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修理と花
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早朝の人気がない通りを急ぎ足で抜ける。
戦争が人間の勝利で終わったとはいえ、AIの象徴である人型精密機械を憎む人は多い。
僕は自分の家に駆け込み、重いドアが閉まると同時に鍵をかけた。
「はぁぁぁ」
安堵とともに腰が抜ける。その場に座りこんだ僕の背中から彼女が滑り落ちた。
「あ、ごめん!」
床に倒れた彼女に思わず声をかける。それから、プッと噴き出してしまった。
「なんで謝ってるんだ、僕は。お腹が空いたし、軽く食べて、ひと眠りしよう」
立ち上がった僕はそのままキッチンへ行こうとして、床に倒れている彼女をつい見てしまった。
結局、修理台……ではなく僕のベッドに彼女を寝かせて、僕は軽い食事と仮眠をとった。ちなみに寝床は修理室にある仮眠ベッド。
彼女と添い寝なんてしていない!
誰が見ているわけでも、誰に指摘されるわけでもないのに、なぜか言い張ってしまう。
どうも彼女を拾ってから調子がおかしい。
「うーん……」
黒い髪をかきながら改めて修理台に寝かせた彼女を観察する。
初めて見る人型精密機械は一見すると人間と変わらない。これで髪の色が金や茶だったら見分けがつかないだろう。
僕は修理装置に彼女を接続して壊れている箇所を探した。
「伝達経路が何か所か断絶しているのと、エネルギー切れか。これなら、ここにある機材で直せるな」
幸い、急ぎの依頼もなく、時間はある。
僕は彼女の修理に没頭した。
~※~
「あれ? おまえ、花なんて何処で手に入れたんだ?」
依頼品を受け取りにきた悪友がテーブルに飾られた花を目ざとく見つける。小さな白い花が丸く集まり、枝の先に咲いている。
一輪……というわけではないけど、細い瓶に刺さった一枝の花。
大戦のあと、植物は姿を消した。地面はガラクタと鉄くずで埋め尽くされ、土がない。そのため、花どころか草も生える場所がないのだ。
「あー、それは造花だよ。いつもの機材集めをしていたら、見つけたんだ」
「そうだよな。花なんて咲いてるわけないし。けど、よくできてるな」
花に顔を近づけようとした悪友を遮るように依頼品を渡す。
「ちょっと、これから手がかかる仕事をしないといけないから、悪いけど動作確認はそっちでやってくれないか?」
「えー。最近、サービスが悪くないか?」
愚痴りながらも悪友が軽く依頼品をチェックする。
「割れていた場所がわからないぐらい綺麗に直ってるな。じゃあ、ちゃんと動くかはこっちで確認しておく。おまえの仕事だから大丈夫だろうし」
「頼むよ」
悪友を送り出すと、重いドアを閉めて鍵をかけた。それから息を一つ吐く。
「主、何か問題がありましたか?」
十代半ばの少女の声。目を閉じていれば人の声だと思うだろう。いや、目を開けていても人の声と思うか。
「あの、今度から花は修理室に飾るようにしてくれないか?」
「わかりました」
感情の色が見えない、青から緑に変わる不思議な瞳。髪と同じ色の目は、大きく宝石のように煌めいていた。
人ではありえない髪と目の色は、一目で人型精密機械だと分かる。いや、美しすぎる顔と、整いすぎた体だけでも、十分わかるが。
彼女を拾って修理をした結果、再起動に成功して、今は僕の手伝いをしている。
武器や危険物は所持しておらず、個人データも残っていなかったため、製造者や用途は不明。ただ、命令には従順なため旧時代の人に使われていたのだろう。
とはいえ、AIの象徴でもある人型精密機械。
他の人に存在を知られるわけにはいかない。
依頼人が来る時は修理室に籠って姿を見せないように命令をしていたが、まさか花から怪しまれるとは思わなかった。
僕は命令を待つように立っている彼女に声をかけた。
「この花はどこから持ってきたの?」
悪友には造花と言ったが、これは正真正銘の本物の花。…………たぶん。
だって、僕も本物の花は見たことがないのだから。
僕は、この花を始めて見た時のことを思い出した――――――
彼女をいろいろ調べた結果、エネルギー源は月光だと分かった。最初はなんて非効率なんだと呆れたが、少しの光で一週間ほど稼働できるという優れもの。
太陽の光だと強すぎるし、人工灯だと何故かエネルギーは溜まらず。
そのため、彼女は天気が良い夜は月光を浴びに一人で外へ行く。真っ暗で道が見えないのではないか? と聞けば、センサーで感知するから問題ないという。
夜なら独特な髪色も目立たない。念のために帽子を被せ、他の人に姿を見られないように命令はしたが。
こうして何度目かの月光浴をした、ある日。家に戻ってきた彼女は小さな白い花が咲いた枝を持っていた。
無言で渡され思わず受け取る。鉄くずとは違う触感と、微かに香る甘い匂い。検索をしたらDaphne(ダフニー)という花だと分かった。
「……で、これはどうしたらいいんだ?」
修理室で花を持て余していると、彼女が細い瓶に水をいれて持ってきた。
「その瓶を、どうするの?」
「花を活けます」
「活ける?」
「花を水に入れることで長く鑑賞することができます」
「鑑賞? 花を? 花が芸か何かするの?」
手の中で沈黙している花に視線を落とすと、すぐに彼女が否定した。
「いえ。花は何もしません」
「じゃあ、鑑賞って?」
「花を見るだけです」
「……それって、面白いの?」
顔をあげた僕に淡々とした声が答える。
「私の基本データの中にある情報なので、感情については判断しかねます」
「つまり旧時代の人たちは、水を入れた瓶に花を挿して鑑賞していたってこと?」
「はい」
「……そういうものなのかな」
僕は呟きとともに彼女が持っている瓶に花を入れた。そして、彼女がそれをリビングのテーブルに置く。
「どうして、そこに?」
「花は食事をする場所や玄関に飾る、という情報があります」
「……そういうものなのか」
この行動にどういう意味や効果があるか分からないけど、とりあえず彼女の好きにさせるようにしてみた…………が、それが仇となり悪友に見つかった。
これ以降、花は修理机の上が定位置となる。
戦争が人間の勝利で終わったとはいえ、AIの象徴である人型精密機械を憎む人は多い。
僕は自分の家に駆け込み、重いドアが閉まると同時に鍵をかけた。
「はぁぁぁ」
安堵とともに腰が抜ける。その場に座りこんだ僕の背中から彼女が滑り落ちた。
「あ、ごめん!」
床に倒れた彼女に思わず声をかける。それから、プッと噴き出してしまった。
「なんで謝ってるんだ、僕は。お腹が空いたし、軽く食べて、ひと眠りしよう」
立ち上がった僕はそのままキッチンへ行こうとして、床に倒れている彼女をつい見てしまった。
結局、修理台……ではなく僕のベッドに彼女を寝かせて、僕は軽い食事と仮眠をとった。ちなみに寝床は修理室にある仮眠ベッド。
彼女と添い寝なんてしていない!
誰が見ているわけでも、誰に指摘されるわけでもないのに、なぜか言い張ってしまう。
どうも彼女を拾ってから調子がおかしい。
「うーん……」
黒い髪をかきながら改めて修理台に寝かせた彼女を観察する。
初めて見る人型精密機械は一見すると人間と変わらない。これで髪の色が金や茶だったら見分けがつかないだろう。
僕は修理装置に彼女を接続して壊れている箇所を探した。
「伝達経路が何か所か断絶しているのと、エネルギー切れか。これなら、ここにある機材で直せるな」
幸い、急ぎの依頼もなく、時間はある。
僕は彼女の修理に没頭した。
~※~
「あれ? おまえ、花なんて何処で手に入れたんだ?」
依頼品を受け取りにきた悪友がテーブルに飾られた花を目ざとく見つける。小さな白い花が丸く集まり、枝の先に咲いている。
一輪……というわけではないけど、細い瓶に刺さった一枝の花。
大戦のあと、植物は姿を消した。地面はガラクタと鉄くずで埋め尽くされ、土がない。そのため、花どころか草も生える場所がないのだ。
「あー、それは造花だよ。いつもの機材集めをしていたら、見つけたんだ」
「そうだよな。花なんて咲いてるわけないし。けど、よくできてるな」
花に顔を近づけようとした悪友を遮るように依頼品を渡す。
「ちょっと、これから手がかかる仕事をしないといけないから、悪いけど動作確認はそっちでやってくれないか?」
「えー。最近、サービスが悪くないか?」
愚痴りながらも悪友が軽く依頼品をチェックする。
「割れていた場所がわからないぐらい綺麗に直ってるな。じゃあ、ちゃんと動くかはこっちで確認しておく。おまえの仕事だから大丈夫だろうし」
「頼むよ」
悪友を送り出すと、重いドアを閉めて鍵をかけた。それから息を一つ吐く。
「主、何か問題がありましたか?」
十代半ばの少女の声。目を閉じていれば人の声だと思うだろう。いや、目を開けていても人の声と思うか。
「あの、今度から花は修理室に飾るようにしてくれないか?」
「わかりました」
感情の色が見えない、青から緑に変わる不思議な瞳。髪と同じ色の目は、大きく宝石のように煌めいていた。
人ではありえない髪と目の色は、一目で人型精密機械だと分かる。いや、美しすぎる顔と、整いすぎた体だけでも、十分わかるが。
彼女を拾って修理をした結果、再起動に成功して、今は僕の手伝いをしている。
武器や危険物は所持しておらず、個人データも残っていなかったため、製造者や用途は不明。ただ、命令には従順なため旧時代の人に使われていたのだろう。
とはいえ、AIの象徴でもある人型精密機械。
他の人に存在を知られるわけにはいかない。
依頼人が来る時は修理室に籠って姿を見せないように命令をしていたが、まさか花から怪しまれるとは思わなかった。
僕は命令を待つように立っている彼女に声をかけた。
「この花はどこから持ってきたの?」
悪友には造花と言ったが、これは正真正銘の本物の花。…………たぶん。
だって、僕も本物の花は見たことがないのだから。
僕は、この花を始めて見た時のことを思い出した――――――
彼女をいろいろ調べた結果、エネルギー源は月光だと分かった。最初はなんて非効率なんだと呆れたが、少しの光で一週間ほど稼働できるという優れもの。
太陽の光だと強すぎるし、人工灯だと何故かエネルギーは溜まらず。
そのため、彼女は天気が良い夜は月光を浴びに一人で外へ行く。真っ暗で道が見えないのではないか? と聞けば、センサーで感知するから問題ないという。
夜なら独特な髪色も目立たない。念のために帽子を被せ、他の人に姿を見られないように命令はしたが。
こうして何度目かの月光浴をした、ある日。家に戻ってきた彼女は小さな白い花が咲いた枝を持っていた。
無言で渡され思わず受け取る。鉄くずとは違う触感と、微かに香る甘い匂い。検索をしたらDaphne(ダフニー)という花だと分かった。
「……で、これはどうしたらいいんだ?」
修理室で花を持て余していると、彼女が細い瓶に水をいれて持ってきた。
「その瓶を、どうするの?」
「花を活けます」
「活ける?」
「花を水に入れることで長く鑑賞することができます」
「鑑賞? 花を? 花が芸か何かするの?」
手の中で沈黙している花に視線を落とすと、すぐに彼女が否定した。
「いえ。花は何もしません」
「じゃあ、鑑賞って?」
「花を見るだけです」
「……それって、面白いの?」
顔をあげた僕に淡々とした声が答える。
「私の基本データの中にある情報なので、感情については判断しかねます」
「つまり旧時代の人たちは、水を入れた瓶に花を挿して鑑賞していたってこと?」
「はい」
「……そういうものなのかな」
僕は呟きとともに彼女が持っている瓶に花を入れた。そして、彼女がそれをリビングのテーブルに置く。
「どうして、そこに?」
「花は食事をする場所や玄関に飾る、という情報があります」
「……そういうものなのか」
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