推しは別の人

なゆか

文字の大きさ
3 / 5

手綱を握る

しおりを挟む
三田が九戸を殺そうとした次の日、
九戸は普通に登校してきた。

名原「九戸っ」

九戸「…うるせー、何の用だよ」

普段通り九戸は不貞腐れているが、
いつもの活気はない。

名原「平気なの?」

九戸「学校来てんだろ」

名原「でも」

九戸「…何様だよ…お節介なんだよ」

九戸はそっぽを向いてしまった。

昨日の花瓶で負った傷や、
殴られたであろう顔は手当してあるが
その後、本気で窓から落とされそうに
なってた事を知ってるのか?

九戸「しっしっ」

九戸に追い払われ、
私は自分の席に戻った。

本当に平気なのか?
絶対平気じゃ無いでしょ…

九戸の背中を見ながら、
心配していると、突然教室が静かになった。

その原因は、勿論…

三田「おはよう、名原さん」

よく平気な顔してられるよな…
昨日、人殺そうとしてたくせに…

九戸がチラッとこっちを見て、
すぐに前を向いてしまった。

三田「九戸君に謝って貰った?」

三田の視線の先は九戸で、
まだ何かやるつもりなのか
まぁまぁ、大きい声で尋ねて来た。

九戸「…ッ」

九戸の背中がびくつき、
身を抱えて震え出した。

名原「謝って貰ったから」

実際、謝罪はないが
今はこう嘘つくしかない。

三田「本当?」

名原「三田が居ないとこでね…」

三田「そっか…俺が居ないところでね…」

何故か残念そうにしている三田は
あぁと手を叩いた。

三田「でも、花瓶はまだだね」

名原「それもいいって…」

三田「良くないよ」

三田は九戸への報復のきっかけが、
欲しいのかしつこい。

あんな身を抱えて震える程、
ビビっちゃってんだから、
もういいでしょ…

名原「つか、昨日…九戸が買って来た花瓶
割ったの三田じゃん」

三田「それは同じ花瓶じゃなかったから」

名原「同じじゃ無くても、
花瓶は花瓶でしょ」

三田「買って来させないと」

私の言葉を振り切り、
三田は九戸の方へ行こうとしているが、
すぐに腕を掴む。

名原「やめろってば」

三田「止めるんだね」

名原「もう十分でしょ」

三田「何様?」

三田に手を叩き落とされる。

名原「痛ッ…」

三田「いじめられてたのは俺だよ。
十分って、これを決めるのは俺だよね」

名原「…確かに、そうだけど…」

三田「今まで見て見ぬ振りしてたよな」

三田は目を見開き、
私に顔を近づけてくる。

三田「そんな名原さんが
俺に口出しするつもり?」

名原「…確かに悪いと思ってるけど、
流石に限度が」

三田「その限度っていうのも決めるのは俺。
悪いのは俺にちょっかい出して来た
九戸君だよね」

名原「だからって、昨日のはやり過ぎで」

三田「俺は九戸君に
毎日嫌がらせされてきたんだ。
この不快な気持ち、
名原さんには分からないだろ」

私は何も言えなくなってしまった。

三田「…ふふっ」

何が面白いのか、突然三田は笑い出し
叩き落とした私の手を掴んで
再び腕を握らされる。

三田「名原さん、
俺の腕掴み続けててよ」

名原「…は?」

三田の手がじめっとしていて気持ち悪い。

三田「そうしないと、俺…ふふっ…
名原さんの推しを殺しちゃうからっ…」

誰にも言わなかったのに…
なんで、推しって知ってるの…

三田「あんな必死に泣く程…ふふっ
怒ってたから……分かるよ…ふっ…ふふ…」

私の手を強く握りしめる。

名原「…痛い」

三田「名原さんは
俺の手綱握ってくれるよな」

これは、脅迫だ。

私は三田の腕から
手を放せなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...