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いくら男前でも、いくら精悍な顔でも、いくら美青年でも怖いものは怖い。
むしろ、あれだけ美形なのに笑うとあんなに怖い表情になるなんて反則だと思う。
私は浮上していく意識とともにそんなことを考えていた。
(そういえば、あのマクティーラって人。美形だけど、どこか声をかけずらいというか、張り詰めた感じがあったんだよね。そういえば、前にもあぁいう人っていたような……質問したいんだけど、冷徹な感じで近寄りがたくて。でも、思い切って声をかけたら気さくで分かりやすく教えてくれて……って、なんだろう? こんな記憶ないはずなのに、まるで経験したことがあるような……?)
モヤッとした感覚と一緒に目を開ける。
一定のリズムで揺れる体。全身を包む穏やかな温もりと、天日干ししたお布団のような匂い。
これで子守歌があったら即寝ていただろう……が、そういうわけにはいかない。
もう少し寝たい気持ちを踏みつけ、どうにか目をあける。
「きゅぅ……?」
(ここは……?)
きょろきょろと目だけで周囲を見た。
どうやら徒歩で移動しているらしく、景色がゆっくりと動いている。
ただ、私は歩いておらず逞しい腕に抱かれた状態。
しかも大事なものを扱うように両腕で優しく抱きかかえられ、服の上からでも分かる厚い胸板がすぐ隣にある。マントでほとんど隠れた紺色の服は丈夫な生地で作られており上等品っぽい。
(だ、抱っこされてる!? 誰に……?)
ドキドキしながら上を向くと、そこにはさっきの美青年がいた。ただ、今は最初に見た時と同じ無表情に近いので怖さはない。
「起きたか」
私の動きに気が付いたのか、前を向いていた藍色の瞳が淡々と見下ろす。
「ぷきゅ!?」
(ひゃっ!?)
先程の不気味な笑みを思い出して小さな悲鳴とともに全身が硬直する。
その瞬間、綺麗な眉がさがり藍色の瞳がしゅんとなった……ように見えた。まるで飼い主に怒られてしょんぼりした犬のような様相に私の胸がドキッとする。
(え……? いや、ちょっ、待って。こんなにカッコいいのに可愛いって……)
新たな扉が開きかけている気配を感じていると、隣からのんびりとした声がかかった。
「だから、ボクが運びますって。マクティーラ様に運ばれたら誰だって緊張しちゃいますよ」
その言葉に私を抱いている腕に少しだけ力が入る。
まるで誰にも渡さないという気持ちが籠っているような動きに心の柔らかいところがツンと刺激される。
そこに聞き覚えのない声がした。
「フィア、命が惜しければそれぐらいにしておきなさい」
声がした方へ視線を向けると、そこにはまた別の美形な人がいた。
背中まで伸びた焦げ茶色の髪を一つにまとめ、黄色の瞳に眼鏡をかけている。すべてを見通すような切れ長な目に白い肌は女性にも間違えられそうな美しさで、手足もスラリと長い。
三十歳前後ぐらいで、自然な落ち着きを兼ね備えた知的な美人という様相。
反論を許さないという空気だが、フィアは負けじと訊ねた。
「でも、イラール先輩もそう思うでしょ?」
「そこは反論しませんが、マクティーラが気に入っているんですから野暮な手出しは無用です」
「ちぇっ、ボクも抱っこしたかったのに」
どこか拗ねたように両手をあげて頭の後ろに置くフィア。
その様子にマクティーラの声が一段と低くなる。
「それが本音か」
威圧がこもった声に、栗色の髪が一瞬で逆立ち姿勢を正す。
「い、いや、だって、そのモフモフが気持ちよさそうで、どんな触り心地なのかなと、その……えっと……」
ジリジリと下がるフィアに対して、私を抱っこしたままのマクティーラが追い詰めるように近づいていく。
そこにイラールと呼ばれた青年が間に入った。
「二人ともそこまでにしてください。そこの村でこの赤ん坊の親を探すんでしょう?」
その話にマクティーラがふぅと息を吐いて私に視線を落とす。
「……そうだな」
黒い目を伏せてどこか名残惜しそうな表情になる。
(そんなに抱き心地が良いのかな? フィアって人に抱っこを代わるのを嫌がるぐらいだし、そうなのかも。っていうか、私だって抱きたかったのに! 私がアザラシになったら愛でられないし、触れないじゃない! いや、自分で自分を触ればワンチャン……)
そう考えて手を伸ばすけどペシペシという音がするだけ。触った感触がわからない。
「……きゅぅ」
(……虚しい)
マクティーラとともに私もしょぼんと落ち込む。
(どうして、こんなことに……まともに物も触れないし、一人で歩くこともできないなんて……いや、足がないんだから歩けるわけないし)
ここまで考えて私は最初にしようとしていた自分の行動の矛盾に気が付いた。
(そういえが、どうして私は体を起こそうとしていたの? アザラシの体なんて起こせるわけないし、歩くなんてもっと無理なのに……そもそも、私は何なの? 本当にアザラシなの……?)
どれだけ考えても答えは見つからない。でも、違和感だけは強くある。
黙って地面を見つめていると、フィアが補足するように話した。
「あんなところに赤ん坊が一人でいるわけないですし、この近くで人が住んでいる場所はここしかないですからね。この村の人なら知っているでしょう」
その内容に私は顔をあげて目的地を見た。
道沿いにポツポツと並ぶ民家。木と土壁を使った家だったり、レンガの家だったり、丸太を組んだ家だったり。さまざまな材質を使っているが、形は大体同じ。
あとは畑や家畜小屋のようなものがある。
(そういえば赤ん坊って、私のことだよね? 私って、今はアザラシだから……アザラシの親が村にいるの? え? アザラシって海にいるものじゃないの? 百歩譲っても水は必要だよね? でも、近くに川とか池とかなさそうだし……)
そう考えながら首を傾げているとフィアが片手をあげて走り出した。
むしろ、あれだけ美形なのに笑うとあんなに怖い表情になるなんて反則だと思う。
私は浮上していく意識とともにそんなことを考えていた。
(そういえば、あのマクティーラって人。美形だけど、どこか声をかけずらいというか、張り詰めた感じがあったんだよね。そういえば、前にもあぁいう人っていたような……質問したいんだけど、冷徹な感じで近寄りがたくて。でも、思い切って声をかけたら気さくで分かりやすく教えてくれて……って、なんだろう? こんな記憶ないはずなのに、まるで経験したことがあるような……?)
モヤッとした感覚と一緒に目を開ける。
一定のリズムで揺れる体。全身を包む穏やかな温もりと、天日干ししたお布団のような匂い。
これで子守歌があったら即寝ていただろう……が、そういうわけにはいかない。
もう少し寝たい気持ちを踏みつけ、どうにか目をあける。
「きゅぅ……?」
(ここは……?)
きょろきょろと目だけで周囲を見た。
どうやら徒歩で移動しているらしく、景色がゆっくりと動いている。
ただ、私は歩いておらず逞しい腕に抱かれた状態。
しかも大事なものを扱うように両腕で優しく抱きかかえられ、服の上からでも分かる厚い胸板がすぐ隣にある。マントでほとんど隠れた紺色の服は丈夫な生地で作られており上等品っぽい。
(だ、抱っこされてる!? 誰に……?)
ドキドキしながら上を向くと、そこにはさっきの美青年がいた。ただ、今は最初に見た時と同じ無表情に近いので怖さはない。
「起きたか」
私の動きに気が付いたのか、前を向いていた藍色の瞳が淡々と見下ろす。
「ぷきゅ!?」
(ひゃっ!?)
先程の不気味な笑みを思い出して小さな悲鳴とともに全身が硬直する。
その瞬間、綺麗な眉がさがり藍色の瞳がしゅんとなった……ように見えた。まるで飼い主に怒られてしょんぼりした犬のような様相に私の胸がドキッとする。
(え……? いや、ちょっ、待って。こんなにカッコいいのに可愛いって……)
新たな扉が開きかけている気配を感じていると、隣からのんびりとした声がかかった。
「だから、ボクが運びますって。マクティーラ様に運ばれたら誰だって緊張しちゃいますよ」
その言葉に私を抱いている腕に少しだけ力が入る。
まるで誰にも渡さないという気持ちが籠っているような動きに心の柔らかいところがツンと刺激される。
そこに聞き覚えのない声がした。
「フィア、命が惜しければそれぐらいにしておきなさい」
声がした方へ視線を向けると、そこにはまた別の美形な人がいた。
背中まで伸びた焦げ茶色の髪を一つにまとめ、黄色の瞳に眼鏡をかけている。すべてを見通すような切れ長な目に白い肌は女性にも間違えられそうな美しさで、手足もスラリと長い。
三十歳前後ぐらいで、自然な落ち着きを兼ね備えた知的な美人という様相。
反論を許さないという空気だが、フィアは負けじと訊ねた。
「でも、イラール先輩もそう思うでしょ?」
「そこは反論しませんが、マクティーラが気に入っているんですから野暮な手出しは無用です」
「ちぇっ、ボクも抱っこしたかったのに」
どこか拗ねたように両手をあげて頭の後ろに置くフィア。
その様子にマクティーラの声が一段と低くなる。
「それが本音か」
威圧がこもった声に、栗色の髪が一瞬で逆立ち姿勢を正す。
「い、いや、だって、そのモフモフが気持ちよさそうで、どんな触り心地なのかなと、その……えっと……」
ジリジリと下がるフィアに対して、私を抱っこしたままのマクティーラが追い詰めるように近づいていく。
そこにイラールと呼ばれた青年が間に入った。
「二人ともそこまでにしてください。そこの村でこの赤ん坊の親を探すんでしょう?」
その話にマクティーラがふぅと息を吐いて私に視線を落とす。
「……そうだな」
黒い目を伏せてどこか名残惜しそうな表情になる。
(そんなに抱き心地が良いのかな? フィアって人に抱っこを代わるのを嫌がるぐらいだし、そうなのかも。っていうか、私だって抱きたかったのに! 私がアザラシになったら愛でられないし、触れないじゃない! いや、自分で自分を触ればワンチャン……)
そう考えて手を伸ばすけどペシペシという音がするだけ。触った感触がわからない。
「……きゅぅ」
(……虚しい)
マクティーラとともに私もしょぼんと落ち込む。
(どうして、こんなことに……まともに物も触れないし、一人で歩くこともできないなんて……いや、足がないんだから歩けるわけないし)
ここまで考えて私は最初にしようとしていた自分の行動の矛盾に気が付いた。
(そういえが、どうして私は体を起こそうとしていたの? アザラシの体なんて起こせるわけないし、歩くなんてもっと無理なのに……そもそも、私は何なの? 本当にアザラシなの……?)
どれだけ考えても答えは見つからない。でも、違和感だけは強くある。
黙って地面を見つめていると、フィアが補足するように話した。
「あんなところに赤ん坊が一人でいるわけないですし、この近くで人が住んでいる場所はここしかないですからね。この村の人なら知っているでしょう」
その内容に私は顔をあげて目的地を見た。
道沿いにポツポツと並ぶ民家。木と土壁を使った家だったり、レンガの家だったり、丸太を組んだ家だったり。さまざまな材質を使っているが、形は大体同じ。
あとは畑や家畜小屋のようなものがある。
(そういえば赤ん坊って、私のことだよね? 私って、今はアザラシだから……アザラシの親が村にいるの? え? アザラシって海にいるものじゃないの? 百歩譲っても水は必要だよね? でも、近くに川とか池とかなさそうだし……)
そう考えながら首を傾げているとフィアが片手をあげて走り出した。
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