人形

なゆか

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1-2 傷モノ

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カランッ

山台「…え、これ」

療養中
血まみれの制服はどうなったんだと
母に聞くと、カーディガンとワイシャツは
汚いから捨てたと言われた。

制服は高いからと、スカートだけ
洗わずに粗雑に置かれていた。

山台「…シミだらけ」

乾いた血の粉を払い、
スカートを手に取ると
ポケットから人形の腕が出て来た。

山台「…ヤバいでしょ」

なんで入ってんだよと、
あの人形は呪われてるのか?

羽黒が暴力振るうほど、
大事にしている人形の腕が
こんなところにあるなんて…

もし羽黒が血眼で探してたら
どうするんだ…

これ以上酷い目に遭わされたら
どうしよう…

私は人形の腕を
バックに投げ入れた。



ピンポーン

家のインターホンが鳴る。

両親は共働きで夜が遅く、
今は私以外誰も居なかった。

山台「…荷物?」

ドアスコープを覗くと羽黒が居た。

羽黒「ドアの前に居るのは分かってる」

何で家の住所知ってるの?

羽黒はまじヤバい奴だろと
ドアノブを滅茶苦茶回される。

このままだとドアを壊されてしまう…
とにかく、腕を返さないとと
私はすぐに部屋に戻り、
腕を持って玄関に降りた。

ガシャンッ

ガラスが割れる音。

山台「…嘘でしょ」

リビングの窓を割ったのか、
中に入って来た羽黒と目が合った。

羽黒「来るの遅い」

私は腰を抜かし、床に座り込んだ。

羽黒「…」

コツコツと靴のまま、
私に近付いてくる羽黒に
まじで殺されるんじゃないかと
人形の腕を差し出す。

羽黒「それ、ルネの腕」

山台「…とっ…盗った…わけじゃない…ッ…
返す…からッ…」

こんな声が震えることなんてない…
心臓がバクバクいってるのが分かる…
汗も流れて来た…

私の顔をじっと見る羽黒は、
正面にしゃがみ込んだ。

羽黒「ルネの腕探してた」

羽黒は私から人形の腕を取ると、
大事そうに胸ポケットにしまった。

コレで早く帰ってくれたら、
生きながらえる…頼むから、帰ってと
願うがそれは叶うことはなかった。

ギリッ

山台「い”ぃッ…やめてッ」

羽黒は私の手を引いたかと思ったら、
捻り出した。

羽黒「ルネの腕を取ったんだ。
その報い受けないとね」

羽黒は私の腕を捻り続ける。

山台「やッ…やめて」

ギリッ

山台「無理無理無理ッ…痛いぃ」

羽黒「ルネの方が痛かった」

グリッ

山台「いぎッ…ゔぅ」

腕の関節が外れたのに、
まだ捻る羽黒は私の腕を折る気だ。

山台「ひッ…」

腕を…腕を折られる…
なんで…こんな目に遭わないといけないんだ…
濡れ衣を着せられただけなのに…

尋常じゃない程の冷や汗、
捻られ続ける腕。

助けを呼ぶ声も出ない
腰が抜けて立ち上がれない
恐怖で腕を振り払えない

どうする事も出来ない…

バキッ



山台「ゔぁッ」

私は痛みで目を覚ました。

山台「はッ…はッ…ッ」

ここは自分の部屋だ。

アレは夢だったのか?

いや、この腕に残る感覚に
すぐに夢じゃなかった事を実感した。

私は羽黒に腕を折られて、
その後どうした?

何で部屋で寝てるんだ?

羽黒「腕、折れてないから」

すぐ横から声がして、顔を向けると
人形の髪を梳かしている羽黒が居た。

山台「ひッ…」

羽黒「腕の関節、外したけど
すぐにはめ直したから」

怖い…怖い…なんで、部屋に居るんだ…

山台「はッ…はッ…はッ…」

うまく息が出来ない。

羽黒「息遣いが人間味溢れてる」

羽黒の手が近付いて来て、頬に触れた。

羽黒「頬も柔らかくて、人肌がある」

怖い…怖い…怖い…

ギシッ

羽黒は私のベットに上がると、跨ってきた。

羽黒「鼓動が速い」

私の左胸を押し、耳を当てた。

羽黒「凄く速いよ」

私は…コイツに…このまま殺される…

羽黒「じめっとした肌」

羽黒の指が首筋を撫で、手を掛けられる。

なんで笑っているんだと
羽黒の口角が上がり、
何故か嬉しそうに見えた。

羽黒「君はルネと違って、
生きてるんだね」

だから、殺すって言うのか…

羽黒「…何、このニオイ」

羽黒は濡れた私の下半身を撫でた。

ペタペタ

羽黒「あぁ、汚いな」

ペタペタ

羽黒「コレだから、人間は…」

ペタペタ

羽黒「仕方ないな」

羽黒は私を抱きかかえ、
立ち上がった。

山台「こ…殺される」

羽黒「え?
僕に殺されるって思ったから
漏らしたの?
あぁ、鼓動が速いのは
そのせいか…面白いね」

羽黒は笑いながら、
教えたつもりがない
風呂場に連れてかれた。



服を剥がれ、身体の隅々まで洗われる。

羽黒「ココ、出来モノが…それに
引っ掻き傷の跡…あぁ、ここにホクロ…
これだから、人間は」

逃げ出したいのに逃げられない…
親が帰ってきたら警察を呼んで…

あの両親は警察を呼んでくれるだろうか?
いや、絶対に呼ばないだろう。

私の顔を覗き込み、
ため息を吐く羽黒。

羽黒「背中なんて…本当に酷い…
昨日のガラスの傷塞がってないよ」

床に流れる水が赤くなっている。

羽黒「ガーゼも替えないで、
身体中に、こんなに傷残して…
大切にされていないようだね」

大切にされてない…

そんなの言われなくても分かってる…

羽黒「こんな欠陥品に
貰い手なんてつかないよ」

欠陥品…

親にも出来損ないって、
散々言われてきたし…

両親から疎まれていることは
身に染みている。

山台「…うるさい」

羽黒「僕の人形にしてあげるよ」

山台「…ぇ」

今、なんて言った?

羽黒「僕がルネと一緒に、
君の事を大切にしてあげる」

山台「…な…何言ってんの」

羽黒はヤバい奴なのに、
何故か私は羽黒の
『大切にしてあげる』という言葉と
優しく頭を撫でる手の感触に
安心感を覚えた。

私もおかしいのかもしれない…

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