46 / 62
46.ストーリーが
彼はもう一度言った。
「俺が好きなのは、お嬢様です」
「え? わたくし?」
「そうです」
シャロンは呆気にとられた。
「俺はどうやらお嬢様のことが、好きなようなのです」
まっすぐ見つめられて告げられ、シャロンは驚きすぎて、何も言えなかった。
すると彼はシャロンの耳元に唇を寄せ、ささやいた。
「今ヒロインが、廊下からこちらを見ています。俺のことを諦めてもらい、攻略対象の誰かに恋をしてもらうために。合わせていただけますか?」
ちらりと廊下に視線を流せば、確かにそこには立ち竦んでいるドナの姿があった。
(そういうことなのね)
ヒロインが、クライヴと結ばれないのなら、彼女には他の相手に目を向けてもらわなければならなかった。
「わかったわ」
「申し訳ありません」
小声でクライヴと会話を交わし、クライヴはシャロンに顔を寄せた。
重なり合いそうな距離で、吐息が触れる。
瞬間、彼はシャロンを抱き締めた。
「すみません。もうしばらく我慢してください」
(え──)
彼の男らしく爽やかな香りと、身体に包まれ、シャロンは硬直する。
廊下で悲鳴が上がり、ぱたぱたと駆け去っていく足音がした。
ヒロインが去ったのだろう。
クライヴはシャロンから身を離した。
「申し訳ありませんでした。俺に合わせていただいて」
シャロンは首を横に振った。
「いいえ。びっくりはしたけれど、わたくしの命と世界の運命がかかっているし、構わないわ」
これからヒロインは、攻略対象に目を向けるだろう。
「お嬢様、ヒロインは絶対に攻略対象と結ばれないといけないのですか?」
彼の双眸が艶やかに煌めき、シャロンはどきっとした。
先程、唇が触れそうな距離まで近づいた。
シャロンとクライヴがキスしているとドナは思ったことだろう。
可哀想だが、この先彼女には素敵な恋が待っている。
シャロンは顎に指を置き、思考を巡らせる。
「攻略対象でなくても、魔王を倒すことができる相手であれば、大丈夫かも。大切なのは魔力を持つ相手と、相思相愛になることだから。愛の力で魔王を倒し、世界は救われるわ」
クライヴは首肯した。
「そうですか。俺に恋をしたのが、彼女の荷物を拾ったからだとすれば、同じシチュエーションを作ればいいです」
「え? きっかけはそれかもしれないけれど、それだけじゃないと思うわよ? なぜあなたに恋をしたかといえば、あなたのやさしさプラス、その外見よ」
「やさしさと俺の外見ですか」
「うん」
攻略対象さえも超えそうな極上のビジュアル。
成長してさらに際立った。
「あなたの見た目が優れ過ぎていて、性格が良いせいね」
それでヒロインは、ライオネルと出会っても、心ここにあらずになってしまっていたのだ。
「そんなことありません。俺はそんな大層なものでは」
「大層なものだわ」
「そうおっしゃってくださるのは、お嬢様だけですよ」
「わたくしだけではないでしょうに」
現にヒロインが出会ってすぐに、恋に落ちているではないか。
シャロンは、はあっと溜息を吐き出した。
こんなイケメンを、ゲームの舞台に置くべきではなかった。
九歳のとき彼を公爵家で雇ったのを、シャロンは悔やんだ。
ストーリーが、くるいはじめている気がしてならない。
「見目麗しいことを自覚しておかないと、今後大変なことになると思うわよ、クライヴ」
彼は苦笑いする。
「彼女は入学し、心細かったとき俺に目を留め、理想化しただけですよ」
彼はそう語るが、シャロンは納得できない。
もし荷物を拾ったのが、他のふつうのひとだったら、きっと恋までしていない。
「魔法学校は魔力保持者ばかりです。攻略対象でなくても良いのなら、違う相手を彼女はすぐ見つけるでしょう」
攻略対象と並ぶ美貌を持つのはクライヴくらいだろう。
次こそヒロインは、攻略対象と恋に落ちるだろう、とシャロンは想像するのだが。
「俺が好きなのは、お嬢様です」
「え? わたくし?」
「そうです」
シャロンは呆気にとられた。
「俺はどうやらお嬢様のことが、好きなようなのです」
まっすぐ見つめられて告げられ、シャロンは驚きすぎて、何も言えなかった。
すると彼はシャロンの耳元に唇を寄せ、ささやいた。
「今ヒロインが、廊下からこちらを見ています。俺のことを諦めてもらい、攻略対象の誰かに恋をしてもらうために。合わせていただけますか?」
ちらりと廊下に視線を流せば、確かにそこには立ち竦んでいるドナの姿があった。
(そういうことなのね)
ヒロインが、クライヴと結ばれないのなら、彼女には他の相手に目を向けてもらわなければならなかった。
「わかったわ」
「申し訳ありません」
小声でクライヴと会話を交わし、クライヴはシャロンに顔を寄せた。
重なり合いそうな距離で、吐息が触れる。
瞬間、彼はシャロンを抱き締めた。
「すみません。もうしばらく我慢してください」
(え──)
彼の男らしく爽やかな香りと、身体に包まれ、シャロンは硬直する。
廊下で悲鳴が上がり、ぱたぱたと駆け去っていく足音がした。
ヒロインが去ったのだろう。
クライヴはシャロンから身を離した。
「申し訳ありませんでした。俺に合わせていただいて」
シャロンは首を横に振った。
「いいえ。びっくりはしたけれど、わたくしの命と世界の運命がかかっているし、構わないわ」
これからヒロインは、攻略対象に目を向けるだろう。
「お嬢様、ヒロインは絶対に攻略対象と結ばれないといけないのですか?」
彼の双眸が艶やかに煌めき、シャロンはどきっとした。
先程、唇が触れそうな距離まで近づいた。
シャロンとクライヴがキスしているとドナは思ったことだろう。
可哀想だが、この先彼女には素敵な恋が待っている。
シャロンは顎に指を置き、思考を巡らせる。
「攻略対象でなくても、魔王を倒すことができる相手であれば、大丈夫かも。大切なのは魔力を持つ相手と、相思相愛になることだから。愛の力で魔王を倒し、世界は救われるわ」
クライヴは首肯した。
「そうですか。俺に恋をしたのが、彼女の荷物を拾ったからだとすれば、同じシチュエーションを作ればいいです」
「え? きっかけはそれかもしれないけれど、それだけじゃないと思うわよ? なぜあなたに恋をしたかといえば、あなたのやさしさプラス、その外見よ」
「やさしさと俺の外見ですか」
「うん」
攻略対象さえも超えそうな極上のビジュアル。
成長してさらに際立った。
「あなたの見た目が優れ過ぎていて、性格が良いせいね」
それでヒロインは、ライオネルと出会っても、心ここにあらずになってしまっていたのだ。
「そんなことありません。俺はそんな大層なものでは」
「大層なものだわ」
「そうおっしゃってくださるのは、お嬢様だけですよ」
「わたくしだけではないでしょうに」
現にヒロインが出会ってすぐに、恋に落ちているではないか。
シャロンは、はあっと溜息を吐き出した。
こんなイケメンを、ゲームの舞台に置くべきではなかった。
九歳のとき彼を公爵家で雇ったのを、シャロンは悔やんだ。
ストーリーが、くるいはじめている気がしてならない。
「見目麗しいことを自覚しておかないと、今後大変なことになると思うわよ、クライヴ」
彼は苦笑いする。
「彼女は入学し、心細かったとき俺に目を留め、理想化しただけですよ」
彼はそう語るが、シャロンは納得できない。
もし荷物を拾ったのが、他のふつうのひとだったら、きっと恋までしていない。
「魔法学校は魔力保持者ばかりです。攻略対象でなくても良いのなら、違う相手を彼女はすぐ見つけるでしょう」
攻略対象と並ぶ美貌を持つのはクライヴくらいだろう。
次こそヒロインは、攻略対象と恋に落ちるだろう、とシャロンは想像するのだが。
あなたにおすすめの小説
リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~
汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。
――というのは表向きの話。
婚約破棄大成功! 追放万歳!!
辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19)
第四王子の元許嫁で転生者。
悪女のうわさを流されて、王都から去る
×
アル(24)
街でリリィを助けてくれたなぞの剣士
三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
「さすが稀代の悪女様だな」
「手玉に取ってもらおうか」
「お手並み拝見だな」
「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」
**********
※他サイトからの転載。
※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした
Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。
同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。
さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、
婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった……
とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。
それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、
婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく……
※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』
に出てくる主人公の友人の話です。
そちらを読んでいなくても問題ありません。
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。