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番外編 危険な婚約者(後編)
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「え?」
ライオネルは驚いた顔をし、シャロンを振り返る。
「シャロン、体調が悪いの?」
確かに朝から熱っぽい。
でもそれほどではないし、クライヴにも話してはいなかった。
「あの、熱が少しだけ……」
ライオネルはシャロンの額に掌を当てる。
「気づかなかったよ……」
ライオネルはシャロンの頬を包む。
「ごめんね、シャロン」
クライヴが歩み寄ってきて、シャロンの前に跪いた。
「お嬢様、早く帰られて休まれたほうがよろしいです。お送りいたします」
「クライヴ、僕が送る。君は部屋から出てくれ」
ライオネルが目を眇めて言い、シャロンは困惑した。
そうなれば室内にまたライオネルと二人だけになる。
先程の続きがはじまる……?
(心臓がもたないわ……!)
ライオネルと過ごすのは嫌ではない。うっとりしてしまうくらいなのだけど、同時に怖くもあるのだ。
キスを交わせば、もっと恋心が強くなってしまいそう。
シャロンはこれ以上ライオネルへの想いを募らせたくなかった。
婚約中であるものの、今後魔王は登場するのか、世界は救われるのか、全く未来がみえない。
ヒロインは結婚をして幸せになったけれど、シャロンは不安を感じ、揺らいでいた。
「お嬢様」
クライヴがシャロンの手を取り、促す。
シャロンは頷いて立ち上がる。ライオネルに頭を下げた。
「ライオネル様、わたくし帰りますわ。送っていただかなくても大丈夫です」
「僕に送られたくない?」
シャロンの手に触れ、彼は切なげにこちらを見つめる。
(ライオネル様……)
シャロンは頬が熱くなる。ライオネルの手をそっと解いた。
「いいえ。申し訳なく思うのです。寮までわざわざ来ていただくのも。熱も高くありませんし、クライヴもいますので」
するとライオネルはシャロンの手首を掴み、自らに引き寄せた。
シャロンは椅子の上に崩れるように倒れた。
「ライオネル様……!?」
「僕が送るよ。クライヴ、下がれ」
「ですがお嬢様は」
「下がれと言っている」
ライオネルの語気が鋭さを帯びる。
シャロンは息を詰めた。
ライオネルは非情ではないし優しいけれど、王太子で権力者である。
不興を買い、クライヴが処分を受けてしまうといけない。
「クライヴ。ライオネル様のおっしゃる通りに」
クライヴは唇を引き結び、首を垂れた。
「……はい。それでは失礼いたします」
彼は部屋を横切り、退室する。
冷ややかな空気を纏っていたライオネルは、一転やわらかく笑むと、シャロンに視線を流した。
「シャロン、体調が悪いのに、すまない。もう少しここにいてくれる?」
「はい……」
彼はシャロンをそっと抱き寄せる。
視線が交差し、蕩けてしまいそうだ。
「わたくし……風邪をひいているかもしれません。これほど傍にいればライオネル様にうつしてしまうかもしれませんわ」
「うつしてほしい」
ライオネルはシャロンの髪を指で耳にかける。
「それで君の熱が下がるなら。僕にうつして?」
耳元で囁かれ、身が火照る。
彼の唇が耳朶に触れ、甘い痺れを感じシャロンはばっと立ち上がった。
「シャロン?」
(これ以上、むむむ無理!)
「わ、わたくし、やっぱり帰ります!」
ライオネルと二人きりではいられない。
彼は身を起こした。
「なら送る」
「いえ、わたくし一人で帰りたいのですわ。失礼しますわ!」
シャロンは言い切り、生徒会室から素早く出た。
扉を閉め、走って廊下を曲がる。
(どうにかなってしまいそう……)
ライオネルは色気があり、ひとを魅了する。
胸が震え、呼吸もままならない。
すると階段の前にクライヴが立っていて、シャロンは虚を衝かれた。
「クライヴ」
彼は静かにシャロンに視線を返す。
「控えておりました。お嬢様、お帰りになるのですか?」
「ええ」
あのまま生徒会室にいれば、ライオネルにくらくら酔ってしまいそうだ。
「ではお送りします」
それでシャロンはクライヴと階段を降りた。
だが先程のことを思い、ぼうっとしていたシャロンは片足を踏み外してしまった。
(!)
そのとき隣から手が伸びてクライヴがシャロンを支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫」
クライヴのおかげで転ばずに済んだ。ほっと息をつく。
彼はふ、と笑んだ。
「お嬢様はやはり、目が離せませんね」
クライヴがいなければ、階段からおちて最悪亡くなっていたかもしれない。前世同様。
(ライオネル様は危険……!)
そう感じつつ、クライヴと校舎を出る。
魔王より将来より、何よりも気を付けないといけないのは、危険な魅力をもつ婚約者にかもしれないとシャロンは思った。
──────────
お読みくださりありがとうございます。
「闇黒の悪役令嬢は溺愛される」発売中です。
本編はWeb版を加筆修正し、書き下ろし番外編は本編と異なるルートになっています。
ぜひお手にとっていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします!
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「シャロン、体調が悪いの?」
確かに朝から熱っぽい。
でもそれほどではないし、クライヴにも話してはいなかった。
「あの、熱が少しだけ……」
ライオネルはシャロンの額に掌を当てる。
「気づかなかったよ……」
ライオネルはシャロンの頬を包む。
「ごめんね、シャロン」
クライヴが歩み寄ってきて、シャロンの前に跪いた。
「お嬢様、早く帰られて休まれたほうがよろしいです。お送りいたします」
「クライヴ、僕が送る。君は部屋から出てくれ」
ライオネルが目を眇めて言い、シャロンは困惑した。
そうなれば室内にまたライオネルと二人だけになる。
先程の続きがはじまる……?
(心臓がもたないわ……!)
ライオネルと過ごすのは嫌ではない。うっとりしてしまうくらいなのだけど、同時に怖くもあるのだ。
キスを交わせば、もっと恋心が強くなってしまいそう。
シャロンはこれ以上ライオネルへの想いを募らせたくなかった。
婚約中であるものの、今後魔王は登場するのか、世界は救われるのか、全く未来がみえない。
ヒロインは結婚をして幸せになったけれど、シャロンは不安を感じ、揺らいでいた。
「お嬢様」
クライヴがシャロンの手を取り、促す。
シャロンは頷いて立ち上がる。ライオネルに頭を下げた。
「ライオネル様、わたくし帰りますわ。送っていただかなくても大丈夫です」
「僕に送られたくない?」
シャロンの手に触れ、彼は切なげにこちらを見つめる。
(ライオネル様……)
シャロンは頬が熱くなる。ライオネルの手をそっと解いた。
「いいえ。申し訳なく思うのです。寮までわざわざ来ていただくのも。熱も高くありませんし、クライヴもいますので」
するとライオネルはシャロンの手首を掴み、自らに引き寄せた。
シャロンは椅子の上に崩れるように倒れた。
「ライオネル様……!?」
「僕が送るよ。クライヴ、下がれ」
「ですがお嬢様は」
「下がれと言っている」
ライオネルの語気が鋭さを帯びる。
シャロンは息を詰めた。
ライオネルは非情ではないし優しいけれど、王太子で権力者である。
不興を買い、クライヴが処分を受けてしまうといけない。
「クライヴ。ライオネル様のおっしゃる通りに」
クライヴは唇を引き結び、首を垂れた。
「……はい。それでは失礼いたします」
彼は部屋を横切り、退室する。
冷ややかな空気を纏っていたライオネルは、一転やわらかく笑むと、シャロンに視線を流した。
「シャロン、体調が悪いのに、すまない。もう少しここにいてくれる?」
「はい……」
彼はシャロンをそっと抱き寄せる。
視線が交差し、蕩けてしまいそうだ。
「わたくし……風邪をひいているかもしれません。これほど傍にいればライオネル様にうつしてしまうかもしれませんわ」
「うつしてほしい」
ライオネルはシャロンの髪を指で耳にかける。
「それで君の熱が下がるなら。僕にうつして?」
耳元で囁かれ、身が火照る。
彼の唇が耳朶に触れ、甘い痺れを感じシャロンはばっと立ち上がった。
「シャロン?」
(これ以上、むむむ無理!)
「わ、わたくし、やっぱり帰ります!」
ライオネルと二人きりではいられない。
彼は身を起こした。
「なら送る」
「いえ、わたくし一人で帰りたいのですわ。失礼しますわ!」
シャロンは言い切り、生徒会室から素早く出た。
扉を閉め、走って廊下を曲がる。
(どうにかなってしまいそう……)
ライオネルは色気があり、ひとを魅了する。
胸が震え、呼吸もままならない。
すると階段の前にクライヴが立っていて、シャロンは虚を衝かれた。
「クライヴ」
彼は静かにシャロンに視線を返す。
「控えておりました。お嬢様、お帰りになるのですか?」
「ええ」
あのまま生徒会室にいれば、ライオネルにくらくら酔ってしまいそうだ。
「ではお送りします」
それでシャロンはクライヴと階段を降りた。
だが先程のことを思い、ぼうっとしていたシャロンは片足を踏み外してしまった。
(!)
そのとき隣から手が伸びてクライヴがシャロンを支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫」
クライヴのおかげで転ばずに済んだ。ほっと息をつく。
彼はふ、と笑んだ。
「お嬢様はやはり、目が離せませんね」
クライヴがいなければ、階段からおちて最悪亡くなっていたかもしれない。前世同様。
(ライオネル様は危険……!)
そう感じつつ、クライヴと校舎を出る。
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