完・続·前世で聖女だった私、今は魔力0の無能令嬢と判定されたので自由(腐)を謳歌します 〜壁になり殿方の愛を見守るため、偽装婚約を頑張ります

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26 囚われのルーカス~副団長の苦労~

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 湿った空気が淀む王城の最下層。
 石積みの頑丈な造りの壁に鉄格子がはめられた部屋が並ぶ地下牢。最近は使われる機会が減ったが、戦争中は多数の罪人が詰め込まれ、場合によっては拷問も行われていた。
 できれば足を踏み入れたくない場所を鳶色の髪が颯爽と進んでいく。

「まったく、何をやっているんだい」

 地下牢の中でも最奥にある部屋。
 椅子も机もベッドもない。湿った床と壁だけの部屋で不機嫌顔で立つルーカスの姿に、魔導師団の副団長が呆れたように言った。
 ルーカスが黒髪を逆立て、バチバチと魔力を放出しているが、部屋全体に組み込まれた魔法陣が吸収していく。
 このまま地下牢を壊しかねない様相に副団長がなだめるように声をかけた。

「大人しくしていたら二~三日で出られるから。自分で勝手に出たら脱獄という罪状も増えて、おまえの大切な師匠にまで迷惑をかけるようになるよ」

 その言葉にルーカスから溢れていた魔力がシュンと沈む。

「おまえの屋敷には仕事で二~三日、帰れなくなったと伝えておく」
「……」

 その内容に、ピリッと空気が冷え、深紅の瞳が無言のまま射殺さんばかりに副団長を睨んだ。常人なら気絶するほどの威圧だが、副団長は平然と流しながらニッコリと笑みを浮かべる。

「それとも、不敬罪で地下牢に入れられたって伝えた方がいいかい?」

 その問いにルーカスがクッと短く唸り、目を伏せた。

「大切な師匠に余計な心配をかけたくないなら、大人しくしておくんだね。おまえが不在の間の屋敷は魔導師団で守ってあげるから」
「……わかった」

 ようやく納得したのかルーカスが不機嫌顔のまま床に座る。
 そのことに副団長が肩の力を抜いた。

「まったく。普段の言動を考えると、二~三日の投獄で済むことに感謝するところだからね」

 耳の痛い忠告にルーカスはプイッと顔を背けて再び無言となった。
 子どものように拗ねた部下に副団長が訊ねる。

「それにしても、今回はどうしたんだい? 不敬な態度はいつものことだけど、魔法に引っかからない程度に抑えていただろ?」

 だんまりを決め込んだルーカスに副団長が困ったように鳶色の髪をかいた。

「前世がどうであれ、大切な師匠はおまえの婚約者だ。誰かに横取りされるという心配はないんだから、もう少し余裕のある態度をするべきだと思うが?」

 その言葉にルーカスが顔を背けたまま答える。

「あいつはオレが聖女に恋愛感情を持っていたことに、まったく気づいてない。それどころか、第二王子の婚約者に恋愛感情をむける者などいないという傲りさえある。師匠の本当の姿も知らず、勝手に儚い聖女というイメージを作りあげ、保護が必要だと決めつけている。その態度が気に食わない」

 その説明に副団長は困ったように眉尻をさげて、ため息を吐いた。

「つまり、ライバルにも見られていない、眼中にない扱いをされていたことに腹を立てていたのか……図体はデカくなったのに、中身は子どものままだな」

 不貞腐れた部下を置いて踵を返す。

「とにかく、今回はそこで反省するように」

 釘を刺した副団長は魔導師団にある自分の執務室に戻った。

「まったく。これで少しは大人しくなればいいが」

 地下牢にいるルーカスと、ルーカスの屋敷の見張りを指示して仕事を始めた……のだが。



 翌日。
 魔法師団の副団長の執務室から悲鳴に似た大声が響いた。

「ルーカスの婚約者が行方不明だって!?」

 普段は穏和な副団長からは想像できない様子に報告をした部下が体を縮める。

「申し訳ありません。気が付いた時には姿がなく……痕跡もないので追えない状況です」
「まさか、魔導師団のカゲが監視している中で、そんなことが……ある意味、あいつが地下牢にいる時でよかった。今、わかっている情報をすべて報告してくれ」

 落ち着いてきた声音に部下が気を引き締める。

「異変に気が付いたのは今朝でした。朝になってもシルフィア嬢が自室から現れないため、室内を目視で確認したところ、どこにも姿がなかったということです」
「なぜ、もっと早く気が付かなかった?」
「それが、巧妙に細工をされていまして……ドアの外から声をかけると、自動的に返事をする魔道具が置かれており、そこにシルフィア嬢の魔力がこもった魔石もありましたので、魔力探知と声だけで自室に滞在していると判断しておりました」

 その報告に副団長が鳶色の髪をグシャグシャとかいた。

「あいつの師匠だと嫌でも感じる常識外れな細工だな。で、ルーカスの婚約者の姿を最後に確認したのは、いつだ?」
「屋敷の使用人たちの話によると、昨日の朝、食堂で食事をしたのが最後のようです。それからは自室で読書をすると言って部屋にこもったそうです。あと、午後から副団長の命令でカゲが屋敷を見張っておりましたので、その間に部屋に出入りした者もシルフィア嬢の姿も見ておりません」
「つまり午前中には屋敷を抜け出していた、ということか。ちなみに、屋敷の使用人たちの様子は?」
「まだ気づいておりませんが……」

 口ごもる部下に細い目がふむと頷く。

「気づかれるのも時間の問題ということか。もし、騒ぎ出して屋敷に仕掛けている魔法でルーカスが異変を感知したら……」

 脱獄による罪状の追加など気にせず地下牢を破壊して出て行く姿が容易に想像できる。そこから魔王のごとく暴れ回るルーカスを魔導師団が総動員して止めようとするが無残に散っていく。

 そんな光景が二人の脳裏に即座に浮かび、執務室に重い沈黙が落ちた。

 最悪な状況を回避するためにも副団長が命令をする。

「ルーカスの婚約者が行方不明なことを屋敷の者が気づかないように全力で偽装しろ。あと動ける魔導師団員すべてを集めてルーカスの婚約者の捜索をしろ」
「ハッ!」

 返事と同時に部下が姿を消す。

「なぜ、こんなことに……団長にも報告せねば」

 副団長が痛む頭とともに腰をあげたところで、先程とは別の部下が激しくドアを開けた。

「王弟が騎士団を率いて神殿へ向かっております!」
「なんで、そうなる!?」

 再び絶叫が響いた。


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