5 / 36
(5)ぼっち公女の昼ごはん
しおりを挟む
(十五歳アンリ視点に戻ります)
美少年だったイアンは、五年後、それは美しい青年に成長した。
学園に通っている間は『泣き虫王子』を封印しているらしい。だから他の生徒の前で泣いている姿を見たことはない──ないよね?
そうそう。貴族以上の身分のものは、十五歳になると少なくとも三年は王立学園と呼ばれるところへ通わなければならない。そこで、社会、経済、領地経営学、その他専門的な知識を学ぶ。王国法でそう定められている。
それはそれは気が重かった……まぁ、私だけだけど。
通うのは同じ年頃の少年少女と聞いて、脳裏にチラつくのは幼き日の悪意ある貴族のお茶会。
正直いって家庭学習さえきちんとできていれば、学園になんて通わなくてもいいじゃないかと思っている。だけど貴族はもれなく学園に通うのが義務だから拒否はできないのだ。経済状況が思わしくないご家庭にもちゃんと国から補助が出るようになっている。逃げられない。
創立理念としては、学園に通うことで社交性の向上や、専門的に学ぶことで学問の基礎・応用力の充実をはかるとあるんだけど、本当に余計なお世話だと思う。
幸い地味な見かけのおかげで、初日から社交の対象からは外されたらしい。皆さん、新しい人間関係を築くのに忙しいようで、地味な私には目もくれない。
だから、私は案外いつもと変わらない平和な学園生活を送っていた──ぼっちだけれども。
ぼっち落ちつくんだから!
誰にも気をつかわなくていいしぼっち最高!
──はぁ。
私が比較的穏やかな学園生活を送れているのには、外見が平凡地味であること以外にもう一つ理由がある。私が学園側に頼んでイアンの婚約者ということをふせてもらっているからだ。バレたらただではすまないに違いない。ガクブル。
この婚約はある理由から公にされていない。学園に通う生徒諸君のみならず貴族の方々も知らない人がほとんどだと思う。
今のところこの婚約の件確実に知っているといえるのは、ここの学園長と王宮関係者だけだ。
なぜならば。
この婚約が形だけのもので、いずれ解消される性質のものだからだ。
学園へ通う前のイアンは、社交外交問わず公の場へ出ることはほとんどなかった。
それは彼が『泣き虫王子』と揶揄されることにも起因する。あまりにも癇癪を起こして大泣きすることが多かったので、王族としての外聞が悪かったのだと思う。
だが腐っても鯛は鯛。泣き虫でもこの国の第一王子だ。未来の国王に取り入ろうとする貴族は多かったらしい。
貴族たちはこぞって、同じくらいの子どもを、イアンの遊び相手として送りこんできた。覚えがめでたければ将来の側近になれるかもしれない。そんな思惑が大半だっただろう。
柔和な外見をもつ者、ゴマをすりたおす者、兄弟が多くて年下のあしらいに長けている者など──様々な猛者(子どもだが)が送りこまれてきたようだ。しかし誰と遊んでも、なぜかいつもイアンが泣くことになってしまう。そして、泣かせた相手は二度と王宮には呼んでもらえない。
それを何度か繰り返すうちに貴族たちもやがて、我が子を政略のための生贄にすることをあきらめたらしい。
そのループは十歳頃になるまで続いており、遊び相手どころか婚約者を決めるのにも難航した。大半の貴族令嬢が泣き虫イアンの相手をすることを嫌がった。まれに積極的な令嬢がいても、今度はイアンが激しく拒否して婚約自体が暗礁にのりあげることになった。
このままではまともな社交や外交ができなくなってしまう。そう危惧したらしい現国王から白羽の矢が立ったのが、フェルズ公爵家を棲家とするもう一人の引きこもりだった。幸いその人物はなぜかイアンに懐かれている。
そこにあまり深い意味はない。
引きこもり同士で話も合うだろうし、友人としてうまくやっているなら、婚約者にしてもいいんじゃないかとか、適当な理由に違いない。
私から見た現国王は大変おおらかで割と大雑把なところのあるお方だったから。
この婚約を決めるにあたり、王妃からは相当な反対があったと聞く。王妃は何よりも美しいものが大好きなお方だという話だ。たとえ仮初の婚約者だとしても許容できないほど、彼女はこの平凡な容姿を忌み嫌っているのだろう。
王宮ですれ違うこともまれにあるが、挨拶してもまず返ってこない。どころか、存在しないものとされているようだった。
私が彼女の立場だったとしても、将来の義娘がこんな地味女だなんてがっかりだと思うから、気持ちはわからないでもない。
まぁ、何が言いたいかというと、この婚約が仮初のものだということ。それに、いずれは解消されるだろう性質のものであること。そして私がそれを十分承知しているということだ。
おそらくだが、アンリが成人を迎えて正式に王太子に任命される前に解消されることになるだろうと踏んでいる。
王太子妃ともなれば、社交がつきものだ。はっきりいって、引きこもりボッチーナの私に王太子妃はつとまらない。父もそうこぼしていたしね。
今でもどちらかというと婚約者というよりも保護者的立場だし。普通よりちょっぴり泣き虫だけど、手がかかる弟みたいなものだと思っている。
まぁ、王家が責任をもって円満的な解決をしてくれるならば、婚約解消に否やはないのだよ。
もう一度言うが、私はイアンには懐かれているけど王妃には嫌われている。
自分を嫌っている人を好きになるのはまず無理だ。
もし本当にイアンと結婚することになったら王妃が姑ということになる。険悪な空気の中での結婚生活は、十中八九お互いに居心地の悪いものになることだろう。
イアンのことは嫌いではないし、貴族の政略結婚なんてそんなものだと知っている。
ただ私が、そんな苦痛を抱えてまで結婚したいとは思わないだけだ。もし私が低位貴族の娘に産まれていたらそんなわがままは通らなかったかもしれない。しかし、私は地味でも公爵令嬢。通らないわがままはない──はず。
すまないね、イアン。君が悪いのではない。私の平凡な容姿が悪いんだ。
「アンリー!」
ああ……目立つから学園では声をかけないで欲しいって言ったのに。
イアンが向こうで手を振っている。
警戒しながら周囲をうかがったが、いつもの取り巻きたちはいないようだ。撒いてきたのだろうか?
グフッ! それにしてもなんたるかわいらしさ! 十五歳になっても『かわいい』が似合う男子は貴重すぎる! いっそそのまま絵に閉じこめてしまいたい! ──いや、閉じこめちゃいかーん!
「どうしましたか?」
「今日の食堂のランチが魚だったんだ」
魚? ──ああ、この間小骨が喉にささって大泣きしたやつね。食べてもないのにすでに涙目なのはなぜ? 魚、おいしいと思うんですけどねぇ……。
「では、わたくしと一緒にお弁当でも食べますか? サンドイッチですがよろしいですか?」
「やった! サンドイッチは大好き! 食べる! ハムサンドある?」
「ございますよ。では、中庭のベンチにでも行きましょうか」
「うん、行こう!」
キラッキラした笑顔で答えてくれる天使──もといイアン。同い年なのによしよしってしたくなっちゃってお姉さん困っちゃう──同い年だけど。
中庭といえば、先日とてもいい場所を見つけた。
なぜか誰も通らないような植えこみの奥に、ベンチが一台設置してあったのだ──おひとり様用なのだろうか。
かゆいところに手が届く仕様の学園の中庭、嫌いじゃない。
それにあそこならばきっと、イアンといても誰にも見とがめられないだろう。
「アンリ、どうしよう……こぼしちゃった……」
「ああ、そんなに泣かないでくださいまし。今拭いて差しあげますから!」
イアンはサンドイッチをつかんで食べ始めたが、開始五秒くらいで中味のハムだけ落としてポロポロ泣いていた。奇跡の不器用さ!
私はすばやくパンだけになったサンドイッチと落ちたハムを回収した。それからイアンに新しいサンドイッチを持たせると、取りだしたハンカチで彼の服をぬぐった。
手慣れてるでしょう?
もうね、イアンとつき合ってかれこれ九年くらい? 子どももいないのに育児をする母のようだよね、私。まだうら若き十五歳の乙女なのに、そこはかとなく漂う母味……。
でもイアンといるのは嫌いじゃない。彼だけは私を外見だけで判断しないから。だから私も、イアンがどんなに泣いても呆れないことにしている。
まぁ、正直いうと十五歳になっても泣き虫のままだとは思ってなかったけれども。三年後には成人を迎えるが、こんな調子で大丈夫だろうか……未来の王太子様?
学園内で泣くことは我慢しているイアンだが、泣かない美男子はただの美男子だ。イアンの場合は最高権力をともなう美男子──モテる要素しかない、うん。
学園で見るイアンは私と違って、いつも人に囲まれている。キラキラしてる……あ、別にぼっちがリア充にヤキモチ妬いてるとかそういうのじゃないから!
学園生活を謳歌しているように見えるけど、常に人目にさらされるっていうのは意外と辛いものだ。
公人であろうともプライベート大事。
私の前でくらいいつも通りでいさせてあげたい。我慢せず、泣きたい時に泣けばいい──そして私は美男子の涙を合法的にウォッチング!
あ、いかん。本音が。
「あ、イアン様! お口の横にソースがついております」
「ん? どこ?」
「ああ、そこではなくもうちょっと右……あ、もうちょっと上──ここです!」
じれったくなった私は、自分の指でイアンの口の横をぬぐった。えいっ!
ふぃー。これでスッキリ!
そう思って汚れた指をハンカチでぬぐおうとしたら、なんとイアンが私のその指をパクッとくわえた。
「ひゃっ?!」
突然の生温かい感触にビクッとなる。
ななななな舐めた──っ?!
イアンが、私の指を?!
イアンはちゅっと音を立てて私の指を解放した。
「ありがと、アンリ!」
そして、何事もなかったようにまた新しいサンドイッチをほおばる。
ほおばる。
ほおば……。
「──……っ!」
普段からイアンは、心を許している(?)私には割と距離が近い。
そう、距離が近いだけ。
今の行為に特に意味はないはず。きっと自分の指でも舐めるような感覚なのだろう。
そうわかっていても、指先が熱い。
まるでそこに心臓があるかのようにドクドクと脈を打つ。
私はその指をそっと握りこんで、なかなか鳴りやまないドキドキを抑えようとした。
指先だけでなく顔も熱いし、全身が鼓動の塊にでもなったみたいだったが、持ち前の超理性で必死に平静をよそおう。
だがしかし思わずにはいられなかった。
反則でしょ、これは?!
美少年だったイアンは、五年後、それは美しい青年に成長した。
学園に通っている間は『泣き虫王子』を封印しているらしい。だから他の生徒の前で泣いている姿を見たことはない──ないよね?
そうそう。貴族以上の身分のものは、十五歳になると少なくとも三年は王立学園と呼ばれるところへ通わなければならない。そこで、社会、経済、領地経営学、その他専門的な知識を学ぶ。王国法でそう定められている。
それはそれは気が重かった……まぁ、私だけだけど。
通うのは同じ年頃の少年少女と聞いて、脳裏にチラつくのは幼き日の悪意ある貴族のお茶会。
正直いって家庭学習さえきちんとできていれば、学園になんて通わなくてもいいじゃないかと思っている。だけど貴族はもれなく学園に通うのが義務だから拒否はできないのだ。経済状況が思わしくないご家庭にもちゃんと国から補助が出るようになっている。逃げられない。
創立理念としては、学園に通うことで社交性の向上や、専門的に学ぶことで学問の基礎・応用力の充実をはかるとあるんだけど、本当に余計なお世話だと思う。
幸い地味な見かけのおかげで、初日から社交の対象からは外されたらしい。皆さん、新しい人間関係を築くのに忙しいようで、地味な私には目もくれない。
だから、私は案外いつもと変わらない平和な学園生活を送っていた──ぼっちだけれども。
ぼっち落ちつくんだから!
誰にも気をつかわなくていいしぼっち最高!
──はぁ。
私が比較的穏やかな学園生活を送れているのには、外見が平凡地味であること以外にもう一つ理由がある。私が学園側に頼んでイアンの婚約者ということをふせてもらっているからだ。バレたらただではすまないに違いない。ガクブル。
この婚約はある理由から公にされていない。学園に通う生徒諸君のみならず貴族の方々も知らない人がほとんどだと思う。
今のところこの婚約の件確実に知っているといえるのは、ここの学園長と王宮関係者だけだ。
なぜならば。
この婚約が形だけのもので、いずれ解消される性質のものだからだ。
学園へ通う前のイアンは、社交外交問わず公の場へ出ることはほとんどなかった。
それは彼が『泣き虫王子』と揶揄されることにも起因する。あまりにも癇癪を起こして大泣きすることが多かったので、王族としての外聞が悪かったのだと思う。
だが腐っても鯛は鯛。泣き虫でもこの国の第一王子だ。未来の国王に取り入ろうとする貴族は多かったらしい。
貴族たちはこぞって、同じくらいの子どもを、イアンの遊び相手として送りこんできた。覚えがめでたければ将来の側近になれるかもしれない。そんな思惑が大半だっただろう。
柔和な外見をもつ者、ゴマをすりたおす者、兄弟が多くて年下のあしらいに長けている者など──様々な猛者(子どもだが)が送りこまれてきたようだ。しかし誰と遊んでも、なぜかいつもイアンが泣くことになってしまう。そして、泣かせた相手は二度と王宮には呼んでもらえない。
それを何度か繰り返すうちに貴族たちもやがて、我が子を政略のための生贄にすることをあきらめたらしい。
そのループは十歳頃になるまで続いており、遊び相手どころか婚約者を決めるのにも難航した。大半の貴族令嬢が泣き虫イアンの相手をすることを嫌がった。まれに積極的な令嬢がいても、今度はイアンが激しく拒否して婚約自体が暗礁にのりあげることになった。
このままではまともな社交や外交ができなくなってしまう。そう危惧したらしい現国王から白羽の矢が立ったのが、フェルズ公爵家を棲家とするもう一人の引きこもりだった。幸いその人物はなぜかイアンに懐かれている。
そこにあまり深い意味はない。
引きこもり同士で話も合うだろうし、友人としてうまくやっているなら、婚約者にしてもいいんじゃないかとか、適当な理由に違いない。
私から見た現国王は大変おおらかで割と大雑把なところのあるお方だったから。
この婚約を決めるにあたり、王妃からは相当な反対があったと聞く。王妃は何よりも美しいものが大好きなお方だという話だ。たとえ仮初の婚約者だとしても許容できないほど、彼女はこの平凡な容姿を忌み嫌っているのだろう。
王宮ですれ違うこともまれにあるが、挨拶してもまず返ってこない。どころか、存在しないものとされているようだった。
私が彼女の立場だったとしても、将来の義娘がこんな地味女だなんてがっかりだと思うから、気持ちはわからないでもない。
まぁ、何が言いたいかというと、この婚約が仮初のものだということ。それに、いずれは解消されるだろう性質のものであること。そして私がそれを十分承知しているということだ。
おそらくだが、アンリが成人を迎えて正式に王太子に任命される前に解消されることになるだろうと踏んでいる。
王太子妃ともなれば、社交がつきものだ。はっきりいって、引きこもりボッチーナの私に王太子妃はつとまらない。父もそうこぼしていたしね。
今でもどちらかというと婚約者というよりも保護者的立場だし。普通よりちょっぴり泣き虫だけど、手がかかる弟みたいなものだと思っている。
まぁ、王家が責任をもって円満的な解決をしてくれるならば、婚約解消に否やはないのだよ。
もう一度言うが、私はイアンには懐かれているけど王妃には嫌われている。
自分を嫌っている人を好きになるのはまず無理だ。
もし本当にイアンと結婚することになったら王妃が姑ということになる。険悪な空気の中での結婚生活は、十中八九お互いに居心地の悪いものになることだろう。
イアンのことは嫌いではないし、貴族の政略結婚なんてそんなものだと知っている。
ただ私が、そんな苦痛を抱えてまで結婚したいとは思わないだけだ。もし私が低位貴族の娘に産まれていたらそんなわがままは通らなかったかもしれない。しかし、私は地味でも公爵令嬢。通らないわがままはない──はず。
すまないね、イアン。君が悪いのではない。私の平凡な容姿が悪いんだ。
「アンリー!」
ああ……目立つから学園では声をかけないで欲しいって言ったのに。
イアンが向こうで手を振っている。
警戒しながら周囲をうかがったが、いつもの取り巻きたちはいないようだ。撒いてきたのだろうか?
グフッ! それにしてもなんたるかわいらしさ! 十五歳になっても『かわいい』が似合う男子は貴重すぎる! いっそそのまま絵に閉じこめてしまいたい! ──いや、閉じこめちゃいかーん!
「どうしましたか?」
「今日の食堂のランチが魚だったんだ」
魚? ──ああ、この間小骨が喉にささって大泣きしたやつね。食べてもないのにすでに涙目なのはなぜ? 魚、おいしいと思うんですけどねぇ……。
「では、わたくしと一緒にお弁当でも食べますか? サンドイッチですがよろしいですか?」
「やった! サンドイッチは大好き! 食べる! ハムサンドある?」
「ございますよ。では、中庭のベンチにでも行きましょうか」
「うん、行こう!」
キラッキラした笑顔で答えてくれる天使──もといイアン。同い年なのによしよしってしたくなっちゃってお姉さん困っちゃう──同い年だけど。
中庭といえば、先日とてもいい場所を見つけた。
なぜか誰も通らないような植えこみの奥に、ベンチが一台設置してあったのだ──おひとり様用なのだろうか。
かゆいところに手が届く仕様の学園の中庭、嫌いじゃない。
それにあそこならばきっと、イアンといても誰にも見とがめられないだろう。
「アンリ、どうしよう……こぼしちゃった……」
「ああ、そんなに泣かないでくださいまし。今拭いて差しあげますから!」
イアンはサンドイッチをつかんで食べ始めたが、開始五秒くらいで中味のハムだけ落としてポロポロ泣いていた。奇跡の不器用さ!
私はすばやくパンだけになったサンドイッチと落ちたハムを回収した。それからイアンに新しいサンドイッチを持たせると、取りだしたハンカチで彼の服をぬぐった。
手慣れてるでしょう?
もうね、イアンとつき合ってかれこれ九年くらい? 子どももいないのに育児をする母のようだよね、私。まだうら若き十五歳の乙女なのに、そこはかとなく漂う母味……。
でもイアンといるのは嫌いじゃない。彼だけは私を外見だけで判断しないから。だから私も、イアンがどんなに泣いても呆れないことにしている。
まぁ、正直いうと十五歳になっても泣き虫のままだとは思ってなかったけれども。三年後には成人を迎えるが、こんな調子で大丈夫だろうか……未来の王太子様?
学園内で泣くことは我慢しているイアンだが、泣かない美男子はただの美男子だ。イアンの場合は最高権力をともなう美男子──モテる要素しかない、うん。
学園で見るイアンは私と違って、いつも人に囲まれている。キラキラしてる……あ、別にぼっちがリア充にヤキモチ妬いてるとかそういうのじゃないから!
学園生活を謳歌しているように見えるけど、常に人目にさらされるっていうのは意外と辛いものだ。
公人であろうともプライベート大事。
私の前でくらいいつも通りでいさせてあげたい。我慢せず、泣きたい時に泣けばいい──そして私は美男子の涙を合法的にウォッチング!
あ、いかん。本音が。
「あ、イアン様! お口の横にソースがついております」
「ん? どこ?」
「ああ、そこではなくもうちょっと右……あ、もうちょっと上──ここです!」
じれったくなった私は、自分の指でイアンの口の横をぬぐった。えいっ!
ふぃー。これでスッキリ!
そう思って汚れた指をハンカチでぬぐおうとしたら、なんとイアンが私のその指をパクッとくわえた。
「ひゃっ?!」
突然の生温かい感触にビクッとなる。
ななななな舐めた──っ?!
イアンが、私の指を?!
イアンはちゅっと音を立てて私の指を解放した。
「ありがと、アンリ!」
そして、何事もなかったようにまた新しいサンドイッチをほおばる。
ほおばる。
ほおば……。
「──……っ!」
普段からイアンは、心を許している(?)私には割と距離が近い。
そう、距離が近いだけ。
今の行為に特に意味はないはず。きっと自分の指でも舐めるような感覚なのだろう。
そうわかっていても、指先が熱い。
まるでそこに心臓があるかのようにドクドクと脈を打つ。
私はその指をそっと握りこんで、なかなか鳴りやまないドキドキを抑えようとした。
指先だけでなく顔も熱いし、全身が鼓動の塊にでもなったみたいだったが、持ち前の超理性で必死に平静をよそおう。
だがしかし思わずにはいられなかった。
反則でしょ、これは?!
21
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
悪役令嬢と氷の騎士兄弟
飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。
彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。
クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。
悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる