プリンセス・サーバンツ

みずほたる

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姫様、静かなスローライフを望んだらベリーハードだった件

姫様、快適なスローライフを妄想する

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リィナが天に召された翌日の朝、私は小鳥の囀りで目を覚ました。

まぁ死んでないんだけど。

太陽の光が程よく眩しく、窓を開けると気持ちのいいそよ風が私の赤い髪を靡かせた。

「よしっ、今日も頑張ろう!」

私は頬を軽く叩いたのであった。



「っていう展開を希望してるんだから、邪魔しないでほしいんだけど」

髪はボサボサ。明らかに寝ているところを叩き起こされましたっていう表情をしながら、リビングで水を飲んで文句を言う私。

「ですが姫様。緊急事態なのに、のんきに起きるまで待つことなど私には出来ません」

一歩も引いてくれないオカリナ。まだ夜明け前だというのに、パジャマ姿なのに巨大で物騒な鎌を背負っている。この子はいつ鎌を外しているのだろうか?

「だからって、扉を破壊して大声を上げられても困るのよね」

そう言って私は木っ端みじんにされた扉を見る。

修理するのにいくらするんだろう?

不安でしかない。

「ですが緊急事態です。仕方ないと割り切って下さい」

「で、その緊急事態って何? 家の外は静かなんだけど」

「恐ろしい夢を見ました。トイレに一人で行けませぬ。お付き合い下さい」

「私の部屋にくる途中にトイレあるじゃん! 一人で行けないどころか通り過ぎてる!」

「ハッ、よく考えたらそうでした!」

「ってか、ただ扉を壊しただけじゃない。私の部屋、外から丸見えじゃない?」

こいつは一体何をしてくれるんだ、と苛立ち始めた。

「姫様。若干ですが絶望の波動が身体からあふれ出してます」

「もう大声で叫びたいくらいよ」

「私は構いません。さぁ、波動を解放しましょう! そして憎たらしい聖女の結界を破壊し、魔族再興の次なる一歩に!」

「あのさぁ、この辺りはもう結界は破られてるの。ここで絶望の波動を解放しても、あんまり意味ないと思うよ?」

「そうですね。でもストレスを溜め込むと身体を壊します。とりあえず叫んでおきましょう」

叫べと言われると、したくなくなったので、

「まぁいいわ。今日はこのまま寝る。来客が来たらまず私を起こして」

「かしこまりました!」

敬礼をするオカリナ。忠誠心は認めるがリィナ並みにポンコツなのは残念なところである。

私は壊された扉の修繕費の心配をしながら再び眠りにつくことにした。

どれくらい寝たかはわからないが目を覚ますと、

「おはようございます。姫様」

「うおっ!」

べッドの横で半裸のアクアが片膝をついていたことに驚いた。

「よくお眠りになられておりましたので見守っておりました」

なんか、起こさなかったぞ。俺を褒めろといった顔をしているが、私から見たら変態による不法侵入者である。

褒めるわけがない。

「オカリナはどうしたのよ?」

「多分寝てるんじゃないですかね? 入り口を何度もノックしましたが誰も出て来ませんでしたので、万が一の敵襲がないよう、俺が家を守っておりました」

やってくれたことは褒めてあげたくなったが、服を着ていないから帳消しだ。

「てか、服はどうしたのよ?」

「清涼飲料水を試しに作っていたら爆発してしまい、服がずぶ濡れになり、今乾かしています」

「どうやったら清涼飲料水で爆発するのよ」

「甘さを求めて色々調合を試したのです。ですが姫様。こんなのが出来ました。是非試飲していただきたく思います」

上半身裸のマッチョが両手で透明のグラスに黒い液体が入った物を献上してきた。

怪しさ以外の何物でもない。

しかし、目を凝らすと、小さな粒が液体の中で泡立っているのが見える。

「これ、もしかして炭酸?」

気にはなるが、どうしても飲む気になれない。

リィナがいないのがこんなに辛いとは。

黒い炭酸水といえばコーラが頭に浮かんだのだが、おそらくコーラに似せた液体だろう。

「口にしなくても見ただけで鑑定できる人が欲しいわね」

待てよ?

「アクア。この黒い着色なしで、炭酸水は作れる?」

「その泡の水ならレシピは残しております。早速作って来ましょう」

アクアは出て行こうとすると、

「待って」

「はい。なんでしょう?」

「次から我が家に来る時は服を着てくることを義務化するわ」

「......心に留めておきます」

誰もいないリビングで、私は妄想を膨らませた。

もし炭酸水が完成したらビールが作れるかもしれない。その前にサワーが作れるなぁ。

仕事から帰っていっぱいひっかける。

あぁ、夢のようだ。

「おはようございます。姫様」

オカリナが起きてきた。

「おはよう。オカリナ。起きて早々悪いんだけど頼まれごとしてくれない?」

「ハッ! 姫様のご命令ならばなんなりとお申し付け下さい!」

「森にある果物取って来て欲しいの。果物ならなんでもいいわ。でも甘い物がいいわ」

「かしこまりました!」

「私はアクア待ちだからここにいるわ」


しばらく待つと、

「姫様お待たせしました」

タイミングよくアクアとオカリナが一緒に戻って来た。

アクアが大きな鍋をテーブルに置く。

見れば見るほど炭酸水に見えた。

「姫様。こんなのでよろしいですか?」

オカリナが置いた果物に、私は目を丸くした。

「なんで森にメロンがあるのよ。しかもなんか高級そうなんだけど」

「あちこちにありますよ?」

たまに私の常識が通じない異世界だがメロンにありつけるのはありがたかった。

「オカリナ。この二つを融合して」

「かしこまりました」

言われた通りオカリナは魔力を込めると、メロンが水に溶けていくように見えた。

「姫様。果汁百パーセントのメロンソーダが出来上がりました」

「果汁百パーセントのリンゴジュースなら聞いたことあるけど」

私はそう言いながらコップですくって一口飲んでみる。

「な、何これ。メロンを炭酸で丸ごと飲んでるみたいじゃない」  

私が転生前に飲んできた市販品とは大違いだ。

これって最高級ホテルにも出せないくらいのジュースなんじゃない。

予想よりも遥か彼方斜め上な物を作ってしまったことに驚いたが肝心なことにも気づいた。

誰が買うの? こんな超高級メロンソーダ。

でも売れたら一年は遊んで暮らせる気がする。

私は快適なスローライフを妄想するが、

「うん。これはうまいな」

「なかなかですね」

気づいたらアクアとオカリナは私の思いを気にも留めず超高級メロンソーダを水のように飲んでいた。

「多分一年は遊んで暮らせるようなメロンソーダがぁ」

鍋の中はすっかり空になってしまっていたのであった。

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