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(26)水門の攻防に課長は不在①
しおりを挟む──ブゥン、ブゥン。
奴は背中の羽を使って、自由自在に部屋の中を飛びまわっている。
「おっと!」
「おのれ、ちょこまかと動きおって!」
動かなきゃぶっ刺されて死ぬだろうが!
上下左右斜め──あらゆる角度から棒で突いてくるので、こちとら避けるのでいっぱいいっぱいだ。
何とか反撃をしたいところなのだが……。
「あっ!」
待って!
そういえば俺も、棒みたいなやつ持ってきてたわ!
攻撃を避けるついでに、地面に落ちているそれを拾う俺。
先っちょでヘドログリグリしたから、ちょっとばかし臭いかも知んないけど。
そんなの知らないよね。
──ガンッ!
「……っ!!?」
ビュッと伸びてきた相手の棒をそれで弾くと、彼女は酷く驚いた顔をした。
抵抗されるとは思わなかったのだろうか?
「はは……面白いじゃないか」
だがしかし、すぐに楽しそうに口端を歪めると、再び棒を突き出してきた 。
(──速いっ!)
そうなのだ。
一突き一突きのスピードが、さっきより上がってる。
「うわっとっとっ!」
俺はそれをギリギリでかわしながら、人様よりちっちゃめの脳みそで考える。(一応自覚はあるんだよね)
とりあえず、あのストローっぽい武器を奪いたい。
俺は、採血の注射でさえまともに見られないのに、あんなんが身体にぶっ刺さったところなんか想像したくもない!
だから、できれば奪いたいんだけど……まともに撃ち合うのはなしだ。
木の棒と金属製の棒じゃ、まともに撃ち合った際の勝敗は比べるまでもなく明らかだからな。
隙があれば、本体に攻撃を仕掛けて、奪える……かな? 手首に一撃入れればきっと、武器を取り落とすだろうし、何とかなるかもしれないな。
それにしてもさっきから、彼女の攻撃はただ棒で突いてくるだけなんだけど、曲がりなりにもモンスターなんだし、必殺技とかはないんだろうか?
蚊の……蚊の必殺技ってなんだろう?
ゲームであった、エネルギーを吸い取る技の名前がエナジードレインだとすると、血を吸い取るのは……。
「ブラッドドレイン……略してブラッドレイン!」
待てよ? それじゃ血の雨じゃないか! じゃあ、略してブラドレとかどうだろう?
「……」
後、あの棒の先っちょから何か出ると楽しそう。吹き矢とか火の玉とか。
そうしたら、真激烈紅蓮弾とか、中二っぽい必殺技の名前ならいくらでも考えてやってもいいな。
「……何をごちゃごちゃ言っておるのだ……?!」
「おっ! 隙あり!」
突き出してくる棒をいなしながら、しばらく防御に徹してた俺は、結構な力を込めて彼女のがら空きの脇腹をビュッと薙ぎ払う。
「……っ!!」
衝撃を受けた彼女の余裕の笑みが、痛みに歪ん……ではいないな。
「えっ……?! あれっ……?!」
俺の手元にも、覚悟していた手応えはなく。
空振りか? いや、でも確かに捉えたと思ったのに。
「愚か者めが。蚊の現身であるわらわには、物理的な攻撃など効かぬよ」
相変わらず楽しそうに笑っている彼女の身体が、ぶわっと大きく膨らんだかと思うと、また元の姿に戻った。
あ。もしかして──。
その様子からわかったのは、彼女は一個の個体という訳ではなく、小さな蚊の集合体ということだった。
「え……ええぇぇぇぇえええ──っ?!!!」
どーすんの?!
これ詰んでんじゃないの?!
「こ、こんなことなら」
残しておけばよかった、殺虫剤!
「くそっ!」
ああ、取り乱しちゃってごめんなさい。
殺虫剤、さっきので全部使い切っちゃったんだよね。空のスプレー缶が床に転がってるよ!
──ガンッ! ガンッ! ガキンッ!
──ピシィ──ッッ!!
あ、ヤバい。俺の棒にヒビが入った!
何十発目かの突きを弾いた瞬間、俺の持ってた棒から嫌な音と感触が響いてくる。
──ガンッ!
そして、間髪入れずにきた追撃を弾いた瞬間に、その時はきた。
──ピシッピシッピシッ!
「あ」
俺の棒が砕け散った。木っ端微塵に。
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