65 / 68
(52)この人怪しいんですけど、課長!
しおりを挟む九重と通路へ足を踏み入れると、また何かがチラッと視界の端で動いたのが見えた。
どうやら、どこかの部屋へ入ったらしい。
「九重、見たか?」
振り返りながら問いかけると、ずいぶんと可愛らしくなってしまった後輩は、こくり、と頷いた。
「何か、あの人見覚えがある気がするんだけどな……」
「やっぱり、先輩の知り合いだったんじゃないですか?」
「そんなことないって言ってるだろ」
「まぁでも、うちの部署の矢城さんにどっか似てる気がするから、既視感を感じるだけかもですねぇ」
九重のつぶやきに同意する俺。
そうなんだよね。顔は全然違うんだけど、何だか雰囲気というかしゃべり方が似てる気がする。
「あー、やっぱり九重もそう思うか?」
「先輩、矢城さんのこと好きだったでしょ?」
九重がいたずらっぽい表情になって、俺は思わず返事に詰まった。
「あ、え……いや、えっと?」
「うちの部内で知らない人いないですからね」
「マジで?」
「マジですよ」
「うわぁ……マジかよ。恥ずか死ねるわ。ま、振られたんだけどな」
「えっ……」
一瞬、気まずい沈黙が流れる。
いや、雰囲気悪くして申し訳ないとは思うけど、俺のせいじゃないからね。
話を振ってきた九重が悪いんだからな。
「えっと、ああ、この部屋ですよね」
あからさまに話題を逸らした九重に苦笑しつつ、俺は頷いた。
俺は、軽く唇に人差し指を当てた。
それを見た九重は頷いた。
俺たちは、視線で示し合わせながら、通路から部屋をそっと覗き込んだ。
果たして、部屋の真ん中に立っていたのは例のカオリさんで。
『何してるんだろうな?』
『後ろ姿だからよくわかりませんね?』
部屋の真ん中には石像と同じ材質っぽい台があって、彼女はそこに向き合っていた。
手元が動いているから、何かをしているようなんだが……。
「はぁ……」
こうやっていても埒が明かない。
俺は潔く様子見をやめて、堂々と部屋の中に入っていった。男は度胸だ。
「カオリさん? ここで何をしてるんですか?」
俺が話しかけると、ぐりんと彼女の首が俺の方へ向いた。
「ユキ……さん。あの、えーっと、なんでもないですよぉ?」
「あっ、先輩! その人、何か手に持ってます!」
「なに?」
「ちっ!」
九重の指摘に舌打ちをした彼女は、手に持っていた何かをさっと後ろ手に隠し、踵を返して部屋の外に走り出した。
「あ、おいっ! ちょっと?!」
「ここに、何か刺さってたっぽいですね」
九重が指さした先、台座の上にはさっき石像の背面で見たのと同じ文字が刻まれている。
そして、何だか長細いおかしな形の穴が空いていた。
「何持ってたか見えたか?」
「はっきりとは見えなかったです」
「とりあえず、一旦みんなの所へ戻るか。リアを連れてこよう。それと、彼女が戻っていればいいんだけど」
俺は、リアを置いてきたことをちょっと後悔しながら、部屋を後にした。
あいつがいれば、今度こそゆっくりと、あのおかしな文字の解読を頼めたのに!
「見つかって逃げたあたり、ろくな事じゃなさそうですけどねぇ」
チロリ、と九重の赤い舌先が、上唇を舐め上げた。
「まぁ、そうだろうな。九重さ、空間収納に長い棒とか入ってない?」
「はい?」
「もしあったら、ちょっと貸してほしいなぁなんて」
「長い棒ですか? んーと、えっと……僕のテントの支柱で良ければ……繋げれば長い棒にはなると思うんですけど……」
「それで十分だ」
「ちょっと待ってくださいね」
ガサゴソと、九重は空間の中に手を突っ込んで、しばらくすると鈍色に輝く棒を二本取りだした。
「はい。連結すればそれなりの長さになると思いますよ。」
「サンキュ」
渡された二本の棒をカチッと差し込んで、一本の棒にする。
何となく武器を持つと安心するよね。
それにしても、思ったより軽いなこの支柱。
中が空洞なせいかもしれないけれど、こっちの方が木の棒を持った時よりも数段軽く感じられる。
「アルミ製?」
「あー……それ、チタン製なんです!」
「はっ? チタンなの?」
「いえっす!」
「ほぇー! 最近のテントはハイテクなんだな」
「なんですか、ハイテクって?」
と、ちょっとアホな会話をしながら広間に戻ったのだけれど。こんなことになっているとは思いもよらなかった。
「か、課長っ?!!」
「ちょ、あんた何してるんですかっ?!」
広間に戻った俺たちは、その光景を見た瞬間に、口々に叫んだ。
0
あなたにおすすめの小説
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる