25 / 27
終わる怪談会
終わる怪談会、いなくなる人々
しおりを挟む
神原の言葉をさえぎったのは、相瀬さんだった。
明かりがつき、視界がクリアになった状態で辺りを見回すと、六人が僕を見ながら、にやにや、としている。だけど、それは嫌な笑みではなかった。
「よし、これで俺の復讐は終了だ」
と笑ったのは、神原だった。そして僕は騙されていたのだ、と分かり、気の抜けたような声が出てしまった。僕以外の全員が笑っている。もちろんそんなものはないが、テレビ番組で、お笑い芸人さんが『ドッキリ大成功』と書いた板を持ってきて、現れそうな光景だ。
「嘘、って」
「そりゃあ、もちろん殺す気なんてないさ」
「復讐、って」
「それは本当さ。お前に復讐心を抱いたのは、間違いない。でもそれは殺すまでのことではなかった。それだけだ」
「どこまで本当だったんだ」
「SNSで知り合った、ってのは本当だよ。夢宮くんだけは、本当に本当は、近所の子どもだけど。事前に何度も打ち合わせを繰り返して、壮大なドッキリを仕掛けてやろう、って決めたんだ。そもそも何人もひとを集めて、ひとりの人間を殺す、って割に合わないからな」
割に合わない、というのは、神原の話を聞きながら、僕が実際に思っていたことでもある。秘密が守られにくくなるからだ。神原だけで僕を殺したほうが、絶対にばれにくい。ただ怯えさせたい、という一心だけで、自身の罪が露呈しやすくなる方法なんてとるだろうか、とは考えていた。
僕はほっとして、もしいま自分が座っていなくて立っていたならきっと、膝から崩れ落ちていただろう。殺されるわけなんてない、と信じていながらも、やっぱり不安だったのだ。
相瀬さんを見ると、彼女がウィンクをした。
『みんなを信じ過ぎちゃだめ』
あのメッセージは、このことを指していたのだろうか。
時計を見ると、もう時刻は十時を過ぎていた。
「じゃあ、俺は帰ろうかな」
と口を開いたのは、小野寺さんだ。彼の他のひとよりも、すこし大きな手は老婆の首を絞めたりはしていないわけだ。彼は車で来たらしい。夢宮くんに、家まで送ろうか、と言っている。夢宮くんは緊張したように、「お、お願いします」と言っている。こんな弱々しい雰囲気の子が、ストーカーになった挙句、同級生を殺した、というのも嘘なのだろう。よく考えれば、小野寺さんとは反対に、こんなちいさな手の持ち主が、どうやってふたりの子どもを殺せる、というのだろうか。
小野寺さんと夢宮くんが部屋を出て、僕たちは五人になった。たったふたりがいなくなっただけで、部屋が広々したように感じられる。
「じゃあ私も行こうかな」
と次に言ったのは、新倉さんだ。嘘と真実、という意味では、新倉さんは最後まで性別不詳のままだった。新倉さんの言葉を素直に受け取れば男性なのだろうが、このどこまでが嘘でどこまでが真実か分からない状態で、素直に受け取ってしまっていいのか、は分からない。まぁいいか。すくなくとも新倉さんは、男性の大事な部分を切り取ったうえに、殺人まで犯すように人間ではなかったのだから。その事実を知ることができただけでも、よしとしよう。
どうせもう会うことのないひとなのだから。
残りは四人になる。ひとりずつ物語から退場していくように。まるで、『そして誰もいなくなった』みたいだな、と思った。まぁあの物語、と違って、こっちは誰も死んでないわけだけど。……いや本当にそうなのだろうか。本当にこの物語に、死者は存在していないと言えるのだろうか。
「さて、じゃあ次は私の番かな」
相瀬さんだ。その言葉を聞いて、僕は残念な気持ちになった。神原の話を聞く前、一緒に帰ろう、なんて話をしてたのに。やっぱりあれも彼女の演技のひとつだったのだろうか。相瀬さんは、死にきれなかったひとにとどめを刺した、という話をしてくれた。母親を殺してくれたひと。あの話が嘘だったのなら、そもそも母親はまだ存命なんて可能性もあるかもしれない。
「どうしたの、どんどんひとが減っていって寂しい?」
と相瀬さんが、僕に言う。
「あっ、いやそんなわけじゃ」
意味ありげな笑みを残して、彼女は部屋から出て行った。
「で、ふたりはどうするの? 別に泊まっていってもいいけど、ここに幽霊が出るのは、嘘でもなんでもないぜ」
残りが三人になったところで、鈴木くんに聞かれた。馴れ馴れしい口調はそのままで、あれは演技でもなんでもなかったのだろう。彼は途中参加だった。さっきひとを殺してきたばっかり、という話をしていた。実際は遅れてきたこと自体が演出だったみたいだ。しかし自分の部屋を気軽に貸せる防犯意識のなさや言葉の乱暴さ。彼は演技の部分を差し引いても、問題のある人間なんだろうな、とは思う。カツアゲなんかは本当かもしれない。
そして僕たちふたりが部屋から出ると、冷たく鍵の閉まる音が聞こえた。用が済んだら、さっさと帰れ、という気持ちの表れのように。
アパートの前、街灯の下で、神原が大きく伸びをした。
「悪かったな」
と神原が言う。
「いまさらそんなこと言うのか」
僕は思わず笑ってしまった。
「この復讐を持って、俺はいままでの件をすべて水に流すんだ」
「勝手だな。逆恨みを向けられて、僕はまだ恨んでるぞ」
「まぁそう言うな、って。お前と久し振りに会いたいな、って思ったのは、本当なんだ」
「まぁ僕も久し振りに会えて、嬉しいけど」
でももうちょっと別の方法で、別の日に、一対一で会ってくれたら、という気持ちのほうが強い。こんな形でなければ、また彼と新たな関係を構築することができたかもしれないが、いまの僕にそんな気持ちはない。彼と今後会うことは、二度とないだろう。
灯りの周りを羽虫が飛び交っている。
「なぁ」
「んっ」
「いつか飲まないか。酒でも」
「僕と?」
「そうだな……朝里とお前と俺の三人で」
「あぁ、そうだな。いつか行こうか。三人で」
と僕は嘘をつく。
「まだ付き合ってるんだろ?」
「どうかな」
「何だよその言い方」
「微妙な関係なんだ」
きょう、僕のもとから、朝里は離れていった。だけどそれを神原に伝える気にはなれなかった。
神原と別れて、朝里のことを考えながら、僕が駅へ向かって歩いていると、後ろから声がした。
「勝手に帰らないで。一緒に帰るんでしょ」
振り返ると、相瀬さんがいた。
明かりがつき、視界がクリアになった状態で辺りを見回すと、六人が僕を見ながら、にやにや、としている。だけど、それは嫌な笑みではなかった。
「よし、これで俺の復讐は終了だ」
と笑ったのは、神原だった。そして僕は騙されていたのだ、と分かり、気の抜けたような声が出てしまった。僕以外の全員が笑っている。もちろんそんなものはないが、テレビ番組で、お笑い芸人さんが『ドッキリ大成功』と書いた板を持ってきて、現れそうな光景だ。
「嘘、って」
「そりゃあ、もちろん殺す気なんてないさ」
「復讐、って」
「それは本当さ。お前に復讐心を抱いたのは、間違いない。でもそれは殺すまでのことではなかった。それだけだ」
「どこまで本当だったんだ」
「SNSで知り合った、ってのは本当だよ。夢宮くんだけは、本当に本当は、近所の子どもだけど。事前に何度も打ち合わせを繰り返して、壮大なドッキリを仕掛けてやろう、って決めたんだ。そもそも何人もひとを集めて、ひとりの人間を殺す、って割に合わないからな」
割に合わない、というのは、神原の話を聞きながら、僕が実際に思っていたことでもある。秘密が守られにくくなるからだ。神原だけで僕を殺したほうが、絶対にばれにくい。ただ怯えさせたい、という一心だけで、自身の罪が露呈しやすくなる方法なんてとるだろうか、とは考えていた。
僕はほっとして、もしいま自分が座っていなくて立っていたならきっと、膝から崩れ落ちていただろう。殺されるわけなんてない、と信じていながらも、やっぱり不安だったのだ。
相瀬さんを見ると、彼女がウィンクをした。
『みんなを信じ過ぎちゃだめ』
あのメッセージは、このことを指していたのだろうか。
時計を見ると、もう時刻は十時を過ぎていた。
「じゃあ、俺は帰ろうかな」
と口を開いたのは、小野寺さんだ。彼の他のひとよりも、すこし大きな手は老婆の首を絞めたりはしていないわけだ。彼は車で来たらしい。夢宮くんに、家まで送ろうか、と言っている。夢宮くんは緊張したように、「お、お願いします」と言っている。こんな弱々しい雰囲気の子が、ストーカーになった挙句、同級生を殺した、というのも嘘なのだろう。よく考えれば、小野寺さんとは反対に、こんなちいさな手の持ち主が、どうやってふたりの子どもを殺せる、というのだろうか。
小野寺さんと夢宮くんが部屋を出て、僕たちは五人になった。たったふたりがいなくなっただけで、部屋が広々したように感じられる。
「じゃあ私も行こうかな」
と次に言ったのは、新倉さんだ。嘘と真実、という意味では、新倉さんは最後まで性別不詳のままだった。新倉さんの言葉を素直に受け取れば男性なのだろうが、このどこまでが嘘でどこまでが真実か分からない状態で、素直に受け取ってしまっていいのか、は分からない。まぁいいか。すくなくとも新倉さんは、男性の大事な部分を切り取ったうえに、殺人まで犯すように人間ではなかったのだから。その事実を知ることができただけでも、よしとしよう。
どうせもう会うことのないひとなのだから。
残りは四人になる。ひとりずつ物語から退場していくように。まるで、『そして誰もいなくなった』みたいだな、と思った。まぁあの物語、と違って、こっちは誰も死んでないわけだけど。……いや本当にそうなのだろうか。本当にこの物語に、死者は存在していないと言えるのだろうか。
「さて、じゃあ次は私の番かな」
相瀬さんだ。その言葉を聞いて、僕は残念な気持ちになった。神原の話を聞く前、一緒に帰ろう、なんて話をしてたのに。やっぱりあれも彼女の演技のひとつだったのだろうか。相瀬さんは、死にきれなかったひとにとどめを刺した、という話をしてくれた。母親を殺してくれたひと。あの話が嘘だったのなら、そもそも母親はまだ存命なんて可能性もあるかもしれない。
「どうしたの、どんどんひとが減っていって寂しい?」
と相瀬さんが、僕に言う。
「あっ、いやそんなわけじゃ」
意味ありげな笑みを残して、彼女は部屋から出て行った。
「で、ふたりはどうするの? 別に泊まっていってもいいけど、ここに幽霊が出るのは、嘘でもなんでもないぜ」
残りが三人になったところで、鈴木くんに聞かれた。馴れ馴れしい口調はそのままで、あれは演技でもなんでもなかったのだろう。彼は途中参加だった。さっきひとを殺してきたばっかり、という話をしていた。実際は遅れてきたこと自体が演出だったみたいだ。しかし自分の部屋を気軽に貸せる防犯意識のなさや言葉の乱暴さ。彼は演技の部分を差し引いても、問題のある人間なんだろうな、とは思う。カツアゲなんかは本当かもしれない。
そして僕たちふたりが部屋から出ると、冷たく鍵の閉まる音が聞こえた。用が済んだら、さっさと帰れ、という気持ちの表れのように。
アパートの前、街灯の下で、神原が大きく伸びをした。
「悪かったな」
と神原が言う。
「いまさらそんなこと言うのか」
僕は思わず笑ってしまった。
「この復讐を持って、俺はいままでの件をすべて水に流すんだ」
「勝手だな。逆恨みを向けられて、僕はまだ恨んでるぞ」
「まぁそう言うな、って。お前と久し振りに会いたいな、って思ったのは、本当なんだ」
「まぁ僕も久し振りに会えて、嬉しいけど」
でももうちょっと別の方法で、別の日に、一対一で会ってくれたら、という気持ちのほうが強い。こんな形でなければ、また彼と新たな関係を構築することができたかもしれないが、いまの僕にそんな気持ちはない。彼と今後会うことは、二度とないだろう。
灯りの周りを羽虫が飛び交っている。
「なぁ」
「んっ」
「いつか飲まないか。酒でも」
「僕と?」
「そうだな……朝里とお前と俺の三人で」
「あぁ、そうだな。いつか行こうか。三人で」
と僕は嘘をつく。
「まだ付き合ってるんだろ?」
「どうかな」
「何だよその言い方」
「微妙な関係なんだ」
きょう、僕のもとから、朝里は離れていった。だけどそれを神原に伝える気にはなれなかった。
神原と別れて、朝里のことを考えながら、僕が駅へ向かって歩いていると、後ろから声がした。
「勝手に帰らないで。一緒に帰るんでしょ」
振り返ると、相瀬さんがいた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる