさんがつぶやく。
「ヘンタくん。君、ここに何時ごろ来たか覚えてますか?」

「1時です」

マンビさんが壁の時計を見る。
「今が、2時10分か・・・て、ことは・・・」
 70分経過しています。だから制限時間は、残り20分です」

に!20分!
あと20分でここから出なくてはいけないのか!
できんのか!?
そんな事!できるのか!!?

まだ手掛かりはゼロ!
最初に手紙をビリビリに破いて時間ロス!
風呂場でもたつき時間ロス!
あれよあれよで70分!
残りたったの20分!
ダメやー!
全然ダメやー!!

てか『勝者は63万円を得る』って何?
お金もらえるの?
マジで?

「それじゃ、開けましょうか?」
思いのほか冷静なマンビさんが封筒を手に取る。

「そ、そうですね・・・」
俺は63万円が気になるが、まずは封筒だ。

マンビさんが封筒を開ける。
「写真・・ですね・・」
そう言ってマンビさんが2枚の写真をテーブルに並べる。

あッ!!

俺の表情が固まる。
それは、俺が金庫の前で札束を両手で持ち上げて不敵な笑みを浮かべている写真だ。
そう、あの時の防犯カメラ映像の写真だ。
盗んでいないのに、盗んだことになっている130万円窃盗の瞬間の写真だ。

で、もう一枚は・・・

金庫の前で札束を持つ、マンビさんの写真だ。

・・・同じ、だ・・・ほぼ、同じだ・・・
これが、共通点、て、ことか・・・

マンビさんも、俺と同じ状況に置かれているのは手に取るようにわかった。

「あ、俺!これ、すぐ返したんですよ、金庫に!」
俺は聞いてもいないマンビさんに説明する。

ふとマンビさんを見ると、下唇がプルプルと震えている。

「あ、あの・・ヘンタくん・・」
マンビさんがつぶやく。

「はい」

「君に、お願いが、」

ピンポーン!

突然チャイムの音が響き渡る。

俺とマンビさんが、ビクッ!となり顔を見合わせる。

ゴットン!!

何か重い物が郵便受けに落ちる音が聞こえる。

俺とマンビさんが玄関へ行き、郵便受けを確認する。

「こ、これは・・・」
マンビさんが郵便受けからトンカチを取り出す。

「トンカチですね」

「・・・・・」

「どうしたんです?」
俺が、神妙な顔をするマンビさんに聞く。

「ちがう・・・」

え?
「何が、違うんですか?」

「ソウ、じゃない・・・」

「え?」

「ヘンタくん。これ、映画のソウじゃないです」

「どういう事ですか?」

「ソウとは、ノコギリの事です」

「ノコギリ?」

「はい、でも、これはトンカチです」

「ですね」

「・・・・・あ、」

「どうしたんです?」
何かひらめいたマンビさんに俺が聞く。

「このプロジェクト・・・もしかして、ダラボンじゃないですか?」

「ダラ、ボン?・・・あ!そうです!何かそんな感じです!!」
そうだ!ダラボンだ!

「だったら・・・」

「だったら?」

「これ、ショーシャンクですよ!」

「ショーシャンク?」

「はい!ショーシャンクの空に、ですよ!知りません?」

「なんか聞いたこと、あるような、ないような・・・」

「刑務所から脱獄する映画です。ロックハンマーっていうトンカチを使って!」

「そ、そうなんですね!」
なんか、1歩進んだ気がする。
が、恐らく、隠しカメラで見ている監督とレナが、全然先に進まない俺たちに痺れを切らしてトンカチを投げ入れたのだろう。

「で、映画では、トンカチを使ってどうやって脱獄するんですか?」

「たしか・・壁に穴を開けてたと思う・・・」

て、ダメやん!
ここの物を壊したら、警察に証拠を突き出すんやろ?
壁に穴とか絶対ダメやん!
それに、穴を開けるにも、あと20分でとか到底無理やん!
てかもう、20分切ってるし!

「ど、どうするんですか?」
俺がマンビさんに聞く。

「先に出ます」

「え?」

「僕が、ここから先に出ますね」

はぁ?
なぁにぃー!!?
てめぇ!
なぁにぃをいってんだぁあああ!!!

「ちょちょ!待って下さい!」
俺が慌てる。

「大丈夫、慌てないで下さい」

は?

「いいですか、ヘンタくん。僕、言いましたよね?
 このプロジェクトは、映画になぞらえているって」

「ええ・・はい」

「映画ではまず1人が脱獄するんです。
 だから僕が先に外に出ます」

はぁ?

だからおめえは、
「な、何を言っているんですか?」

「ヘンタくん・・僕、さっき言いかけたけど、お願いがあるんですよ」

「何です?お願いって」

「実は、ルールの最後にあったでしょ?先に出ると63万円もらえるって」

「ええ」

「あの63万円は僕のためなんですよ」

はぁ?
「ど、どういう事ですか?」

「僕、金庫のお金を使っちゃったんですよ」

はぁ?
「使った?何に?」

「公営競技・・・」

「は?」

「一般的に言うところのギャンブルです」

「ギャンブル?」
それでか・・・それで、63万円という中途半端な金額だったんだ・・・
てか、この人、ダメな人や・・・
人として、ダメな人や・・・

「あ!・・・いや、ちょっと借りただけだったんですよ!
 すぐ取り戻せると思って何度も何度も挑戦したら、あっという間に、63万が・・」

何度も何度も挑戦したらって・・・
そんな努力したみたいな感じで言われてもねぇ。

「だからヘンタさん!お願いです!
 僕を先にここから出させてもらえませんか!?」

「・・・・・」

「そ!それに!映画の最後はハッピーエンドなんですよ!」

ハッピーエンド?
「そ、そうなんですか?」

「はい!なんかこう!最高のハッピーエンドなんですよ!」

「・・・・・」
俺は考える。

果たしてそうなのか?
あの2人がハッピーエンドなどで終わらせるものなのか?
だってこれまで、何も起こっていないのだ。
俺とマンビさんは、303号室で手紙を読んで、お互いの犯罪現場の証拠写真を見ただけなのだ。
これまでの映研のプロジェクトからすると、何事も起こっていないのだ。

ピ!ピ!ピ!ピ!

マンビさんが勝手にドアロックに暗証番号を打ち込む。

あッ!!おめぇ!
「な!何して!」

ブブー

無常にもブザーが鳴る。
ドアロックのランプは赤いままだ。

「あれ?
 なんで開かないんだろう?」
マンビさんがつぶやく。

いやいや!あんた!
なに勝手な事やってんのよ!
「ちょっと!何してるんですかッ!」
俺が声を荒げる。

「脱出するんですよッ!ここからッ!」
マンビさんが叫ぶ。

んなッ!
「自分だけ助かる気ですかッ!!」
俺が核心を突く。

「だって!君!未遂でしょ!」
マンビさんの目が血走る。

「え?」

「さっき言ったじゃないですか!お金を戻したって!盗んでないって!」

「・・・・・」

「僕!とったんです!盗んだんですよ!お金を!!
 僕ね!4年生です!今、捕まったら就職なんてできません!!
 だったら!君が捕まって下さい!未遂なんだから容疑を晴らせばいいだけでしょ!!」
マンビさんが一気にまくし立てる。

「・・・・・」

確かにその通りだ。
俺は無実だ。
そしてマンビさんは犯罪者だ・・・

ん?

て、これ・・俺、悪くないよね?
悪いのは、お金を盗んだアンタよね?ギャンブルにつぎ込んだアンタよね?

「それもこれも!君のせいだッ!!」
マンビさんが俺を指差す。

は?
「何で・・?」

「君が僕に声をかけたからだッ!」

「え?」

「あの中庭ですよ!あの中庭で僕と会ったでしょ!」

「ええ」

「僕が映研を辞める時に、誰にも喋らなければ、お金の事は無かった事にするって契約だったんです!」

そういえば言ってたな。
秘密保持契約とかってヤツだ。

「だけど君が、しつこく僕から聞き出したんだッ!!」

いや、あれは、アンタが勝手にペラペラ喋ったんやろ。

「それが、彼らにバレたんだ!
 だから僕は巻き込まれたんだ!きっとそうだ!」

ま、確かに、その通りだ。
あの時、俺と中庭で会わなければ、こんな事にはなっていなかったかもしれない。

「だから君には責任があるんですよ!
 僕を先に逃がすという責任が!そうでしょ!」
マンビさんが顔を真っ赤にして叫ぶ。

「・・・・・」
俺は言い返せない。
多分、どちらも間違っていないからだ。
どちらが正しいのかは分からないが、間違ってはいないのだ。

マンビさんが先に出れば、盗んだお金がチャラになる。
その代わり俺は130万円を盗んだ犯罪者として捕まることになる。
ま、その場合、容疑は晴れるだろう・・・たぶん。
でも俺には、それよりも大事な事がある。

「それとも何ですか?君には、まだ何か秘密があるんですか!?」
マンビさんが目をギラつかせる。

「え?」

「君には、この部屋から先に出なければならない理由があるんですか!?」
マンビさんが血走る目で俺を見る。

「あ、えっと・・」

どうする?
言うか?
言ってしまうか?
でも俺の事と、63万円の窃盗に比べたら・・・

「何ですッ!?
 あるんですか!?ないんですか!?」
マンビさんが叫ぶ。

「ありますッ!」
俺も叫ぶ。

「どんな秘密ですか?」
マンビさんが俺を睨むように聞く。

「好きな、人がいます・・」

「誰です?」

「中庭の・・・」

「盗撮してた子ですか?」

「はい・・」

「それと、映研がどう関係するんですか?」

「話すと長くなるんですが・・・」

「簡潔にお願いします」

「あの子が、今、映研に入会してて、活動内容をまだ知らないんです。
 だから俺が何とかして、あの2人から守ろうとしてるんです」

「ふ~ん。
 言っている意味が分りません」

「いや、だから・・とにかく俺が余計な事をすると、全部あの子にバラすぞ!って脅されてるんです。
 そんな事されたら、俺、ただの変態ウソつき野郎になるんですよ!」

ピ!ピ!ピ!ピ!

再びマンビさんが、勝手にドアロックに暗証番号を打ち込む。

ちょ!おまッ!

ブブー

無常にもブザーが鳴る。
ドアロックのランプは赤いままだ。

終わった・・・

『暗証番号の入力ミスは2回まで』
これでもう間違えることが出来ない。

「ちょっと!何やってんですか!」
俺はマンビさんをドアロックから遠ざける。

「だって!だって!
 もう時間がないんです!」
マンビさんがドアロックに近づこうともがく。

確かにその通りだ。
俺たちには時間がない。
恐らく、あと数分でタイムオーバーだ。
どちらか1人が助かるか。
それとも2人で捕まるか・・・

てか、暗証番号が!まだ分かってねぇえええ!!
どうすんのよ!!!!


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