夏夜と死の怪談会

サトウ・レン

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インタールード

インタールード 2

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 きみ、って自分の都合の良いように物事を見る癖があるよね。
 夏の夜気を受けて、僕がふいに思い出したのは、朝里のそんな言葉だった。新倉さんの話が終わって小休止の時間に、僕は外の空気を浴びたい、と思って、部屋の前の外廊下にいた。もう暗く澱んだ景色がどこまでも広がっていて、どこか嫌な感じがする。新倉さんの話の締めくくりを聞いた時、僕はかつての恋人から欠点を指摘された記憶がよみがえってきて、新倉さんの話も相まって、思わず吐き気を覚えた。別に朝里も責めて言ったわけではなく、ちょっとした話の流れから出た言葉だったはずだ。だけど思いのほか頭に残っていて、いまも消えずにいる。

『信じられるものは、主観だらけの私の話だけなのに』
 新倉さんは、そう言った。

 彼らの話はどこまで信じればいいのだろう。いや明確に疑っているところはもちろんある。なのに否定しきれない、異様な迫力が彼らにはあった。新倉さんの話が終わったあと、次の話を誰がするかの順番決めがあり、話すのは相瀬さんになった。なんとなく場の空気を変えたくて、先に僕が話しても、と言ってみたのだが、いやお前はきょうの特別なゲストだから最後だよ、と神原に言われてしまった。なんだろう。その時、僕以外の全員が妙な顔をしていた。まるで僕が話すのを嫌がるような。

 相瀬さんの、
『みんなを信じ過ぎちゃだめ』
 という意味深なショートメッセージも気になる。あれ以降、別の言葉が彼女から届くわけでもない。僕は全員から試されているような感覚がある。彼女はいったい何を語るのだろう。占い師をしている、というのだから、その仕事の中で経験した恐怖譚だろうか。

 そんなことを考えていた時、足音が聞こえてきた。階段をのぼってくる足音だ。
 見知らぬ男だ。

 男が僕の前で立ち止まって、
「ここ俺の部屋の前なんだけど、きみは」
 と言った。

「佐藤と言います」
「佐藤……。あぁ、そうか、きみが。俺はここの家主の鈴木だよ」
 このひとが……鈴木さん。

 最初に思ったのが、イメージと違う、だった。だけどよくよく考えれば、イメージを形成する情報を僕はたいして与えられていなかったわけだから、鈴木さんがどんなひとだったとしても、同じ感情を抱いていたような気もする。

 なんとなくもっと上の世代を想像していたが、二十代前半くらいだろうか。大学生か予備校生のような雰囲気がある。ただこういう雰囲気の三十代の男もいないわけじゃない。そう考えると、年上の可能性もある。中肉中背で、失礼な表現ではあるが、どこにでもいそうな顔立ちだ。

「遅くなる、って聞いてましたが」
「あぁごめんごめん」と鈴木さんの口調はフランクで、軽薄な雰囲気だ。ただそれが、年上だからなのか、それとも元々の性格なのかは分からない。いやそもそも本当に年上なのか、まだ分からない。「もっと遅くなりそうかな、って思ってたんだけど、用が早めに済んだからね」

「用、って……」
 と言ってから、すこし後悔する。あまり聞かないほうが良かったかもしれない。聞くな、とかすかに鈴木さんが嫌そうな表情を浮かべたからだ。鈴木さんの顔はわずかに紅潮していて、そこにはどこか疲れがある。本当に何をしていたのだろう。不安が萌すのは、おそらく小野寺さんと新倉さんの話を聞いた後だから、かもしれない。

「まぁ用事はそのうち分かるし、ただまだこのタイミングで言うことじゃない」意味ありげに、鈴木さんが言った。「まぁ部屋に入ろうじゃないか。こんなところで男ふたりでだべっていても仕方ない」

 部屋に入ると、全員の視線が僕と鈴木さんが集まった。

「よぉ鈴木くん、おかえり。意外と早かったな」
 小野寺さんが嬉しそうに言った。僕以外はもうすでに顔見知り同士だ。あまり深くは考えていなかったが、彼らの中で、仲が良い、悪い、というのもあるだろう。小野寺さんの表情を見ていると、鈴木さんと彼は、仲が良いのかもしれない。

「えぇ、思ったよりも早く終わって良かったです」
「連絡した時にも言ったが、もう話は進めることにしたから」
 神原が言った。

「あぁもちろんいいよ。……で、誰が終わったんだ」
「んっ。終わったのは、小野寺さんと新倉さんで、いまから相瀬さんに話してもらおうと思ってるんだ」
「そっか、小野寺さんの話はたぶん、あれ、だろ」小野寺さんが頷くのを見て、鈴木さんが続ける。「新倉さんの話は、俺も全然知らないから、興味あったけどな。ちょっと残念だ」

「良かったら、今度、個人的に話しましょうか」
 新倉さんがほほ笑む。

「じゃあお願いしようかな。……で、次は相瀬さんなわけだ」
「えぇ」
 と相瀬さんがちいさく相槌を打つ。確証があるわけではないが、もしかしたら相瀬さんはすこし、鈴木さんに苦手意識を持っているのかもしれない。相瀬さんの表情を見て、そんな気がした。

「変わってもらってもいいですか?」
「別に構いませんよ」と言いながら、相瀬さんはすこし嫌な顔をした。このふたりは仲が悪いのだろうか。あまり相性の良さそうな感じがしない。「……でも、なんで、ですか」
「いや別に話の順番を奪いたいわけじゃないんですけど、ね。鉄は熱いうちに打て、って言うじゃないですか」
「意味が分からないです」
 ふたりの間に、わずかに険悪な空気が流れた。

「まぁまぁいいじゃないか」間に入ったのは、小野寺さんだ。「こう、このタイミングだからこそ話したい、って思うこともあるだろ」
「まぁ」

 ただ性格が合わないだけで、順番に対して不満があったわけではないのだろう。小野寺さんの言葉に、相瀬さんは依怙地になるわけでもなく、素直に引き下がる。

「よし、じゃあ俺の話だ」
 かすかに流れた険悪さに気付いた雰囲気もなく、鈴木さんが嬉しそうに笑った。

 そして僕の顔をじっと見つめる。
 また、だ。他を置いてけぼりにするように、なぜか彼らは僕を、今回の主役にしようとする。
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