課長と行く異世界の旅〜異世界転移に巻き込まれた課長がチートを発揮している件について。

真辺わ人

文字の大きさ
67 / 68

(54)課長、交代しましょう

しおりを挟む



「っしゃ──っ!!!」

 ガンッ! と、構えた棒に鈍い衝撃が加わった。

(重っ!)

 女の細腕から繰り出されたとは思えない一撃だ。

「近江くん!」
「女王様……じゃなくて課長、加勢します!」

 小声で会話を交わしていると、耳の側で空気の唸る音がした。
 俺は、課長に腕をぎゅっと引かれて、その一撃を食らわずに済んだ。

「あっっっぶねぇ──! 課長あざっす!」
「また来るぞ」

 課長のセクシーな囁きが耳朶をくすぐった瞬間、俺は課長と反対側に身を捩った。

「リア、どうだ?」

 どうやらさっきの油断で、俺の方が狙い目だと判断されたらしい。
 くるり、と顔をこちらに向けると、カオリさんだったそいつは、躊躇いもなく剣を振りかぶってきた。

 白目だ。怖い。
 完全にイってしまっているようだ。
 いつから白目だっけ──さっき剣を持っていった時は?
 覚えてないな。

「うわっと!」

 正面から受け止めるのは、いくらチタン製の支柱とはいえリスクが高い。
 ガンガンくる剣戟を、なるべく受け流しながら、考える。

 本人が操られているのは、この黒い剣の仕業か?
 盗賊なんかと違い、太刀筋はいかにもな素人だ。
 防ぐのはそんなに難しくはない。
 ただ、白目で目線がどこ向いてるのかわからないのと、このスピードはちょっと厄介だな。

「よっ!」

 どこかのアクションスターみたいに、バク転で避けるとか派手なことはできないぞ。
 せいぜいこうやって受け流した剣を、払うついでに上から押さえ込んで。
 そのまま懐に飛び込んで。
 課長と同様、肘で当身を食らわせるのがせいぜいだな。
 あんまり女性に手荒なことはしたくないんだけど、相手が真剣持ってる以上、こっちも油断はできない。

 ──ゴゥンッッッ!!!

 課長より大分質量の大きい俺の当身を食らったカオリさんは、かなりの距離を吹っ飛んだ。

「リア」

 距離が離れた隙に、話しかける。

「恐らく『人中蠱』という術じゃな」
「じんちゅうこ? なんだそりゃ」

 てっきりあの黒い剣で操られてるのかと思ってた俺、涙目。あの怪しい剣を奪っても元には戻らないってか。

「虫じゃよ、虫! 人体のどこかに虫を寄生させて操ておるんじゃ」
「元に戻せるか?」
「わからん。虫さえ取り除けば操り人形状態は解除されると思うが」
「全く、なんでいきなりこんなことに」
「油断するな」
「……わかってるって!」

 俺は、勢いよく突き出された黒い剣の切っ先を弾きながら考える。

「虫はどこにあるんだ?」
「様々じゃな。頭、肩、腕、腹、どこにでも潜り込める。ほんの小さな幼虫のようなものじゃからな」
「虫自体に弱点はないのか?」
「虫じゃからなぁ……」

「「あ!」」

 リアと同時に声を上げた。

 禍々しく黒光りをする剣を、大きく弾いてバランスを崩した俺は、課長の元へ走る。
 課長、何か休憩入れてメイシアとお茶飲んでるんだけど?!

「課長課長! 殺虫剤くださーいっ!」
「ん?」

「早く早く!!」
「あ、ああ。ほら」

 ──パシッ!

 俺は課長から殺虫剤のスプレー缶を受け取った。

 それから抵抗をするのを止め、ひたすら攻撃を避けながら逃げることに集中する。
 広間を逃げ回っている間も、奴はしつこく追いかけ回してくる。
 
 くそ。
 女──しかも割と美人──に追いかけ回されるなんて、本来なら歓迎してしかるべき事態なのに。
 逃げ回るなんて悲しすぎるだろ。

 まぁ、でも。
 追いかけっこの甲斐あって、奴の目にはもう俺しか映っていないようだった。

「こっちだ!」

 不意に、さっきの通路に逃げ込む俺。
 恐らく今の奴は、狩りでもするような感覚に違いない。
 狭い通路に入った今の俺は、自ら墓穴を掘ったとしか見えないだろう。

 案の定、彼女は追ってきていた。
 それを視界の端で確認しながら、素早くさっきの部屋へ飛び込んだ。
 
 そして、彼女が足を踏み入れた瞬間、入口付近で身を潜めていた俺は飛びかかった。

 特に剣を持つ右手を封じるように、チタン製支柱を手首に押し付け、更に床に押し倒す。
 鈍い音が響いて、彼女の身体は仰向けに倒れた。

「ぐあぁっ!!!」

 その瞬間、とても女性とは思えないうめき声が彼女の口から漏れる。

(し、白目怖い……)

 間近で見る白目の迫力よ。

 いや、ここで怖気付いてる場合じゃない。

「リア、服ん中に潜ってろよ」

 俺は彼女に馬乗りになった状態だ。
 剣を持つ手と鎖骨の辺りを同時に、左手で持ったチタン支柱でぐいぐいと地面に押し付けている。
 

 そして。満を持して登場。
 俺の手に握られているのは、殺虫剤のスプレー缶だ。

「ぐあぁぁぁぃぁぁぁぉぁぁ────!!!」

 叫び声を上げた瞬間を狙って、殺虫剤のノズルを口の中に押し込んだ。
 ちょっとばかし強引に突っ込んだから、口の中は怪我したかもしれないけど。

 ──プッシュゥゥゥゥゥッッッ!!!

 久しぶりに聞く噴霧音。

「あぐぁっ! んがぁっ!」

 彼女の口の中に吸い込まれていく白い気体。
 え? 殺虫剤は人体に有害じゃないかって?
 まぁ、まさにその通りなんだけど。

「んぐぅぅぅ! ぐがごぉぉおおっ!」

 さすがに、倍近くあるだろう体重の俺の下からは抜け出せないらしい。
 激しく首を振る事で殺虫剤から逃れようとする。

 しかし、彼女の喉深く差し込まれたノズルはそう簡単に抜けはしない。

 俺は噴射のトリガーを引き続けた。


 

──────────

すみません。隔日更新もできてない……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...