28 / 68
挿話(6)噂と真実
しおりを挟む「勇者様の話、お聞きになりましたか?」
「ああ、お一人で災害級の魔獣を退けたっていう、あれですか?」
王城内はその噂で持ち切りだった。
南の町に恐ろしい高位魔獣が現れたが、今代召喚された勇者が早速聖剣を顕現させて高位魔獣を退けたらしい、と。
魔獣の前で目眩しのための光魔法を発動した勇者が、姿を消したと思ったら、次の瞬間にはすでに魔獣が倒れていたらしい。
勇者は、目に見えぬほどの早業で魔獣を倒したとして『閃光の勇者』という二つ名で呼ばれるようになった。
「なんでも、聖剣の顕現が歴代でも最速らしいですよ。そのため『光速剣』と呼ばれているのだとか」
「勇者様がいてくだされば、この国も安泰ですね」
(一体、どうなってるんだ、これは……)
その話を柱の陰で聞いていたカケルは、呆然としていた。
そこかしこでまことしやかに囁かれるこれらの情報は、事実ではない。
何故ならば、カケルはあの時の魔獣を討伐などしていないからだ。
あの時カケルの前に姿を現したのは、巨大な蜘蛛の魔獣だった。
四、五メートルはありそうな体高。
黒光りする身体。
もじゃもじゃと毛が生えた足は人間ほどの太さがあり、鋭い爪先が地面を深く抉っていた。
特に印象深かったのは、カケルという獲物を捉えた赤い複数の眼──それを向けられるとカケルは、蛇に睨まれた蛙のように足がすくんで動けなくなった。
カケルを見つけた巨大蜘蛛は、やたらとギラギラした前足を振りかぶって、彼めがけて振り下ろそうとしていた。
恐怖だ。恐怖でしかない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ──────っ!!!!!」
咄嗟に、隠蔽のスキルを使って、自分の身を隠してしまった。
そして、走って逃げた。
逃げたのだ。
逃げた、のだ。
逃げたのに──逃げたはず、なのに──。
大きな歓声が鼓膜を揺らし、カケルはハッと我に返った。
逃げたはずのカケルは、剣を両手で構えていて、目の前には黒々とした蜘蛛の巨体が横たわっていた。
気がついたら魔獣は倒されていて、周囲の兵士たちから称賛を浴びていたのだ。
自分でも何を言っているのかわからないが、それが事実なのだからしょうがない。
本当に、どういうことなのだろうか?
狐にでも摘まれた心地だ。
城下町では大歓声に迎えられて、そのまま馬車に乗ってパレードする羽目になった。
城でも、帰還祝いのパーティーが開かれ、国王から勲章と報奨を授けられた。
ただ、残念ながら『褒美をとらそう』『では王女様を頂きたい』『私を幸せにしてください、勇者様』という訳にはいかなかったが。
「…………」
(うーん……記憶にはないけれど、万が一くらいには、オレが本当に勇者スキルに目覚めた可能性も……あるんじゃないかな~? ……って……いや、それはないみたいだ)
部屋に戻ってステータスを呼び出したカケルは、肩をすくめて首を振った。
隠蔽と偽装を解除すると、見慣れたスキルと称号がステータスに現れたからだ。
(待てよ? そういえばいるじゃないか。あの蜘蛛を討伐できる可能性がある人物が一人!)
それは、本物の勇者だ。
「勇者が南の町に予め潜伏してて、オレのピンチに現れて、魔獣を討伐してすぐに姿を消したってことか? 何のために──? それとも、実は同行した騎士団の中に本物の勇者がいたとか……? それもありうる……」
どちらも可能性としてはありうる。
今更カケルが勇者に目覚めた説より、ある意味信ぴょう性が高い。
それよりわからないのは、何故名乗り出ないのか、だ。
この国の人々の歓迎ぶりからして、勇者の称号を得ることは名誉なことのようだ。
勇者でありさえすれば、働かなくても何不自由なく生活できるし、王族という後ろ盾もできるのでメリットは大きいはずだ。
それなのに名乗り出ないのは、何かやましいことでもあるからだろうか?
(それとも公にできない理由があるのか……? 人前に出られない顔をしてるとか)
「きっとそうだ……ははっ。じゃあ遠慮なくこの状況を利用させてもらおっかな」
もし、本物の勇者が現れたとしても、問題ないじゃないか。
むしろ、今後の魔獣討伐関連は全て、そいつがやってくれればいいのだから好都合だ。
「何だ。何も問題ないじゃん! 心配して損した~!」
ふぅ、と息を吐き、ゴロンとベッドで横になった。
「アリステラちゃん、なかなかヤらせてくんないし。たまってんだよね。仕方ないから神殿にでも遊びに行こうかな~」
ドアの外には今でも、護衛という名の監視が立っているが、隠蔽のスキルを使えば部屋を抜け出すのは簡単だ。
二、三時間抜け出して神殿へ行くぐらい造作もない。
そうは言ってもそれなりに面倒だから、できれば手近で済ませたいのが本音なのだが。
「お城だけあって、侍女ちゃんたちもなかなかレベルの高い子が多いんだけどな~。今はまだ手を出せないんだよねぇ……いつかは食っちゃいたいけど」
実際、侍女たちからは好意的な視線を感じる。
勇者というだけでホイホイついてきそうな尻軽そうな娘から、男慣れしておらずうぶそうな娘までよりどりみどりだ。
ただ、城内は誰の目があるかわからない。
適当に侍女たちをたぶらかして事に及ぶのは、危険性が高すぎる。
もう少しでアリステラを攻略できそうな今、あえてそんな危険を冒す必要はない。
アリステラは今、ギャルゲーで言えば好感度MAXの状態のはずだから。
(あと一押しすれば、デレてエロいスチル拝めそうなんだよな~)
それはもはやギャルゲーじゃなくてエロゲーなのではないか? というツッコミをする者は、残念ながらここにはいなかった。
──────────
*次話から近江くん視点に戻ります~。
3
あなたにおすすめの小説
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる