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28 この主にてこの侍女ありPart2
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結論として屋敷にシルフィアはいなかった。
休みだが忘れ物を取りに来た風を装って屋敷内を散策したサラが外で待機していたアンドレイに報告をした。
「お嬢様はいませんでした。メイド長には今日は部屋にこもって読書をすると話したそうで、みんなお嬢様が部屋にいると思っております」
「なら、どうして部屋にいないことがわかったんだ?」
「窓からお嬢様の部屋へ入りましたが、誰もいませんでした」
「それなら、他の使用人にもルーカスの婚約者が部屋にいないことがすぐに分かるだろ」
当然の意見にサラはチッチッチッと人差し指を顔の前で左右に振った。
「ドア越しに声をかけたら、お嬢様の声で返事がありますから普通は室内にいると思います。ドアには鍵がかけてありますので簡単には入れませんし、問題が起きなければ私のように窓から入ってまでお嬢様の存在を確認しません」
「ちょっと待て。なんで誰もいないのに部屋から返事があるんだ?」
その質問にサラが腰に手を当てると、小さな胸を張って得意げに答えた。
「そこがお嬢様の凄いところです。魔法で返事をするように仕掛けております」
「なっ!? そんな魔法、聞いたことないぞ!? あり得るのか!?」
「あり得るから今のような状況になっております」
平然と話すサラとは反対に、アンドレイが赤い髪をかきながら唸る。
「どや顔で言うことじゃないだろ。さすが大魔導師の婚約者だ。一筋縄ではいかないということか」
その言葉にサラが神妙な顔で頷く。
「はい。返事をする魔法があることを知っているのは私だけですから、本日中に気づくことはないと思います。ただ、明日の朝になってもお嬢様が出てこなければ……」
「さすがに他の使用人たちも気づくということか。まったく、あいつが謹慎中でよかった」
ポロリとこぼれた言葉にサラが喰いつく。
「大魔導師様が謹慎中なのですか!? どういうことです!?」
「あ……」
失言にしまったと目をそらすアンドレイ。
だが、それを許さないとばかりにサラが迫る。
「説明をしてください!」
「いや、その……王弟と謁見をしていた時に、その、不敬な態度があってな。二~三日の謹慎処分になったんだ。屋敷には仕事で二~三日帰れなくなったと連絡が行ったはずだ」
「そんな……大魔導師様が王弟様へ不敬な態度なんて……」
ショックとばかりによろめき視線をさげるサラ。
だが、その脳内は主と同様に腐っていた。
(身分差を超えて不敬な態度で王弟様へ迫る大魔導師様! しかも、かなりの年齢差の年下攻め! 身分差も年齢差も超越した愛! そして、あの外見……日々の激務に疲れたイケオジを癒す美青年……受けは酸いも甘いも知り尽くし、恋愛感情など枯れ果てていたはずなのに、若い攻めからの激しい愛によって忘れていた欲情に溺れていく! あぁ、なんて耽美な世界なのでしょう! これは同士に伝えて、新たな腐として広げなければ!)
油断すればニヤけそうになる顔に力を入れ、プルプルと小刻みに震えながらも根性で無表情を装う。
しかし、それがアンドレイの目にはショックを受けて泣き出しそうになっているのを堪えているように映り……
「だ、大丈夫だ。あいつが不敬な態度をするのはいつものことだし、今回は少し度が過ぎただけで、すぐに処罰は終わる」
「いつものこと、なのですか?」
耐えるような声とともに、そばかすの上にある大きな瞳がウルウルと見上げる。
その姿にアンドレイの庇護欲が一気に刺激され、グッと視線を逸らしつつ両手を握った。
「いつものことと言っても、その、悪い方向ではなく……だから、あいつの心配をすることはない」
「そうなのですね」
ホッとした様子で微笑むサラ。
だが、その脳内では妄想が続いていた。
(いつものことということは、それだけ親しい間柄であり、黙認されているということ! 王城の方々から黙認され、見守られているなんて、これほど喜ばしいことがありますでしょうか!?)
主と同等のレベルで妄想を爆発させ、歓喜の涙を堪える。
ただ、その姿がショックで涙を堪えているように見えたアンドレイにとって、サラの今にも泣きだしそうな表情が会心の一撃となって刺さる。
だが、それを無理やり引き抜き、蹴飛ばして話を続けた。
「と、とにかく、今はルーカスの婚約者を見つけなければ」
「そうですね。お嬢様を見つけなければ」
サラが拳を作り、赤茶色の髪を揺らしながら可愛らしくも力強く頷く。
その表情が、屋敷の主が謹慎となって衝撃を受けているはずなのに、それを隠して次へ進もうとする健気な侍女に見えたアンドレイ。その姿に先程、蹴飛ばしたはずの感情が全速力で戻ってきてアッパーカットを喰らわせてきた。
「グハッ!」
いきなり仰向けに倒れたアンドレイへサラが駆け寄る。
「騎士団長様!? いかがされました、騎士団長様!?」
こうして、様々なことがあったが、二人は神殿の前の広場に戻り、その間にもシルフィアが出てきていないことを確認。それからも、アンドレイは部下に神殿の内部を確認させながら、シルフィアが出てこないか見張っていたが、姿はないままだった。
休みだが忘れ物を取りに来た風を装って屋敷内を散策したサラが外で待機していたアンドレイに報告をした。
「お嬢様はいませんでした。メイド長には今日は部屋にこもって読書をすると話したそうで、みんなお嬢様が部屋にいると思っております」
「なら、どうして部屋にいないことがわかったんだ?」
「窓からお嬢様の部屋へ入りましたが、誰もいませんでした」
「それなら、他の使用人にもルーカスの婚約者が部屋にいないことがすぐに分かるだろ」
当然の意見にサラはチッチッチッと人差し指を顔の前で左右に振った。
「ドア越しに声をかけたら、お嬢様の声で返事がありますから普通は室内にいると思います。ドアには鍵がかけてありますので簡単には入れませんし、問題が起きなければ私のように窓から入ってまでお嬢様の存在を確認しません」
「ちょっと待て。なんで誰もいないのに部屋から返事があるんだ?」
その質問にサラが腰に手を当てると、小さな胸を張って得意げに答えた。
「そこがお嬢様の凄いところです。魔法で返事をするように仕掛けております」
「なっ!? そんな魔法、聞いたことないぞ!? あり得るのか!?」
「あり得るから今のような状況になっております」
平然と話すサラとは反対に、アンドレイが赤い髪をかきながら唸る。
「どや顔で言うことじゃないだろ。さすが大魔導師の婚約者だ。一筋縄ではいかないということか」
その言葉にサラが神妙な顔で頷く。
「はい。返事をする魔法があることを知っているのは私だけですから、本日中に気づくことはないと思います。ただ、明日の朝になってもお嬢様が出てこなければ……」
「さすがに他の使用人たちも気づくということか。まったく、あいつが謹慎中でよかった」
ポロリとこぼれた言葉にサラが喰いつく。
「大魔導師様が謹慎中なのですか!? どういうことです!?」
「あ……」
失言にしまったと目をそらすアンドレイ。
だが、それを許さないとばかりにサラが迫る。
「説明をしてください!」
「いや、その……王弟と謁見をしていた時に、その、不敬な態度があってな。二~三日の謹慎処分になったんだ。屋敷には仕事で二~三日帰れなくなったと連絡が行ったはずだ」
「そんな……大魔導師様が王弟様へ不敬な態度なんて……」
ショックとばかりによろめき視線をさげるサラ。
だが、その脳内は主と同様に腐っていた。
(身分差を超えて不敬な態度で王弟様へ迫る大魔導師様! しかも、かなりの年齢差の年下攻め! 身分差も年齢差も超越した愛! そして、あの外見……日々の激務に疲れたイケオジを癒す美青年……受けは酸いも甘いも知り尽くし、恋愛感情など枯れ果てていたはずなのに、若い攻めからの激しい愛によって忘れていた欲情に溺れていく! あぁ、なんて耽美な世界なのでしょう! これは同士に伝えて、新たな腐として広げなければ!)
油断すればニヤけそうになる顔に力を入れ、プルプルと小刻みに震えながらも根性で無表情を装う。
しかし、それがアンドレイの目にはショックを受けて泣き出しそうになっているのを堪えているように映り……
「だ、大丈夫だ。あいつが不敬な態度をするのはいつものことだし、今回は少し度が過ぎただけで、すぐに処罰は終わる」
「いつものこと、なのですか?」
耐えるような声とともに、そばかすの上にある大きな瞳がウルウルと見上げる。
その姿にアンドレイの庇護欲が一気に刺激され、グッと視線を逸らしつつ両手を握った。
「いつものことと言っても、その、悪い方向ではなく……だから、あいつの心配をすることはない」
「そうなのですね」
ホッとした様子で微笑むサラ。
だが、その脳内では妄想が続いていた。
(いつものことということは、それだけ親しい間柄であり、黙認されているということ! 王城の方々から黙認され、見守られているなんて、これほど喜ばしいことがありますでしょうか!?)
主と同等のレベルで妄想を爆発させ、歓喜の涙を堪える。
ただ、その姿がショックで涙を堪えているように見えたアンドレイにとって、サラの今にも泣きだしそうな表情が会心の一撃となって刺さる。
だが、それを無理やり引き抜き、蹴飛ばして話を続けた。
「と、とにかく、今はルーカスの婚約者を見つけなければ」
「そうですね。お嬢様を見つけなければ」
サラが拳を作り、赤茶色の髪を揺らしながら可愛らしくも力強く頷く。
その表情が、屋敷の主が謹慎となって衝撃を受けているはずなのに、それを隠して次へ進もうとする健気な侍女に見えたアンドレイ。その姿に先程、蹴飛ばしたはずの感情が全速力で戻ってきてアッパーカットを喰らわせてきた。
「グハッ!」
いきなり仰向けに倒れたアンドレイへサラが駆け寄る。
「騎士団長様!? いかがされました、騎士団長様!?」
こうして、様々なことがあったが、二人は神殿の前の広場に戻り、その間にもシルフィアが出てきていないことを確認。それからも、アンドレイは部下に神殿の内部を確認させながら、シルフィアが出てこないか見張っていたが、姿はないままだった。
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