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03 久しぶりの暗殺

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 明日から魔物の討伐に正式に参加させてもらえるが、俺は時々村の近くに現れた魔物をこっそり倒していた。 



 実戦は久しぶりだ。 

 俺は静かに森の中を駆け抜けた。 

 

 開けた野原にゴブリンの姿を見つける。 

 予想は当たっていた。  

 身長160㎝ほどのゴブリンが一匹。

 道に迷ったみたいに、首をかしげている。 

 

 ゴブリンは仲間で村を作り、そこで暮らすタイプと、群れで移動しながら様々な場所に行くタイプの二種類存在する。

 前者は比較的冒険者から盗んだ防具をつけているのに対し、後者は長距離を移動するため、あまり荷物は持ち運ばず、軽装であることが多い。

 

 このゴブリンの装備は上半身裸、下半身を汚れた布で覆い腰には片手で扱える小さな斧を差している。

 おそらく後者に該当するゴブリンだ。

 

 どうやらこのゴブリンは、群れと離れたのだろう。 

 

 さて、どうやって倒そう。 

 ここでは、村との距離が近すぎる。  

 村に近づけさせる訳にはいかない。

 あと、誰かに見られたら厄介だな。 

 

 ここはひとまず森の中に誘い出すか。 

 

 俺は足元にあった小石を手に取り、木の陰から姿を現した。 

 その瞬間小石をゴブリンに向けて投げた。 

 風を切りながら、一直線にとんでいき頭に命中する。 

 我ながら、なかなかに良い投球だな。 

 

 「こっちだ!」

 「ギィィィ」



 鳴き声を上げ、俺を追いかけてくる。



 俺はゴブリンがついてこれるギリギリのスピードで野原を走り出した。



 森に向かって真っ直ぐ進んでいく。

 ゴブリンも錆びれた斧を持ちながら順調についてくる。



 その斧を投げてくることだけを警戒する。

 

 数分ほど走り、段々と森の中に入っていく。

 次第に背の高い木が増えていき、辺りが暗くなりだした所がポイントだ。



 もうそろそろか。



 俺は後ろを振り返り、ゴブリンが追ってきていることを確認する。

 

 そして、ポイントが近づいて来たところで、一気にスピードを上げ、ゴブリンの視界から消えた。



 「ギィィィ??」



 ゴブリンは立ち止まり、困惑の声を漏らす。

 だいぶ距離が離れた所まで進み俺は木の上に登り、奴を観察する。

 

 四方八方に目を向け、俺を探している。



 一旦ひと呼吸整えよう。

 俺は静かに深呼吸をした。



 そして木の枝を伝いながら、バレないように上から近づいていく。

 木の陰に隠れながら、奴の視線が向こうを向いた瞬間に他の木へと飛び移る。

 着地する時に音が鳴らないように、繊細な注意を払いながら。

 これを繰り返し徐々に距離を詰めていく。

 いつでも逃げることができ、かつ、いつでも相手を殺せるポディションをとる。

 真上にいる俺に、ゴブリンは気づいていない。

 

 ここからが重要だ。



 幼い頃に父から教わったことを頭の中で復習する。



 暗殺の基本は根気だ。

 じっと待ち、確実に殺せるタイミングをうかがう。

 焦ってはいけない。



 呼吸の音さえも、心臓の鼓動さえも最小限に抑える。

 俺は一瞬を待っている。

 奴が隙を見せたその一瞬を。



 何分、何時間掛かるか分からない。

 だが、そのタイミングは誰でも、どんな生物でも必ず訪れる。

 

 ゴブリンはあちこち動き回りやがて俺の足跡を探し始めた。

 どうやら少しは頭が回るようだ。



 まあ、そんなことをしても意味ないのだが。

 途中から足跡は残していない。



 今この瞬間奴が俺を見つけることができるのは、俺のにおいをたどるしかない。

 流石に俺も、自分のにおいを消している暇はなかった。



 しかし、ゴブリンは一般的に鼻が悪い。

 つまり俺を見つけられる可能性はほぼ0%。



 限りなく安全な暗殺。



 静かに時を待つ。 

 

 十分ほど経っただろうか。

 やがて、ゴブリンは諦めたかのように肩の力を抜き、手に持っていた斧を腰にしまった。





 正直俺は魔物との戦闘は得意ではない。

 相手がゴブリンで良かった。

 

 何故なら



 ゴブリンが一番人間に似ているから・・・・・・・・・



 暗殺スキルは対人でこそ力を発揮する。 



 そして奴がもう一度周囲を見渡し、

 踵を返そうとしたその時――――――――



 一気に木の上から奴の背後に飛び降りた。



 無音で。

 殺意を直前まで圧し殺す。



 空中でナイフを持ち変える。



 そして足が地面に付く前に

 

 ――――――スパッ



 ゴブリンの首を一瞬で切り落とした。



 真っ赤な血しぶきが当たり一面に飛び散る。

 返り血で服が汚れないように距離をとる。

 

 ドサッ



 首と胴体が同時に乾いた音を立てて地面に落ちた。

 ポタポタと、刃先からは鮮血が滴り落ちている。

 しっかりと殺したことを確認してから、ナイフに付着した血を拭き取り、ナイフケースにしまった。

 

 冷たい森の空気を胸一杯に吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 

 よし!!!

 ミッションコンプリート!

 



 ゴブリンくらいの相手なら正面から戦った方がはやく倒せたが、それではあまりトレーニングにならない。

 俺は緊張感を味わうため、毎回こうして暗殺を行っている。



 魔法学院の試験までもう時間がない。

 ここから実戦の訓練を増やしてきいたいな。

 

 大人たちが討伐しているため、この村付近にはあまり魔物が出現しない。



 

 今度は少し遠くまで行ってみるか。

 ゴブリンの村を発見出来たらベストなんだがなぁ。

 

 一人でどこまで殺れるか試してみたい所だ。



 そう考え、帰宅の準備をする。

 

 時刻はおそらく午後6時くらいだろう。



 帰りが遅くなって心配をかける訳にはいかない。

 俺は急いで森の中を抜けた。



 ―――



 

 目印にしている木の下に再びナイフを隠す。

 服に血が付いていないか、もう一度確認するとゴブリンがいた野原まで走って戻った。



 膝下まで伸びた草が、ザーッと揺れる。

 夕日は空を赤く染めながら、村の方向に落ちてゆく。

 

 今日の晩ごはんなんだろう?



 そんなことを思いながら、うさぎの如く跳ぶように家に帰った。
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