10 / 16
10.王太子殿下の恋
しおりを挟む
アドレーが好きなのはクリスティンだと、彼女にわかってほしかった。
この気持ちは変わらない。
クリスティンにも想ってもらう。
もし恋敵が現れても、どんな困難が待ち構えていようとも、負けはしない。
アドレーは、窓辺に寄り、メルに抱えられているクリスティンを見つめた。
「私は君を手放さない。君は私の伴侶となる、誰よりも大切なひとだ。私は簡単に、諦める人間ではない」
アドレーはそっと呟き、薄く笑んだ。
※※※※※
(こ、怖っ、怖っ、怖かった……っ!)
クリスティンが目を覚ませば、自室の寝台だった。
アドレーに王宮で抱きしめられて──そこから記憶がなかった。
将来、断罪されるかもしれない相手を前に、恐ろしさで意識が遠くなったのだ。
森で遭遇した追い剥ぎより、よほど恐怖である。
寝台で、項垂れていると、コンコンとノックの音がした。
「クリスティン様、お目覚めでしょうか」
メルだ。彼はクリスティンが誰より信頼している近侍である。
「ええ、どうぞ」
「失礼いたします」
入室したメルに、クリスティンは寝台から降りて訊いた。
「アドレー様といるときに気を失ってしまって、あなたが運んでくれたのね?」
あのとき、部屋にメルが控えていた。
「はい」
「ありがとう」
アドレーのことは嫌いではないが、彼といると動悸息切れがし、生きた心地がしない。
記憶を取り戻す前なら、違った感情をもったかもしれないが、今はゲームの記憶がトラウマとなり、ただ怖い。
──クリスティンは、十二歳のとき、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生していることに気づいた。
この先、『花冠の聖女』であるヒロインが現れる。アドレールートに入れば、彼はヒロインと結婚する。
どのルートでも、アドレーはヒロインに惹かれるのだ。
クリスティンはといえば、婚約破棄される。その後、暗殺者に惨殺されるかもしれない。
メインヒーローだったアドレーのルートに入る可能性はすこぶる高かった。
クリスティンは、アドレーやラムゼイ、リー、スウィジンなどの攻略対象、今後現れる隣国皇子ルーカスやヒロインに、できる限り関わりたくなかった。
刺客対策として、身体を鍛え、様々なことを学ぶ日々を過ごしている。
「アドレー様が、クリスティン様に謝罪を。今後、過度に触れることはなさらないと。あと、今度の舞踏会を楽しみにしてらっしゃるとのことです」
「! 舞踏会……!」
クリスティンは震えが走った。
「アドレー様とずっと過ごすことになるじゃない……! 欠席しましょう……けれどお父様もお母様もそれを許してくれない……また恐ろしい試練のときが……」
クリスティンが長椅子で力なく崩れると、メルがぽつりと呟いた。
「アドレー様、少しおいたわしいな……。クリスティン様をお好きなのに……前世の行いでも彼は悪かったのだろう……。婚約者とはいえ、婚前にクリスティン様にべたべた触れるのは、許せない」
クリスティンは顔をあげて、メルを見た。
「え?」
「いえ、なんでもございません」
屋敷に帰ってき、メルの顔を見ればほっとして、空腹であるのを自覚した。
「王宮に二日間滞在して、自室に戻って緊張が解けたわ」
メルはにっこりと微笑んだ。
「お茶菓子をすぐにご用意いたします」
彼はとても優秀で、クリスティンの気持ちを一番わかってくれる。
「ええ、ありがとう」
非攻略対象であるメルに、クリスティンは最も気を許している。
メルが用意してくれたお茶菓子をとって、クリスティンは心癒され、元気になった。
──リューファス王国の王太子、アドレーは運命を変え、愛する婚約者と結ばれることができるのだろうか。
王太子の恋は、続く──。
完
この気持ちは変わらない。
クリスティンにも想ってもらう。
もし恋敵が現れても、どんな困難が待ち構えていようとも、負けはしない。
アドレーは、窓辺に寄り、メルに抱えられているクリスティンを見つめた。
「私は君を手放さない。君は私の伴侶となる、誰よりも大切なひとだ。私は簡単に、諦める人間ではない」
アドレーはそっと呟き、薄く笑んだ。
※※※※※
(こ、怖っ、怖っ、怖かった……っ!)
クリスティンが目を覚ませば、自室の寝台だった。
アドレーに王宮で抱きしめられて──そこから記憶がなかった。
将来、断罪されるかもしれない相手を前に、恐ろしさで意識が遠くなったのだ。
森で遭遇した追い剥ぎより、よほど恐怖である。
寝台で、項垂れていると、コンコンとノックの音がした。
「クリスティン様、お目覚めでしょうか」
メルだ。彼はクリスティンが誰より信頼している近侍である。
「ええ、どうぞ」
「失礼いたします」
入室したメルに、クリスティンは寝台から降りて訊いた。
「アドレー様といるときに気を失ってしまって、あなたが運んでくれたのね?」
あのとき、部屋にメルが控えていた。
「はい」
「ありがとう」
アドレーのことは嫌いではないが、彼といると動悸息切れがし、生きた心地がしない。
記憶を取り戻す前なら、違った感情をもったかもしれないが、今はゲームの記憶がトラウマとなり、ただ怖い。
──クリスティンは、十二歳のとき、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生していることに気づいた。
この先、『花冠の聖女』であるヒロインが現れる。アドレールートに入れば、彼はヒロインと結婚する。
どのルートでも、アドレーはヒロインに惹かれるのだ。
クリスティンはといえば、婚約破棄される。その後、暗殺者に惨殺されるかもしれない。
メインヒーローだったアドレーのルートに入る可能性はすこぶる高かった。
クリスティンは、アドレーやラムゼイ、リー、スウィジンなどの攻略対象、今後現れる隣国皇子ルーカスやヒロインに、できる限り関わりたくなかった。
刺客対策として、身体を鍛え、様々なことを学ぶ日々を過ごしている。
「アドレー様が、クリスティン様に謝罪を。今後、過度に触れることはなさらないと。あと、今度の舞踏会を楽しみにしてらっしゃるとのことです」
「! 舞踏会……!」
クリスティンは震えが走った。
「アドレー様とずっと過ごすことになるじゃない……! 欠席しましょう……けれどお父様もお母様もそれを許してくれない……また恐ろしい試練のときが……」
クリスティンが長椅子で力なく崩れると、メルがぽつりと呟いた。
「アドレー様、少しおいたわしいな……。クリスティン様をお好きなのに……前世の行いでも彼は悪かったのだろう……。婚約者とはいえ、婚前にクリスティン様にべたべた触れるのは、許せない」
クリスティンは顔をあげて、メルを見た。
「え?」
「いえ、なんでもございません」
屋敷に帰ってき、メルの顔を見ればほっとして、空腹であるのを自覚した。
「王宮に二日間滞在して、自室に戻って緊張が解けたわ」
メルはにっこりと微笑んだ。
「お茶菓子をすぐにご用意いたします」
彼はとても優秀で、クリスティンの気持ちを一番わかってくれる。
「ええ、ありがとう」
非攻略対象であるメルに、クリスティンは最も気を許している。
メルが用意してくれたお茶菓子をとって、クリスティンは心癒され、元気になった。
──リューファス王国の王太子、アドレーは運命を変え、愛する婚約者と結ばれることができるのだろうか。
王太子の恋は、続く──。
完
66
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
悪役令嬢は断罪の舞台で笑う
由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。
しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。
聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。
だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。
追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。
冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。
そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。
暴かれる真実。崩壊する虚構。
“悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる