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第二幕

ハルクへの帰還

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セラはテン王様と馬を連ね、途中から合流した多くの護衛に囲まれて王都リガードへと急ぎ向かった。
帰路の途中で、セラはテン王様から淡々と戦争の状況について告げられた。

アリセナ国からの兵が一方的にクルート国への攻め込み、二国の国境沿いのあちこちで戦火が繰り広げられているようだった。
テン王様はセラに、二国間の戦争に対する考えや今後の方針などは一切話さなかった。
セラはこの先の自分の処遇を含めた肝心なことを、テン王様はきっとハルクに着いてから自分に告げるのだろうと思っていた。


一週間して、セラ達は王都ハルクに帰還した。
セラは着いて早々、先に到着していた護衛達に迎えられた。

皆セラが無事に帰還したことを安堵していたが、そこにレイの姿がないこと疑問視していた。

「セラ様、ご無事で何よりです。レイは無事なんですか?」

護衛の中でも特にレオは、ずっとレイの身を案じていた。
セラは正直に、レイをエルベラに置いてきてしまったことを皆に伝えた。
レオはその話を聞くなり両手を握り締めて叫んだ。

「セラ様、レイにその程度の想いだったんですか…!」
「レオ!」

シェリーが亡き今エルベラにはいられず彷徨っているだろうレイの姿を想像し、レオはセラに対して酷く憤怒した。
身を乗り出し掴みかかろうとする勢いのレオをロクは横に入り全力で止めた。

「レオ、セラの前で無礼なことをするな。二人の決別は、互いが決断したことだろう。お前が文句を言う権利はない。」

ロクの言葉で徐々に頭が冷えたレオは唇を噛みしめて俯き、小さな声で呟いた。

「諦めなければよかった…。」

レオは断腸の思いで初恋を諦め、レイを愛する信頼できるセラに託していた。
そのままレオは怒りを蹴散らしながら、その場を去って行ってしまった。


「私はセラはレイを王都に連れてこないと思っていたわ。セラにもセラの考えがあるのでしょう。でもレイもこのままセラを諦めるとは思えないわ。」

フィンはそう呟き、セラは静かに俯き頷いた。
ロクは冷静な声かけができるようになった片割れの頭をワシャワシャと撫でた。

「ちょっとやめてよ…!子供じゃないんだから!」
「いや大人になったなぁと思ってさ。」
「子供扱いしてるじゃない。」
「俺にとってはいつまでもフィンは子供だよ。」
「いや、私達そんなに歳も変わらないでしょ。」

フィンはロクが自分の頭を撫でる腕を掴み、強く振り払って睨み返した。
二人はいつまでも終わらないだろう口喧嘩をしていた。
その姿を後ろで眺めていたゼロは誰にも気付かれないように笑っていた。

そんなレオは除く仲の良い仲間達の姿を背に、セラは自室へと向かった。
セラはレオの言葉が胸に刺さっており、内心落ち込んでいた。

レイを不安定な状況のまま置いていくことはいけないことだったのだろう。
自分が一番欲しかったものを置いてくるほど大切なものをこんな自分が守れるのだろうかと、セラは自信がなかった。

しかしセラが悩み落ち込んでいる時間はなかった。
すぐセラの部屋に従者が訪れるとテン王様との謁見を告げられ、セラは着替えをしてローブを羽織った。
そして身なりをすっかり正したセラはテン王様から呼ばれた王宮へと向かったのであった。

王宮に入ると、テン王様だけが一人玉座に座っていた。
テン王は肘をつき頭を抱えているようだった。

その悩ましい表情を前に、セラは跪いた。
暫くして、テン王は重い口調で話し始めた。

「セラ、すまなかった。アリセナ国で辛い扱いをされてはいなかったか?クルート国に無事に戻ってきたこと、私は快く歓迎している。」
「テン王様、有難いお言葉を感謝致します。ただ私はご存知の通り、エヴリ王女様を殺しませんでした。それでも…ですか?」

意外にもセラはテン王様から優しい声かけを受けたが、約束を守らなかった自分を恥じて顔を上げなかった。
セラは王命も恋路も、中途半端なままハルクへ戻ってきてしまった自分が情けなくてしょうがなかった。

「エヴリ王女様を暗殺しなかった理由は分からぬが、息子が無事に帰還できたことを喜ばぬ父はいない。」

そう言うとテン王様は玉座から降り、セラと強く抱擁した。
セラはテン王様とこうして触れ合ったのは初めてのことで、セラは激しく動揺しながらも心が温かくなった。

「ずっとセラの意見を聞きたかった。この戦争をどうしていくか…。これから、王族の考えをまとめたいのだ。」

テン王様はそう言ってセラと向き合った。
そしてセラはテン王様に強い眼差しを向け、懇願した。

「それではもう一人、この話合いに呼びたい者がいます。」


尚早にセラとテン王様と場所を王様の執務室へ移し、セラが指定した相手は直ぐに執務室へ訪れた。
セラが指定した相手は部屋に入りセラの顔を見るなり涙目で、セラの前に跪いて言った。

「セラお兄様。無事にハルクに帰って来ていただき、私はとても安心しました。」
「カラ。会いたかったよ。」

セラが呼んだのは弟の第二王子、カラだった。
セラも跪くと、会わぬ間に身長が伸びた弟の背中を撫で熱い抱擁を交わした。

そして兄弟の感動の再会を果たすと、テン王様が咳払いをした。
セラとカラはテン王様を向かいに、並んで座った。

「では、まずセラ。お前は一年間、アリセナ国に潜入したな。アリセナ国の惨状はどうだった?」
「はい、テン王様。アリセナ国はまさに王族と貴族が国政を牛耳り、平民を卑下する身分差のある悲惨な国でした。」

セラはそう言うと、詳しくアリセナ国の内情をセラとテン王様をに説明した。
そして話が終わると、テン王様はセラを真っ直ぐに見て言った。

「セラはこの戦をどうみる?」
「私はアリセナ国の極めて利己的で、互いの国民に大きな犠牲を払う無意味な戦争を一日でも早く終わらせたいと思っています。」
「さすが息子よ。私も同感だ。」

テン王様はそう告げると、カラも静かに頷いた。
そしてテン王様はテーブルに肘をつき頰をついて、頭を抱えるように言った。

「しかし私は悩んでいる。二国の戦争は、まるでクルート国が罠にかかったかのように勝手に始まった。アリセナ国に何度交渉の使者を送っても、アリセナ国から返事どころか使者が戻ってくることは無かった。この戦争をどうしていけばいいのか、私も宰相も困り果てているのだ。」
「そうだったんですか…。」

アリセナ国のオーウェン王様は、きっと二国の戦争がアリセナ国にとって無謀だということを理解していないのだろうとセラは思っていた。
そんなクルート国がアリセナ国に対して拉致があかない状況を聞き、セラも共感するしか返す言葉が見つからなかった。

しかしこの場に自ら招いたカラには、良案があるのではないかとセラは思っていた。

「カラはどう思う?」
「そうですね、二国の各地で引き起こされる戦争をなるべく犠牲を最小限に蹴散らし、リガードへ直接迫めるのはどうでしょうか?強引ですが、クルート国の兵士なら必ずできるはずです。」

カラの案にテン王様は頭を上げ、数回手を強く叩いた。
まだ成人にも達していないカラは柔軟な思考を持ち、そして非常に聡明であった。

「そうしよう。ではそのクルート国軍の最前線の指揮を、セラに頼めるか。」
「承知しました。」

クルート国軍の指揮は、武力に富んだセラに適材適所のところであった。
こうしてクルート国王族の意見はまとまり、セラは戦争を一刻も早く終結するための重要な役目が与えられたのだった。


そして話し合いが終わると、テン王様からセラにだけ話があると言われ、執務室に残された。
その意図をセラは薄々感じていた。
テン王様はセラと向かい合い、重苦しい口調で言った。

「セラは二国の戦争が終結したら、クルート国の王様に即位する気はあるか?」

セラはテン王から予期していた言葉を告げられたが、黙り俯いた。
そして一呼吸すると、決めていた答えを話したのであった。

「テン王様、大変無礼なことをお話しさせてください。私はもう王位継承権を継ぐ気はありません。二国の戦争が終わったら、平民となりハルクを出たいのです。」

セラはそう言うと、頭を深く下げた。
クルート国歴史上、王位継承権を持つ者が自ら王位継承権を捨てて平民になりたいなど、前代未聞の発言であった。

テン王様は強く衝撃を受けたが、すぐに冷静さを取り戻した。
そしてテン王様はやや口元を綻ばせて言った。

「分かった。前例のないことだが私自身が認めよう。セラにはもうこれ以上身分に縛られ、苦労をかけられない。お前には愛する者と共に幸せになってほしい。」

それはテン王様としての立場ではなく、すっかり父親の顔をした父として決断したセラへの返答だった。

「テン王様、感謝致します。二国の戦争は必ず私が終わらせます。」

セラは自分の意見を一番に尊重してくれる寛大な父を持ったことを誇りに思い、部屋を去って行った。
そしてセラは武に有する者を選りすぐりクルート国一の兵を集め、戦争に向かう準備を行った。
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