【完結】喧嘩ばかりしていた幼なじみの冒険者が、婚約破棄をしてきたそうで

真辺わ人

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(7)猪の御者が不在

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 この国には、国家専属魔術師――略して国専魔術師という地位がある。

 普通は、お高いお高い授業料を払って。
 厳しい厳しい魔術師の学校に入って。
 首席で卒業でもして。
 更にお偉いさんの推薦がないと、その地位につくことはできない。

 しかし、優秀な人材の取りこぼしを防ぐため、これといった人材には、特例で与えられることもある。
 国王や議会なんかが、その権利を持っている。

『国専魔術師にでもなれば、生活安定するのかな?』

 数ヶ月前、防具を新調するためにリオンのへそくりをこっそり使い切ってしまった。
 空の皮袋を見つけたリオンが、ため息をつきながらそんなことを呟いていたことを思い出す。

 国専魔術師になると、使いきれないほどの給料が支給されるそうだ。
 その代わり、冒険者よりも活動範囲は制限されることになる。
 王都と城を優先的に守るため、王都内の屋敷に常駐していなければならず、王都を離れることはもちろん、国と国を渡り歩くなどもっての外だ。

(自由がなくなるのは、嫌だなぁ……)

 もちろんそんなのは、マーゴのエゴだとわかっているので、口にしたことはない。
 もし、リオンが国専魔術師になったら、パーティーを解消して一人でも旅を続けるつもりだった。

「なっ? だからさ、代わりに俺っちが入ってやるって言ってるの!」

 ルシウスはまだしゃべっていたようだ。
 我に返ったマーゴは、機嫌良く話し続ける男を無視して、その脇を通り抜けた。

(バカも休み休み言ってよね。あいつの代わりになる奴なんている訳ないじゃない!)

「なぁなぁ、この前の討伐で俺っちの剣の腕は見たっしょ? 剣と拳。俺たち意外といいコンビだと思うんだよね~!」

 マーゴが無視しても、ルシウスは後をついてきた。

「俺っち、こう見えても気の強い女大好きなんだよ! あんた美人だし、一緒に組んであげてもいいよ! ねっ? ねっ?」

 うざい。
 普段なら気にもしない雑音だけれど、今日はいやに耳につく。
 マーゴはルシウスを撒くために走った。

「あ、ちょっと?!」

 慌てて追いかけてくるルシウス。
 閃光だの流星だの、妙な二つ名がついているだけあって、思ったより足が速い。

「……ちっ!」

 こうなったら、奴をそこら辺の路地裏に引き摺り込んで、少し痛い目を見せるしかない。
 ちょっとだけテンパったマーゴの脳みそが、そんな結論を導き出した。

 普段は、リオンがマーゴの思考の手綱を握っていて、こうした短絡的な結論に至る前に一旦深呼吸させるのだが、あいにくと彼は不在だ。
 なまじ、そこらの冒険者では太刀打ちできないほどの力を持っている彼女。
 若い女性の身で路地裏に飛び込むことや、男性と二人になることにも、危機感など抱いたことはないから仕方がない。

 しかし、彼らが路地裏に足を踏み入れた瞬間、全身黒尽くめの何者かに囲まれてしまったのだった。

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