完結•出来損ないの吸血鬼は希少種の黒狼に愛を囁かれる

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はじまりは侮辱から

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「陽を浴びて砂にならないなんて」
「しかも、血と薔薇以外のモノからも生気を吸い取るのでしょう?」
「なんて気持ち悪い」
「恥さらしめ」
「一族の出来損ないが」

 少年を囲む、見目麗しい容姿端麗な大人たち。だが、その口から出るのは罵りと蔑みと侮辱。

「おまえはその血を残すな。穢らわしい」

 一族の長からの命令。

 どんな罵倒にも耐えてきたが、これだけは我慢できなかった。

 優秀な血筋を絶やさぬこと。優秀な血を取り入れ、残していくことが誇りであり、存在意義でもある。それを否定されることは、死よりも耐え難い屈辱。

 だが、長の命は絶対で。

 少年は反論することもできず、銀髪をなびかせて屋敷を後にした。



 柔らかな日差しが差し込むサロン。
 お花畑のようにうら若き少女たちがお茶を嗜む。

「お聞きになりまして? 王女が近衛騎士と恋に落ちたらしいですわ」
「まぁ! 騎士とはいえ、身分が違いすぎでは?」
「ですが、恋は盲目と申しますし。陛下の言葉も届かないとか」
「それは大変」

 甘いお菓子とともに恋愛話で盛り上がる。
 貴族の中でも名家で有名な女子が集う、お茶会。見目麗しくも可愛らしい少女たち。その中の一人がずっと黙っている銀髪の少女へ声をかけた。

「ラミア様はどう思われます?」

 話を振られた少女が紅茶の思案するようにカップへ視線を落とす。
 光を弾く粉雪のような銀髪がサラリと流れ、長い睫毛に縁どられた儚い紫の瞳に儚さが漂う。白磁のように滑らかな肌は太陽の光で輝いて見えるほど。

「身分については難しいですが、一度は燃えるような恋に身を焦がしてみたいですわ」

 そう答えながら顔をあげて微笑む。
 妖精のような、今にも消えてしまいそうな美しさに、その場にいた少女たちが見惚れる。洗礼された仕草と容姿に、同性と分かっていても感嘆のため息がこぼれ落ちた。

 少女たちがうっとりとラミアを見つめる中、お茶会の主催者であるガーネットがハッと意識を戻す。
 黄金に輝く髪に、意思の強いキリッとした青い瞳。目鼻立ちもハッキリとしており、可愛いというより美人。しかも、この少女たちの中では一番聡明で中心的な存在。
 そんなガーネットが空気を変えるため話題を振った。

「そういえば、王城で開催されるパーティーに出席されます?」
「私は婚約者と一緒に出席する予定ですわ」
「その時期は領地に戻らないといけなくて……」
「私も先約がありまして」
「ラミア様は、いかがされますの?」

 訊ねられたラミアが困ったように首を傾げる。

「まだ迷っておりますの」
「でしたら、私とご一緒に出席しません? 婚約者が仕事で出席できませんの」
「まぁ。ガーネット様とご一緒に? ぜひ、出席させていただきますわ」

 そう嬉しそうに微笑めば周囲の少女たちが頬を赤らめて微かに俯く。

「領地へ戻るのは時期をずらせばいいですし、私も出席しようかしら」
「私も先約は日にちをずらせば……」

 予定を変える少女たちへラミアが表情を綻ばせる。

「まぁ。みなさんと社交界でお会いできるのが楽しみですわ」
「えぇ」

 にこやかに微笑む少女たち。
 その姿を見つめる紫の瞳が怪しく光ったことに誰も気づかなかった。


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