完結•出来損ないの吸血鬼は希少種の黒狼に愛を囁かれる

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美少女の正体

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 屋敷に戻ったラミアがヒールを脱ぎ捨て、ペタペタと大理石の廊下を歩いていく。
 そこに、パタパタと羽音をたてながら飛んできた蝙蝠がポンッという音とともにメイドになった。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 黒髪を一つにまとめた真面目そうな少女が頭をさげる……が、ラミアは無言のままメイドの前を通り抜けた。
 どこか不機嫌そうな表情で歩きながらイヤリングを外し、無造作に放り投げる。

「あー!」

 顔を青くしたメイドが床にイヤリングが落ちる前に慌ててキャッチした。

「もう! そこら辺に脱ぎ散らかさないでくださいって、何度も言っ……あ、また!」

 苦言が終わる前にネックレスが宙を舞う。キラキラと煌めく大きな宝石。床に落ちたら宝石が割れてしまう。

「えい!」

 どうにか空中でネックレスを捕まえて安堵するメイド。
 それを気にする様子なくラミアがドレスを留めている紐を外していく。バサリという音とともに、身にまとっていたドレスが空気を孕みながら床に落ちた。

 白い足が抜け殻となったドレスをまたいで進む。
 大きな足にキュッと絞まった細い足首。そこから伸びる形のよいふくらはぎ。その上には引き締まった太ももに、軽く割れた腹筋。薄くはないが厚くもない大胸筋に広すぎない肩。
 裸体となって現れたのはドレス姿からは想像もできない少年の体だった。

「あと、次の社交界用のドレスを手配してくれ。色は……そうだな、水色で。あと、装飾品アクセサリーは銀と紫だ。金や緑や青は外せ。自分の髪や目の色を僕が身に着けていると勘違いした男どもが群がってくる」

 ドレスをまとっていた時より数段低い声。清水のように澄んだ声が薄暗い屋敷に響く。

「それより、宝石を投げないでください! 壊れたら、どうするんですか!?」

 メイドの懇願をラミアが平然と聞き流す。

「壊れたと言えば、誰かが貢いでくる」
「もう! 今をときめく社交界の華であるラミア様が実は男でした、なんてバレたらどうするんですか?」

 プンプンと可愛らしく怒る声に、軽い声が返る。

「吸血鬼とバレるよりマシだろ」

 より優秀な血を探すため、優秀な人間が集まるという貴族の社交界へ。

 一族の長から血を残すなと、命じられたが、それより優秀な血を欲する本能の方が勝った。
 一族の土地から遠く離れた国で、最初は男の姿のまま貴族の社交界へ潜入した。だが、寄ってきたのは猫を被った女たち。甘く雌をアピールしてきたが、それでは本質が見えない。

 ならば同じ女の姿であれば、より深く相手のことを探れるのでは?

 そう考えたラミアは中性的であった顔を活かしてドレスをまとい、貴族のお茶会に紛れ込むようになった。

「より優秀な雌を見つけるためだ」
「決め顔で言われましても裸では、ちょっと……」

 メイドの指摘にラミアが額に手を当てて苦悩した表情を作る。

「はぁ……僕という素晴らしい存在にとって、服は余計なんだ。それが分からないとは、所詮は蝙蝠か」
「はい、はい。では、分かるモノに見てもらいましょう」

 呆れ混りにドレスを拾いながら言うと……

「わふ!」

 待ってました、と言わんばかりに奥から大きな犬が駆けてきた。

「なっ!? 来てたのか!? 結界はどうなった!?」
「所詮は蝙蝠ですから。結界の維持を忘れておりました」

 ツンとした返事にラミアが叫ぶ。

「絶対、ワザとだろ……って、やめろ! 舐めるな!」

 大きな犬が嬉しそうに前足をあげてラミアに飛びつく。
 踏ん張らないと一緒に倒れそうになるほどの巨体。立ち上がったらラミアと同じぐらいの身長がある。

 闇夜のように青みかかった黒い毛。触れればフワフワで素肌にも柔らかく馴染む。
 そこに浮かぶ、満月のように丸々とした金の目。ラミアしか見ておらず、大きく尻尾を振り、全身で喜びを表現している。

「最初の警戒心はどこにいった!?」

 出会いは裏庭。足を怪我して動けなくなっていた。
 手当をしようとすれば唸り声をあげ、近づけば噛む、とばかりに威嚇をしていた。
 それでも、根気強く話しかけながら、食べ物も毒はないと目の前で食べたものを与え、どうにか手当までこぎつけた。それから徐々に距離が縮まり、怪我が全快した今では、こうして全身で甘えてくるほど。

 ただ、どこかで飼われているのか、姿を消していることの方が多い。

 始めに姿を消した時、ラミアは「せいせいした」と虚栄を張っていたが、その落ち込み様は目に見えていて。どんな食事も受け付けず、メイドがこのままでは餓死する、と苦悩したほど。

 だが、犬は数日で姿を現した。

 そのことにラミアは安堵しつつも胸の前で腕を組んでツンと顔をそらした。

「し、心配なんてしてないぞ。ただ、せっかく助けたのに、そこら辺で野垂れ死なれたら意味がないからな」

 その言葉の意味を理解したのか、犬は数日おきに姿を見せるようになった。時間は夕方のことが多く、朝には夜露の香りを残したまま消えている。

 そんな経緯で親しくなった大きな犬が長い赤い舌でべろんべろんとラミアを舐める。それも、最初は顔だったのが、徐々にさがっていき……

「や、やめっ! どこを舐め……あっ、はっ、そこは……やめ、んぅ……」

 声がだんだん甘くなり……

「やめろぉぉぉぉお!」
「きゃぅぅん!」

 ドスの効いた声と犬の悲鳴が響いた。


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