課長と行く異世界の旅〜異世界転移に巻き込まれた課長がチートを発揮している件について。

真辺わ人

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(23)課長へ伝言です

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(前回までのあらすじ)

会社の避難訓練中に、会社の課長や同僚たちと異世界の森の中に飛ばされてしまった近江。
野盗に襲われている王女を助けたものの、日頃から近江を疎ましく思っている同僚に、課長と二人きりで置き去りにされてしまう。
フェンリルに攫われたり、会社の後輩に出会ったり、大食らいの自称聖女を拾ったりして、近くの町へやってきた。
町に着いた途端に巨大な蚊柱に襲われて、課長持参の殺虫剤で撃退したところ、副町長にそれを売ってくれと言われる。どうやら町ではこの巨大な蚊柱に悩まされているらしい。
事態を解決すべく、副町長と課長で第一回越後屋談合が開かれた。
その後、近江は課長に命じられて、悪臭と蚊柱の元となっていると思われる川を調査することになる。
調査を終了しようとしたその時、彼の勘が何かを告げる。彼がヘドロの上をザバザバと歩いてたどり着いたのは──。

──────────



 川の中をザバザバと歩き続けた俺は、いつの間にか町の外れまで来ていた。
 その俺の目の前にあるのは、川にかかる橋だ。橋のたもとには、赤いレンガ造りの建物がある。

(さっきまでこんな建物あったっけ?)

 ま、中心部からは離れているからな。
 建物自体も古びていて、ツタやコケに覆われているから、目につきにくかっただけかもしれない。

 でも、ここが

(やっぱり水門があったな)

 橋の下は水門となっているようだった。
 となれば、恐らくあの建物は水門を管理するための施設だろう。

 ここカローは、水路だらけの町。

 悪天候などで増水した場合、水路から水が溢れて浸水し、被害は甚大になることだろう。そうならないため、大元の川を流れる水量を調節するのがこの水門のはずだ。

 というか……水門があるなら、川の流れが悪かったらまずここを調べるべきじゃないのか?

 まぁ、町長が蚊柱に襲われて寝込んでいるらしいから、副町長も色々大変なんだろうな。
 実際結構忙しいようで、越後屋談合の後すぐ、呼びに来た役場の人に引きずられて役場へと戻っていった。

 元の世界の職場でも、突然休まれると結構困ったもんな。……あ、これ以上考えると鬱になりそうだからやめておこう。うん。
 今頃あっちの世界では、俺の方が迷惑をかける立場になっているかもしれないんだから。

 とにかく、ここは何かのだ。

 いや、川の水が元々臭いのは臭いんだけど、そうじゃない。怪しいってことだよ!

 あ、ちなみに課長たちには、ちゃんと伝言を残してきたよ。
 さっきヘドロの中をグリグリしてる時に拾った大きめの石を重しにして「ちょっと行ってきます。メイシアにもよろしく」と書いたメモをカゴに入れて置いてきた。

 課長に俺の意図が伝わるといいんだけどね……多分大丈夫。

 これも俺の勘!

「よっと……!」

 俺は、石垣を足がかりにして岸へ登った。

「うーん……やっぱり水門の操作は建物の中かな?」

 橋の上にはそれらしきギミックが見当たらない。となると、怪しいのはやはり建物の中だ。
 このレンガ造りの建物が二階建てになっているのは、元々川の状態を見る監視塔も兼ねているからかもしれないな。

 水門やこの建物が、町の中の建物よりも若干新しめなのは、きっとこれが必要に迫られて造られた施設だから。
 恐らくこの町は、過去実際に水害にあったことがあるのだろう。それで、この水門を設置した。

 ──ギッ……。

 扉に鍵はかかっておらず、少し……いや、結構頑張って力を込めて押すと、錆び付いた音を立てて開いた。
 まるでここしばらく人の出入りがなかったかのようだ。

「…………うわっ!」

 外の光が暗い部屋に差し込んだその瞬間、部屋の中の影が一斉に扉から飛び出してきた。

 圧倒的な質量を持って、俺を扉の外へ押し戻す、黒々とした影。

(いや、影なんかじゃない!)

 ──ヴ、ヴ、ヴヴ…………。

 まるで、建物の中へ入れまいとするかのように、俺の前に立ちはだかったのは、大量の蚊だった。

 趣味の悪いことに、人の形をとってやがる。まさか、知能があるのだろうか?

「お前が元凶か……?」

 ──ヴヴヴ……ヴヴ、ヴ……。

「…………」

 一応尋ねて見たけど、相手は蚊だ。答えが返ってくるはずがない。
 わかってるけど、相手が人型だとこういうやり取りしてみたくなるじゃん?
 え? ならないの?

 耳が痛くなるほどの羽音が、ビリビリと頬に突き刺さる。

「ふっ……残念だったな。こんなこともあろうかとおもって、課長からお借りしてきました、殺虫剤!」

 ばばーん!!!

 って、誰も見てないけど!

 俺は殺虫剤のノズルを黒い塊に向ける。

「はい噴射────っ!」

 俺は反論反撃の隙を与えず、すぐさまトリガーを引いた。不意打ちなんて卑怯──じゃなくて、先手必勝っていうれっきとした作戦だから! ね?!



 ──シュウウウゥゥゥゥ────ッ!



 白い薬剤が勢いよく噴き出して、辺りを覆った。



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