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12 いざ騎士団へ
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ルーカスの屋敷での会話の後、シルフィアはメイドのサラとともに馬車で移動していた。
行き先は騎士団の本部がある城。
敵国が攻めてきた時に王城の盾となる位置に建ち、防御に重点をおいた頑丈で堅牢な石造り。騎士の宿舎から厩、訓練場、執務室まですべてが揃っている。
ここには国中から実力のある騎士が集まり、国を守る要となるため日々、切磋琢磨しているのだが、腐を愛する令嬢たちの本の舞台になることもしばしば。ただし、主役となっている騎士たちはそのことを知らない。
そんな腐を愛する者たちにとって聖地である騎士団にシルフィアたちを乗せた馬車が到着した。
王城とは違うピリッとした空気が漂う中、二人が馬車から降りる。
シルフィアの侍女として付いて来たサラが丸い目を輝かせて城を見上げた。
「お嬢様、まるで夢のようでございます。ここで、騎士の方々のめくるめく華やかな生活が……そのお姿をこの目で実際に拝見できる日が来るなんて……」
そう言いながら額に手を当ててフッと倒れそうになるサラ。そこで素早く亜麻色の髪が動き、崩れかけた体を支える。
「まだ、意識を失うには早いですよ。優秀な騎士であり表では喧嘩が絶えないライバル関係でありながらも、裏では両片思い中というアーベライン伯爵子息とバーレ伯爵子息のお二人の様子をこの目に映すまでは」
「そ、そうですね。他にもサイモン隊の隊長と副隊長が主従を超えた関係の本もありますし、そのお二人の姿もぜひとも拝見しなければ」
なんとか意識を保ちながら呟いたサラの発言にシルフィアが目を輝かせる。
「その本は読んだことがありませんわ! ぜひ、その本を一読しなくては! それにしても、隊長を公私ともに支える副隊長の公の部分をこれから実際に拝見できるなんて……幸福の絶頂ですわ」
その言葉に膝から崩れ落ちかけていたサラがフンッと力を入れて立ち上がる。
「そうです! そのお姿を目に焼き付けて、一生の思い出に……いえ、そのお姿を拝めるのであれば、本日が命日となっても悔いはありません!」
「それはダメよ、サラ! 私たちはここで目にしたことを他の同士へ伝えるという役目があります! 命が尽きるのは、その後ですわ!」
「そ、そうでした! 私としたことが、自分のことしか考えておらず……この感動を同士へ伝えるまで、何が何でも生き延びてみせます!」
「その意気ですわ!」
令嬢らしからぬ、飢えた肉食獣のような威圧に、欲望渦巻く腐の気配が混じり合う。
そんな近寄りがたい雰囲気が漂う二人を、先に騎士団へ戻っていたアンドレイが遠くから眺めていた。
「俺が馬を置いてきた間に何があったんだ?」
愛馬を厩に置いて戻ってきたところで、馬車から出てきた侍女がふらついており、馬車酔いしたのか? と心配して駆け寄ろうとしたら、いきなり復活した。
その奇妙な動きに呆気にとられながらも、二人の間でどんな会話がされていたのか知らないアンドレイは一般的な考えをしていた。
「王城とは違って飾り気も何もないし、防衛が主だからな。淑女にこの城は合わないかもしれないな」
と城を見上げて見当違いな考察をする。
まさか歓喜で失神しかけていたなんて思いもしない。
アンドレイがどう案内するか考えていると、シルフィアが駆け寄ってきた。
「この度は騎士団へお招きいただき、ありがとうございます」
優雅に礼を述べながらも、早く案内しろと言わんばかりに大きく見開いた翡翠の瞳が迫る。
「え、あ、その……侍女は、大丈夫なのか?」
そっと視線をずらせば、シルフィアの背後で控えている侍女も丸い目を輝かせて期待の眼差しをむけていた。
それは今まで色目をむけてきた淑女とは違い純粋で素朴な眼差し。赤茶色の髪を軽く揺らし、小鼻の上にのったそばかすが琥珀の瞳に可愛らしく映る。
「私のことはお気になさらず。空気と思って……いえ、居ないものとして扱ってください」
そう言われても、そのような扱いが実際にできるわけもなく。
「いや、そういうわけにはいかない。途中で調子が悪くなったら、すぐに言ってくれ」
「お心遣い、ありがとうございます。ですが、私はお嬢様の影となりますので」
素直に頭をさげると、ススス……とシルフィアの後ろへ下がり、本当に影と重なった。
その動きにアンドレイが絶句する。
(なんだ、この侍女は? 侍女であろうとも、これまでの若い女はみな、少しでも俺の記憶に残ろうと必死にアピールをしてきたのに)
若くして騎士団長となったアンドレイは侯爵家であり、社交界では婚約者を探している女性たちからの垂涎の的であった。そのため、身分違いであろうとも、あわよくばと動く侍女やメイドもいた。
しかし、サラはシルフィアと同様、腐を見守る伝道師となることを目指しており、壁か空気となることを目標としている。そのため、腐に関することであれば騎士団長に興味はあるが、アンドレイ自身に関わろうという気はまったくない。むしろ、存在を認識してほしくない。
それなのに、結果として印象に残ってしまったのだが、そのことをサラが知る由もなく。
アンドレイは初めて接するタイプの侍女に戸惑いながらも、なんとか気を取り直しながら訊ねた。
「城内へ移動するが、案内できる場所は限られているためすべてを見せることはできない。それでも、いいか?」
「はい、案内できる場所だけで十分ですので」
笑顔で答えるシルフィアにアンドレイが腹を括る。
(少し変わったところがあるが……ルーカスによって屋敷に監禁されていないか確認することが目的だ。案内をしながら、それとなく話を聞きだそう)
こうして騎士団長による騎士団の案内が始まった。
行き先は騎士団の本部がある城。
敵国が攻めてきた時に王城の盾となる位置に建ち、防御に重点をおいた頑丈で堅牢な石造り。騎士の宿舎から厩、訓練場、執務室まですべてが揃っている。
ここには国中から実力のある騎士が集まり、国を守る要となるため日々、切磋琢磨しているのだが、腐を愛する令嬢たちの本の舞台になることもしばしば。ただし、主役となっている騎士たちはそのことを知らない。
そんな腐を愛する者たちにとって聖地である騎士団にシルフィアたちを乗せた馬車が到着した。
王城とは違うピリッとした空気が漂う中、二人が馬車から降りる。
シルフィアの侍女として付いて来たサラが丸い目を輝かせて城を見上げた。
「お嬢様、まるで夢のようでございます。ここで、騎士の方々のめくるめく華やかな生活が……そのお姿をこの目で実際に拝見できる日が来るなんて……」
そう言いながら額に手を当ててフッと倒れそうになるサラ。そこで素早く亜麻色の髪が動き、崩れかけた体を支える。
「まだ、意識を失うには早いですよ。優秀な騎士であり表では喧嘩が絶えないライバル関係でありながらも、裏では両片思い中というアーベライン伯爵子息とバーレ伯爵子息のお二人の様子をこの目に映すまでは」
「そ、そうですね。他にもサイモン隊の隊長と副隊長が主従を超えた関係の本もありますし、そのお二人の姿もぜひとも拝見しなければ」
なんとか意識を保ちながら呟いたサラの発言にシルフィアが目を輝かせる。
「その本は読んだことがありませんわ! ぜひ、その本を一読しなくては! それにしても、隊長を公私ともに支える副隊長の公の部分をこれから実際に拝見できるなんて……幸福の絶頂ですわ」
その言葉に膝から崩れ落ちかけていたサラがフンッと力を入れて立ち上がる。
「そうです! そのお姿を目に焼き付けて、一生の思い出に……いえ、そのお姿を拝めるのであれば、本日が命日となっても悔いはありません!」
「それはダメよ、サラ! 私たちはここで目にしたことを他の同士へ伝えるという役目があります! 命が尽きるのは、その後ですわ!」
「そ、そうでした! 私としたことが、自分のことしか考えておらず……この感動を同士へ伝えるまで、何が何でも生き延びてみせます!」
「その意気ですわ!」
令嬢らしからぬ、飢えた肉食獣のような威圧に、欲望渦巻く腐の気配が混じり合う。
そんな近寄りがたい雰囲気が漂う二人を、先に騎士団へ戻っていたアンドレイが遠くから眺めていた。
「俺が馬を置いてきた間に何があったんだ?」
愛馬を厩に置いて戻ってきたところで、馬車から出てきた侍女がふらついており、馬車酔いしたのか? と心配して駆け寄ろうとしたら、いきなり復活した。
その奇妙な動きに呆気にとられながらも、二人の間でどんな会話がされていたのか知らないアンドレイは一般的な考えをしていた。
「王城とは違って飾り気も何もないし、防衛が主だからな。淑女にこの城は合わないかもしれないな」
と城を見上げて見当違いな考察をする。
まさか歓喜で失神しかけていたなんて思いもしない。
アンドレイがどう案内するか考えていると、シルフィアが駆け寄ってきた。
「この度は騎士団へお招きいただき、ありがとうございます」
優雅に礼を述べながらも、早く案内しろと言わんばかりに大きく見開いた翡翠の瞳が迫る。
「え、あ、その……侍女は、大丈夫なのか?」
そっと視線をずらせば、シルフィアの背後で控えている侍女も丸い目を輝かせて期待の眼差しをむけていた。
それは今まで色目をむけてきた淑女とは違い純粋で素朴な眼差し。赤茶色の髪を軽く揺らし、小鼻の上にのったそばかすが琥珀の瞳に可愛らしく映る。
「私のことはお気になさらず。空気と思って……いえ、居ないものとして扱ってください」
そう言われても、そのような扱いが実際にできるわけもなく。
「いや、そういうわけにはいかない。途中で調子が悪くなったら、すぐに言ってくれ」
「お心遣い、ありがとうございます。ですが、私はお嬢様の影となりますので」
素直に頭をさげると、ススス……とシルフィアの後ろへ下がり、本当に影と重なった。
その動きにアンドレイが絶句する。
(なんだ、この侍女は? 侍女であろうとも、これまでの若い女はみな、少しでも俺の記憶に残ろうと必死にアピールをしてきたのに)
若くして騎士団長となったアンドレイは侯爵家であり、社交界では婚約者を探している女性たちからの垂涎の的であった。そのため、身分違いであろうとも、あわよくばと動く侍女やメイドもいた。
しかし、サラはシルフィアと同様、腐を見守る伝道師となることを目指しており、壁か空気となることを目標としている。そのため、腐に関することであれば騎士団長に興味はあるが、アンドレイ自身に関わろうという気はまったくない。むしろ、存在を認識してほしくない。
それなのに、結果として印象に残ってしまったのだが、そのことをサラが知る由もなく。
アンドレイは初めて接するタイプの侍女に戸惑いながらも、なんとか気を取り直しながら訊ねた。
「城内へ移動するが、案内できる場所は限られているためすべてを見せることはできない。それでも、いいか?」
「はい、案内できる場所だけで十分ですので」
笑顔で答えるシルフィアにアンドレイが腹を括る。
(少し変わったところがあるが……ルーカスによって屋敷に監禁されていないか確認することが目的だ。案内をしながら、それとなく話を聞きだそう)
こうして騎士団長による騎士団の案内が始まった。
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