夏夜と死の怪談会

サトウ・レン

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終わる怪談会

終わる怪談会、いなくなる人々

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 神原の言葉をさえぎったのは、相瀬さんだった。

 明かりがつき、視界がクリアになった状態で辺りを見回すと、六人が僕を見ながら、にやにや、としている。だけど、それは嫌な笑みではなかった。

「よし、これで俺の復讐は終了だ」
 と笑ったのは、神原だった。そして僕は騙されていたのだ、と分かり、気の抜けたような声が出てしまった。僕以外の全員が笑っている。もちろんそんなものはないが、テレビ番組で、お笑い芸人さんが『ドッキリ大成功』と書いた板を持ってきて、現れそうな光景だ。

「嘘、って」
「そりゃあ、もちろん殺す気なんてないさ」
「復讐、って」
「それは本当さ。お前に復讐心を抱いたのは、間違いない。でもそれは殺すまでのことではなかった。それだけだ」
「どこまで本当だったんだ」
「SNSで知り合った、ってのは本当だよ。夢宮くんだけは、本当に本当は、近所の子どもだけど。事前に何度も打ち合わせを繰り返して、壮大なドッキリを仕掛けてやろう、って決めたんだ。そもそも何人もひとを集めて、ひとりの人間を殺す、って割に合わないからな」

 割に合わない、というのは、神原の話を聞きながら、僕が実際に思っていたことでもある。秘密が守られにくくなるからだ。神原だけで僕を殺したほうが、絶対にばれにくい。ただ怯えさせたい、という一心だけで、自身の罪が露呈しやすくなる方法なんてとるだろうか、とは考えていた。

 僕はほっとして、もしいま自分が座っていなくて立っていたならきっと、膝から崩れ落ちていただろう。殺されるわけなんてない、と信じていながらも、やっぱり不安だったのだ。

 相瀬さんを見ると、彼女がウィンクをした。
『みんなを信じ過ぎちゃだめ』
 あのメッセージは、このことを指していたのだろうか。

 時計を見ると、もう時刻は十時を過ぎていた。

「じゃあ、俺は帰ろうかな」
 と口を開いたのは、小野寺さんだ。彼の他のひとよりも、すこし大きな手は老婆の首を絞めたりはしていないわけだ。彼は車で来たらしい。夢宮くんに、家まで送ろうか、と言っている。夢宮くんは緊張したように、「お、お願いします」と言っている。こんな弱々しい雰囲気の子が、ストーカーになった挙句、同級生を殺した、というのも嘘なのだろう。よく考えれば、小野寺さんとは反対に、こんなちいさな手の持ち主が、どうやってふたりの子どもを殺せる、というのだろうか。

 小野寺さんと夢宮くんが部屋を出て、僕たちは五人になった。たったふたりがいなくなっただけで、部屋が広々したように感じられる。

「じゃあ私も行こうかな」
 と次に言ったのは、新倉さんだ。嘘と真実、という意味では、新倉さんは最後まで性別不詳のままだった。新倉さんの言葉を素直に受け取れば男性なのだろうが、このどこまでが嘘でどこまでが真実か分からない状態で、素直に受け取ってしまっていいのか、は分からない。まぁいいか。すくなくとも新倉さんは、男性の大事な部分を切り取ったうえに、殺人まで犯すように人間ではなかったのだから。その事実を知ることができただけでも、よしとしよう。

 どうせもう会うことのないひとなのだから。

 残りは四人になる。ひとりずつ物語から退場していくように。まるで、『そして誰もいなくなった』みたいだな、と思った。まぁあの物語、と違って、こっちは誰も死んでないわけだけど。……いや本当にそうなのだろうか。本当にこの物語に、死者は存在していないと言えるのだろうか。

「さて、じゃあ次は私の番かな」
 相瀬さんだ。その言葉を聞いて、僕は残念な気持ちになった。神原の話を聞く前、一緒に帰ろう、なんて話をしてたのに。やっぱりあれも彼女の演技のひとつだったのだろうか。相瀬さんは、死にきれなかったひとにとどめを刺した、という話をしてくれた。母親を殺してくれたひと。あの話が嘘だったのなら、そもそも母親はまだ存命なんて可能性もあるかもしれない。

「どうしたの、どんどんひとが減っていって寂しい?」
 と相瀬さんが、僕に言う。

「あっ、いやそんなわけじゃ」
 意味ありげな笑みを残して、彼女は部屋から出て行った。

「で、ふたりはどうするの? 別に泊まっていってもいいけど、ここに幽霊が出るのは、嘘でもなんでもないぜ」
 残りが三人になったところで、鈴木くんに聞かれた。馴れ馴れしい口調はそのままで、あれは演技でもなんでもなかったのだろう。彼は途中参加だった。さっきひとを殺してきたばっかり、という話をしていた。実際は遅れてきたこと自体が演出だったみたいだ。しかし自分の部屋を気軽に貸せる防犯意識のなさや言葉の乱暴さ。彼は演技の部分を差し引いても、問題のある人間なんだろうな、とは思う。カツアゲなんかは本当かもしれない。

 そして僕たちふたりが部屋から出ると、冷たく鍵の閉まる音が聞こえた。用が済んだら、さっさと帰れ、という気持ちの表れのように。

 アパートの前、街灯の下で、神原が大きく伸びをした。

「悪かったな」
 と神原が言う。

「いまさらそんなこと言うのか」
 僕は思わず笑ってしまった。

「この復讐を持って、俺はいままでの件をすべて水に流すんだ」
「勝手だな。逆恨みを向けられて、僕はまだ恨んでるぞ」
「まぁそう言うな、って。お前と久し振りに会いたいな、って思ったのは、本当なんだ」
「まぁ僕も久し振りに会えて、嬉しいけど」
 でももうちょっと別の方法で、別の日に、一対一で会ってくれたら、という気持ちのほうが強い。こんな形でなければ、また彼と新たな関係を構築することができたかもしれないが、いまの僕にそんな気持ちはない。彼と今後会うことは、二度とないだろう。

 灯りの周りを羽虫が飛び交っている。

「なぁ」
「んっ」
「いつか飲まないか。酒でも」
「僕と?」
「そうだな……朝里とお前と俺の三人で」
「あぁ、そうだな。いつか行こうか。三人で」
 と僕は嘘をつく。

「まだ付き合ってるんだろ?」
「どうかな」
「何だよその言い方」
「微妙な関係なんだ」

 きょう、僕のもとから、朝里は離れていった。だけどそれを神原に伝える気にはなれなかった。

 神原と別れて、朝里のことを考えながら、僕が駅へ向かって歩いていると、後ろから声がした。

「勝手に帰らないで。一緒に帰るんでしょ」
 振り返ると、相瀬さんがいた。
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