5 / 5
いつもの日常へ
しおりを挟む
「待って! 行かないで!」
「そこまでだ!」
全方位から重量のある音がむけられる。足元をほんのり照らすライト。そこに浮かび上がったのは武装した集団だった。
一斉にむけられた銃口。戦争を知らない僕でも分かる、ピリッとした鋭い空気。
僕は彼女を守るため、壁になるように立った。
「撃たないで!」
武装集団の一人が片手をあげて制する。銃口は向けられたままだが、少しだけ空気が緩んだ。
片手をあげた隊長らしき人が僕の方へ歩いてくる。
「私たちに彼女を攻撃する意思はない」
「え?」
「むしろ、この銃口は君にむけられている」
「なっ!?」
僕が息を呑むと同時に背後にいる彼女の気配が変わった。今まで感じたことがない、強く怒りに満ちた気配。
「主]を攻撃するのであれば、私は全力で抵抗します」
その言葉に隊長らしき人が声を低くする。
「それは、あなた次第です。あなたが協力するのであれば、彼の安全は保障します。その意味をあなたはプログラムされているはずです」
そっと振り返ると、彼女は宙に浮いたまま、悲しげに微笑んでいた。
「どういう、こと?」
「……お別れです、主」
「え?」
隊長らしき人が僕に説明する。
「君は彼女を見つけ、開花させることに成功した。それ相応の報酬が渡される」
「見つけた? 開花? 待ってください! 僕はそんなものはいりません! それより、彼女はどうなるのですか!? 彼女は何者なんですか!?」
僕の声が虚しく響く。
「時間だ」
低い声に彼女が宙に浮いたまま動いた。
このまま彼女と逃げたい。でも、そんなことをすれば、きっと彼女も無事ではすまない。
それなら、せめて……
僕は彼女に叫んだ。
「最後に一つ、教えてくれ!」
周囲の気配が鋭くなり、銃口がより正確に向けられる。
それでも、僕は聞きたい。他ならぬ君の口から。
「名前を……君の名前を、教えてくれ」
彼女がフワリと笑った気がした。
それから、僕の耳に花弁のような唇を近づけて。
「私の名は――――――」
~※~
次に目を覚ました時、僕は自分の部屋にいた。夢だったら良かったのに、すべては現実で。
彼女がいない家。
修理机には枯れた花。
それでも、やってくる毎日。
僕は無気力な毎日を過ごした。
悪友は顔を見せなくなったが、修理の依頼は適度にあり、口座には見たことがない金額のお金が振り込まれていた。
そんな、ある日。
街中のあらゆるスピーカーから歌が流れた。それは、どれだけ壊れていても、スピーカーの形をしていれば音がした。
誰も聞いたことがない歌詞とメロディー。だけど、自然と耳に馴染んで。
そして、その音楽に応えるようにガラクタの隙間から植物が生えてきた。
Ficus(フィークス)、Thymus(サイマス)、Ribes(リベス)、Abelia(アベリア)、Sedum(セダム)、Ochna(オクナ)、Lychnis(リクニス)など。様々な草花がすざましいスピードで成長して、モノクロだった街が、緑の葉とカラフルな花に埋もれた。
それは、旧時代より古い時代の光景で。
僕は修理をしながら、夜空を見上げた。
「愛を教えてくれて、ありがとう。主」
今日も壊れたラジオから君の歌が聞こえる――――――
「そこまでだ!」
全方位から重量のある音がむけられる。足元をほんのり照らすライト。そこに浮かび上がったのは武装した集団だった。
一斉にむけられた銃口。戦争を知らない僕でも分かる、ピリッとした鋭い空気。
僕は彼女を守るため、壁になるように立った。
「撃たないで!」
武装集団の一人が片手をあげて制する。銃口は向けられたままだが、少しだけ空気が緩んだ。
片手をあげた隊長らしき人が僕の方へ歩いてくる。
「私たちに彼女を攻撃する意思はない」
「え?」
「むしろ、この銃口は君にむけられている」
「なっ!?」
僕が息を呑むと同時に背後にいる彼女の気配が変わった。今まで感じたことがない、強く怒りに満ちた気配。
「主]を攻撃するのであれば、私は全力で抵抗します」
その言葉に隊長らしき人が声を低くする。
「それは、あなた次第です。あなたが協力するのであれば、彼の安全は保障します。その意味をあなたはプログラムされているはずです」
そっと振り返ると、彼女は宙に浮いたまま、悲しげに微笑んでいた。
「どういう、こと?」
「……お別れです、主」
「え?」
隊長らしき人が僕に説明する。
「君は彼女を見つけ、開花させることに成功した。それ相応の報酬が渡される」
「見つけた? 開花? 待ってください! 僕はそんなものはいりません! それより、彼女はどうなるのですか!? 彼女は何者なんですか!?」
僕の声が虚しく響く。
「時間だ」
低い声に彼女が宙に浮いたまま動いた。
このまま彼女と逃げたい。でも、そんなことをすれば、きっと彼女も無事ではすまない。
それなら、せめて……
僕は彼女に叫んだ。
「最後に一つ、教えてくれ!」
周囲の気配が鋭くなり、銃口がより正確に向けられる。
それでも、僕は聞きたい。他ならぬ君の口から。
「名前を……君の名前を、教えてくれ」
彼女がフワリと笑った気がした。
それから、僕の耳に花弁のような唇を近づけて。
「私の名は――――――」
~※~
次に目を覚ました時、僕は自分の部屋にいた。夢だったら良かったのに、すべては現実で。
彼女がいない家。
修理机には枯れた花。
それでも、やってくる毎日。
僕は無気力な毎日を過ごした。
悪友は顔を見せなくなったが、修理の依頼は適度にあり、口座には見たことがない金額のお金が振り込まれていた。
そんな、ある日。
街中のあらゆるスピーカーから歌が流れた。それは、どれだけ壊れていても、スピーカーの形をしていれば音がした。
誰も聞いたことがない歌詞とメロディー。だけど、自然と耳に馴染んで。
そして、その音楽に応えるようにガラクタの隙間から植物が生えてきた。
Ficus(フィークス)、Thymus(サイマス)、Ribes(リベス)、Abelia(アベリア)、Sedum(セダム)、Ochna(オクナ)、Lychnis(リクニス)など。様々な草花がすざましいスピードで成長して、モノクロだった街が、緑の葉とカラフルな花に埋もれた。
それは、旧時代より古い時代の光景で。
僕は修理をしながら、夜空を見上げた。
「愛を教えてくれて、ありがとう。主」
今日も壊れたラジオから君の歌が聞こえる――――――
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる