乙女ゲームの悪役令嬢だったので、悪役になる覚悟ですが、王子様の溺愛が世界を破滅させてしまいそうです

葵川真衣

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46.ストーリーが

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 彼はもう一度言った。

「俺が好きなのは、お嬢様です」
「え? わたくし?」
「そうです」

 シャロンは呆気にとられた。

「俺はどうやらお嬢様のことが、好きなようなのです」
 
 まっすぐ見つめられて告げられ、シャロンは驚きすぎて、何も言えなかった。
 すると彼はシャロンの耳元に唇を寄せ、ささやいた。

「今ヒロインが、廊下からこちらを見ています。俺のことを諦めてもらい、攻略対象の誰かに恋をしてもらうために。合わせていただけますか?」

 ちらりと廊下に視線を流せば、確かにそこには立ち竦んでいるドナの姿があった。

(そういうことなのね)
 
 ヒロインが、クライヴと結ばれないのなら、彼女には他の相手に目を向けてもらわなければならなかった。

「わかったわ」
「申し訳ありません」

 小声でクライヴと会話を交わし、クライヴはシャロンに顔を寄せた。
 重なり合いそうな距離で、吐息が触れる。
 瞬間、彼はシャロンを抱き締めた。

「すみません。もうしばらく我慢してください」

(え──)
 
 彼の男らしく爽やかな香りと、身体に包まれ、シャロンは硬直する。
 廊下で悲鳴が上がり、ぱたぱたと駆け去っていく足音がした。
 ヒロインが去ったのだろう。
 クライヴはシャロンから身を離した。

「申し訳ありませんでした。俺に合わせていただいて」

 シャロンは首を横に振った。

「いいえ。びっくりはしたけれど、わたくしの命と世界の運命がかかっているし、構わないわ」
 
 これからヒロインは、攻略対象に目を向けるだろう。

「お嬢様、ヒロインは絶対に攻略対象と結ばれないといけないのですか?」

 彼の双眸が艶やかに煌めき、シャロンはどきっとした。
 先程、唇が触れそうな距離まで近づいた。
 シャロンとクライヴがキスしているとドナは思ったことだろう。 
 可哀想だが、この先彼女には素敵な恋が待っている。

 シャロンは顎に指を置き、思考を巡らせる。

「攻略対象でなくても、魔王を倒すことができる相手であれば、大丈夫かも。大切なのは魔力を持つ相手と、相思相愛になることだから。愛の力で魔王を倒し、世界は救われるわ」

 クライヴは首肯した。

「そうですか。俺に恋をしたのが、彼女の荷物を拾ったからだとすれば、同じシチュエーションを作ればいいです」
「え? きっかけはそれかもしれないけれど、それだけじゃないと思うわよ? なぜあなたに恋をしたかといえば、あなたのやさしさプラス、その外見よ」
「やさしさと俺の外見ですか」
「うん」

 攻略対象さえも超えそうな極上のビジュアル。
 成長してさらに際立った。

「あなたの見た目が優れ過ぎていて、性格が良いせいね」

 それでヒロインは、ライオネルと出会っても、心ここにあらずになってしまっていたのだ。

「そんなことありません。俺はそんな大層なものでは」
「大層なものだわ」
「そうおっしゃってくださるのは、お嬢様だけですよ」
「わたくしだけではないでしょうに」

 現にヒロインが出会ってすぐに、恋に落ちているではないか。
 シャロンは、はあっと溜息を吐き出した。
 こんなイケメンを、ゲームの舞台に置くべきではなかった。
 
 九歳のとき彼を公爵家で雇ったのを、シャロンは悔やんだ。
 ストーリーが、くるいはじめている気がしてならない。

「見目麗しいことを自覚しておかないと、今後大変なことになると思うわよ、クライヴ」

 彼は苦笑いする。

「彼女は入学し、心細かったとき俺に目を留め、理想化しただけですよ」

 彼はそう語るが、シャロンは納得できない。
 もし荷物を拾ったのが、他のふつうのひとだったら、きっと恋までしていない。

「魔法学校は魔力保持者ばかりです。攻略対象でなくても良いのなら、違う相手を彼女はすぐ見つけるでしょう」

 攻略対象と並ぶ美貌を持つのはクライヴくらいだろう。
 次こそヒロインは、攻略対象と恋に落ちるだろう、とシャロンは想像するのだが。
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