フレンド0人が戦国転移した結果

デンデンムシ

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国の足腰、国の基礎

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 「入れ。楽にしてほしい」

 妻鳥様は男装は男装だが、付け髭や烏帽子を脱ぎ、素顔のままだった。別にイヤらしい目ではなく、純粋に綺麗だと思う。

 「どうされましたか?」

 「いや、私の本来の姿を見て幻滅したかと思ってな」

 「幻滅?何故ですか?」

 「いや、こんな醜女の配下と思うのは嫌だろう?」

 「そんな事何も思いませんよ。寧ろオレは静樹に次いで、綺麗な方だと思います。社交辞令ではなく本心です」

 「嘘でもそう言われると嬉しい。そんな事、男に言われるのは父以来だ」

 「嘘ではないのですが。今後も男装はされるのですか?」

 「いや、もうどうでもよくなってきた。国人衆等は来なかった。つまりは私に従う事を良しとせぬのだろう。そこはもう良い。三好と決戦となり、劣勢だろうと城主の責任は取る。だからどうか、山岡……私に力を貸してくれ」

 「当たり前です。寧ろ三好撃退は既定路線ですよ。オレの中では。既にどう戦うか考えております」

 「ふっ。勇ましい事だ。いや、呼んだのは他でもない。これを山岡に渡しておこうと思ってな。先の宮中に出入りしていた頃に、宮中のとある女房様に頂いたのだ。私が大切にしていた物だ。山岡は私より髪が長い。妻の静樹に贈り物としても良い。貰ってくれるか?」

 「これは……黒檀の櫛ではございませんか!?かなり貴重な物と……」

 大袈裟に言ってるのはわざとだ。現代を知ってるオレからすれば櫛なんて……と思うが、流石にそんな冷たい反応はしない。寧ろ、嬉しい。気持ちは物の価値では計り知れないからな。

 「良い。私には必要のない物だ。今渡せる物はそれしかない」

 「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

 「うむ。それと山岡には伝えておく。私の本当の名だ。私は妻鳥友(ゆう)と申す。教えておく意味はあまりないかもしれないが、一応覚えておいてくれ」

 「素晴らしい名前だと思います。お教えいただきありがとうございます」

 「構わん。明日も忙しいのであろう?静樹と同部屋を用意している。今宵はゆるりと城で休んでほしい」

 妻鳥様はそう言うと、決意した顔になった。

 それからオレは更に励む。静樹も助六もだ。個々の時間なんてない。静樹と助六、領民の賦役。十日が経ち、やっと長屋が出来上がった。
 その後も変わらず、賦役を行う。賦役に集まってくれる人達には変わらず50文、最初に集まってくれた人には70文渡している。あれ程あったお金も雑費なんかも合わせると、残り300貫程となった。

 静樹達に今行ってもらっているのは、海周辺の区画の町屋だ。ここも急ピッチに開発している。荷揚げの人達一人一人に、幅8m、奥行き30mの作業小屋を用意した。
 この時代の小舟も、入れようと思えば2隻は入る。荷揚げの人は、何も無い時は漁師をしてる人ばかりだから、取れた魚を売るように持ちかけたのだ。
 奥さんが居る人は奥さんが売っても良い。とにかく物々交換はやらない事。必ず銭での支払いをする事を厳命し、その銭がないならオレに言ってくれば取れた魚を銭で買い取ると。オレが居ない時は、城方の者に言えば妻鳥様が銭で買い上げるという事も約束した。

 とにかく今は銭を市場に流す事。他にも並行して塩も作る事にした。この人員は下々田の人達だ。もちろん銭を出しての仕事だ。

 塩作りと聞いて、下々田の者たちは最初、釜の用意を始めようとした。だが、オレは首を横に振る。

 「まだ火は使わない。まず砂だ。オレのいう通りにすれば、常識を覆す結果が付いてくる」

 まずは、浜を均し、海水を撒かせる。それだけだ。敢えて理由は説明しない。説明しても分からないからな。

 数日もすると、砂が白く乾き始めた。それを集め、水を通す。落ちてきた潮は、誰が見ても“濃い”と分かる代物だった。

 そこでようやく、釜に火を入れさせる。薪は少なく、火も弱い。

 ――それでも、塩は取れた。

 量を見て、下々田の者たちは言葉を失っていた。
 釜も壊れていない。薪も、思ったほど減っていない。

 「……なるほどな」

 いつの間にか様子を見に来ていた妻鳥様が、静かに呟いた。

 「この塩を俺達が作ったのですか!?」

 「あぁ。短時間でこれくらいは取れる。まぁ、たまたま天候が良かったってのもあるが、雨の日は、砂を集め、筵で覆うこと。
 とりあえず、まずは言われた通りやってほしい。慣れると理論も教える。そしてこのやり方をお前達で次世代に繋げるんだ」

 今はまだ小さい成功だ。だが、これは確実に国の足腰になる。

 季節は水無月となった。梅雨に入り、ようやく少し余裕ができ、本命に取り掛かる。静樹と楓とオレの炉造りだ。

 炉を作ると言った時、賦役に集まっていた者たちは首を傾げた。

 この時代の鍛冶炉といえば、石を積んで、地面の上にどんと構えるものだ。少なくとも、この辺りの野良鍛冶師はそうだった。

 作業が始まると、川之江の野良鍛冶の人達も集まり出した。

 オレは、場所を少し掘らせた。

 「……掘るんですか?」

 「半分でいい。深くしすぎるな」

 理由は言わない。言ったところで今はまだ分からないからだ。理論は大切だが、先に実演した方が早い。無駄な事は言わずに、的確に命令するだけだ。

 賦役の者たちは、鍬と鋤で土を掘り下げ、静樹が引いた縄の内側に合わせて形を整えていく。

 「尊様!炉床はこの位置で合ってますか?」

 「ああ。そこから先は箱だ。角は丸めるように!」

 静樹は頷き、木札に何かを書き足した。横で見ていた助六は、偉そうに知った顔で感心したように唸る。

 「……寸法が細かいですな」

 「渋い顔してるが、念の為に聞くけど分かっているのか?」

 「いえ。まったく」

 「(スパコンッ)ならそんな顔するな!知ってるんだぞ!最近、オレの領地の未亡人にお前が人気なのを!何で助六が人気なんだよ!」

 「そ、そう言われましても……」

 「まぁ良い。領民には優しくしておけ。この作業が終われば、やっと兵隊訓練に入れる。頼んだぞ。おい!その!大きくするな。小さく、だ。火は暴れさせるな!」

 助六の人気はおいといて、炉の方だ。灰と粘土を混ぜた土を、賦役の者たちが叩き固める。
 手は泥だらけ、汗だく。それでも誰一人、手を抜かない。特性のおかげというのもあるだろう。

 そして、静樹が設計した通り、炉床は二段になった。

 上は鉄を置くための作業床。下には、炭粉と灰を敷き詰める。

 「……これ、意味あるの!?こんなの堺でもないよ!」

 楓がそう呟いたが、静樹は首を横に振った。

 「意味はあります。後で分かりますよ。この炉が楓様の炉になるのですよ」

 送風口は一本だけ。余計な穴は開けない。

 鞴の位置も静樹が決めた。踏み込みの強さが分かるよう、踏み板に刻みまで付けている。

 「踏み過ぎるな、ここまでだ!」

 「……ねぇ!?こんな目印、見たことないよ!?」

 そう言いながらも、楓は文句も言わず従った。経験者だから、これがガラクタを集めた炉じゃないというのが分かるんだろう。

 炉は二基。一つは加熱用、もう一つは仕上げ用だ。

 ここまで来て、ようやく楓が炉の前に立った。

 「・・・・・」

 楓は何も言わない。
 ただ、炉の中を一瞥し、炭を入れ、鞴に足を掛けた。

 一踏み。

 炭が、揃って鳴いた。

 「これは……」

 それだけ言って、鉄を入れる。

 赤くなり、橙へ移り、白に近づく。
 早い。明らかに早い。

 「静樹?薪まだこんなもんか?」

 「はい!十分ですよ!」

 実物はオレも初めてだから不安はあったが、間違いないみたいだ。

 「ねぇ!?薪が減ってないんだけど!?この炉、凄くない!?」

 「だろ?静樹が設計したものだ。間違いはないはずだ。燃費も良く、少量で鉄がたくさん作れる」

 楓は無言で頷き、鉄を取り出す。叩く音が、乾いている。

 その様子を、ここでも少し離れた場所で妻鳥様が見ていた。

 「見た事のない技術だ。上方では斯くも違うのか?」

 ぽつりと漏れたその一言で、これがいかに凄い炉かと自分でも分かった。

 剣を作るための炉じゃない。腕のある鍛冶を、確実に育てるための炉。

 賦役の者たちは理由も分からぬまま、言われた通り作らされ、楓に、オレに、静樹に、そして城主の妻鳥様に褒められ喜んでいた。

 皆が一丸となり、だが確かに、国の基礎になる物が今、出来上がっていた。
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