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(5)串焼きと結婚
しおりを挟むマーゴに首根っこを引っつかまれて、すっかり震え上がった男二人が語るには――
「悪魔竜討伐の功績で、討伐隊のリーダー含める主力メンバーが、城のパーティーに招かれている」だとか。
「リオンもその話をしていた時にいたので、マーゴにも伝わっていると思っていた」とか。
「招待を受けた上位陣は、その活躍度に応じて貴族としての爵位や賞金などの褒賞をもらえるらしい」とか。
そして。
「同じく褒賞として、討伐隊のメンバーの一人に王女の一人を降嫁させるのではないか、という噂がある」だとか。
洗いざらい白状した男たちは、若干涙目になっていた。
「し……信じられない! 何で私も連れてってくれないのよ?! 討伐成功は、半分くらいは私のおかげじゃないの?! ってかむしろ私が倒したようなものなんだけど?!」
「お、落ち着けよ、マーゴ! お前の活躍は討伐隊のメンバーなら誰でも知ってるよ! 知ってるさ……ああ、えっと、ほら! たまたま伝え忘れていたんじゃないかな? パレードの準備で色々忙しかったし! な、なぁ?!」
「そう! そうだよ!! 置いていかれたんじゃないよ。忘れられていただけだよ!」
「お、おい……っ」
「あ」
慌てて口をつぐむも時すでに遅く、マーゴの顔が段々と赤みを帯びてくる。
「あんたたちは知らないかもしれないけどねぇ。リオンはそんなうっかりをする奴じゃないのよ! あいつのことだから、絶対わざと伝えなかったに違いないわ! 腹が立つったら! 報酬を6:4でわけたこと、未だに根に持ってるのよきっと! そうに違いない! ほんっとうにムカつく!!!」
地団駄を踏むマーゴ。踏まれる度に石畳がミシミシいっているのは気のせいだろうか。気のせいだと思いたい。
今の彼女からは、例え手練れの冒険者であっても、後退るほどの殺気がただ漏れている。
「マーゴ、落ち着けって! ほら、今から城へ行けば合流できるかもしれないぞ?!」
「そう! そうだよ!! 今から追いかけなよ! 間に合うかもしれないし!」
「……じゃない」
「「えっ?」」
「冗談じゃないわよ! 誰がそんな惨めな真似するもんですか! 絶対にしないんだからぁぁぁ―――っ!!!」
あまりの気迫に気圧されて、男二人は脱兎の如く逃げ去った。
仮にも拳姫とまで呼ばれる女冒険者、マーゴ。
八つ当たりに巻き込まれでもしたらたまらない。
「よっ! 嬢ちゃん、荒れてるねぇ! おっちゃん特製の、激うまガッチョウの串焼きでも食って落ち着きなよ」
そうこうしているうちに、並んでいた露店の順番が回ってきていたようだ。
「そうね。おっちゃん、ガッチョウの串焼き10本ちょうだい。全部タレでお願い!」
「あいよっ! 1本オマケしとくよ!」
「ありがと!」
手渡された串から、タレの香ばしい匂いが漂ってくる。
マーゴはよだれをごくんと飲み込むと、食欲のおもむくままに、その場で肉に齧り付いてもしゃもしゃと頬張った。
「美味しい!」
こうして10+1本の串焼きは、あっという間にマーゴの胃の中へ消えていったのだった。
食欲が満たされると、ちょっとだけ精神的な余裕もできてきた。
「そういえばあいつ、前回の討伐で、そろそろ落ち着きたいとかこぼしてたっけ。落ち着きたいってことは、結婚したいってことよね?」
なるほど。結婚を決意したリオンが花嫁候補を探すとしたら、街より人の多い王都はもってこいだ。
更に、城で開かれるパーティーなんてまさにうってつけだろう。
それで外出着を新調していたわけか、と腑に落ちる。
きっと、あの時ギルドでパレードの話を聞いたより前に、城でのパーティーの招待を受けていたのだろう。
「……」
怒っているのではない。自分だけ知らされなかったのが純粋に悲しいだけだ。
「ま、でも。よくよく考えてみると、嫁探しに行くのに、私の面倒なんかみちゃいられない! ってことで置いていかれたんだろうなぁ……」
これほどガサツな性格のマーゴとも、長年パーティーを組めているくらいなのだ。
少々お節介で口うるさいが、裏を返せば面倒見がいいとも言える。
容姿だって悪くない。
普段は身なりを気にする方じゃないから、ボサボサ頭によれよれのローブを纏っているが、身なりを整えれば案外イケメンなのだ。
リオンがその気になれば、嫁の来手はいくらでもありそうだ。
「それならそうと一言言ってくれれば、私だって邪魔したりは……」
しなかったかどうかは自信がない。
あえて邪魔したりはしないつもりだけれど、お城へ行きたいというわがままは言ったに違いない。
だって、お城の中とか見てみたい。
本物のお姫様や王子様にも会ってみたい。
そして、マーゴが一緒に行ったが最後、あれやこれやと世話を焼くことになるリオンの姿も、同時に想像できる。
もちろん自分の花嫁探しどころじゃなくなるに違いない。
マーゴを置いていきたくなったリオンの気持ちも、わからないでもない。
「はぁ……結婚かぁ。もしあいつが結婚したら、私とはパーティー解消になるのかな。あんな性格だけど、腕だけは確かだから冒険者は辞めないでくれるといいなぁ」
何度もため息をつきながらマーゴは、少し埃っぽい石畳の上を歩き始めた。
「まぁでも、冒険者なんて不安定な職業だものね。リオンは魔術師だから引く手数多だろうし、冒険者を続ける理由なんかないかぁ……」
マーゴのように、得意なものが腕っ節だけだと、冒険者や傭兵としてやっていく以外の道がないけれど、魔術師は話が別である。
冒険者ではない魔術師も、割と高級取りが多いのだそうだ。
お抱えで、複数人の魔術師を雇っている貴族も珍しくないというし。
魔術オタク故か、複数の属性魔法を使いこなすリオンは、引っ張りだこに違いない。
特に、貴重な治療魔法の使い手と知られれば、天文学的数値の契約金がとれるかもしれない。
ただ彼の治療魔法は、行使の仕方に若干問題があって、あまり実用的とは言えないのだけれど。
「あぁでも! 長い間相棒としてやってきたから、いざ離れるとなると寂しいっちゃ寂しいわね……もしリオンが抜けたら、これから一人で旅することになるのかなぁ……?」
何だか胸がチクリチクリと痛むような気がするが、きっと寂しさによる一過性のものだろう。
もしくは、串焼きを食べ過ぎたのかもしれない。
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