ティアル・ナ・エストレア ―青髪の双子の王子―

涼月

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第二章 使命を探す旅

第18話 伝説はやがて忘れられる

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 飛翔は思い切って聞いてみた。

「ドルトムント。『天空始成紀チェンコンシチンジ』には、神親王シェンチンワンはいつ、どんな形で亡くなったと記されていますか?」

「それが無いんだよ。天空の祖、神親王は、最後にシエの制圧に向かって、その地で遂に神となられて永遠にこの国を守っておられるってね」

 ドルトムントはそう言って、片目をつぶって見せた。
「皇帝が神になってしまったパターンだな」

 死を秘して謎にしたのか……
 次に続く権力者達にとって、亡くなったことを公表したくない理由があったのだろう。
 恐らく『邪』と言うのは、聖杜国のことに違いない。
 そして、そこで亡くなったということは、聖杜で死んだと言うことか。

 聖杜が砂漠になったことと関連があるのか?
 それとも、飛王たちが戦って神親王を倒したのか?
 どちらにしても、『天空始成紀』からは辿れ無いか。

 飛翔は続けて尋ねてみる。
「ドルトムント。『ティアル・ナ・エストレア』という言葉を聞いたことがありますか?」

「ティアル・ナ・エストレア? そうだな……何かの文献で読んだ気もするが……エストレアはこの星の名前、エストレア星のことだよね」

 ドルトムントは記憶をたどる様に頭を傾げた。

「『ティアル』という言葉では無くて、『ティア』という言葉ならキルディア国の言葉で、『涙』という意味だな」
「キルディア国?」

「ああ、宝燐ホウリン山を超えた西側にある強国だよ。金髪で緑の眼の民が多い国で、宝燐山からの地下資源が豊富で、昔から鉱石、宝石の産出量が多くて、壮国とも長栄チァンロォンの港での貿易が盛んなんだ。と言っても、壮国は地下資源が少ないから、長栄港の塩と交換しているんだけどね」

 キルディア国というのは、キリト国のその後なのかな?

 飛翔はリフィアの祖国を思った。

「軍事的にも強国だよ。宝燐山のお陰で壮国は攻め込まれずに済んでいるけれど、隣国だったら大変だったかもしれないな」
 ドルトムントはそう言いながら、口の中で「ティアルティアル」と呟いた。
 

 どうやら、『ティアル・ナ・エストレア』という存在は、この千年後の世界では誰も知らないことのようだな……ということは、『知恵の泉』の事も知られていないと言うことか。

 聖杜国の民の使命が、犠牲が、努力が、無駄になってしまった様な悲しさと悔しさを感じて、心の中がモヤモヤした黒い気持ちになった。それを振り払うかのように、飛翔は更に尋ねていく。

「ドルトムント。壮国はどこからどこまでなんですか? もう一度詳しく教えていただけませんか?」

「いいよ。もう一度地図で見てみよう」
 そう言って、ドルトムントは地図を指し示した。

「壮国は、基本的には、宝燐山の東側全土を掌握していると言って過言ではないね」

 宝燐山の東側全部と言われて、飛翔は改めてその広さに驚いた。

 これほどの大国をどうやって治めているというんだ!

「アトラス山地を超えた南にはバンドスという港町、その東にはデルタという稲作農業地域、王都華陀ファトゥオより東寄りには、長栄チァンロォン港。もちろん、このミザロのオアシスも壮国の領土だよ。気候も民族性も言葉も違う人々が一つの国に吸収されているからね。色々問題は山積みさ」

 ドルトムントはそう言って、渋い顔をした。

「問題山積みなのは、外交面も一緒さ。北の騎馬民族国フェルテとは、長い国境を接していて、今も小競り合いが続いているし、西のキルディア国だって、いつ海から攻めてくるかわからないしね。この街ミザロは砂漠の隊商路として発展している三大オアシスの一つなんだけどね、キルディア国との間に、ルシア国と言う小国があるお陰で、なんとか攻め込まれずに済んでいるかんじだね。ルシア国は大国の間に挟まって良く頑張っていると思うよ。まあ、そこは中立の立場をとって、大国の緩衝地帯の役割や、情報交換の場に徹しているんだよな。ただ……」

 更に勢い込んで続けようとしたドルトムントの言葉を、バーンと勢いよく開いた扉の音が遮った。

「お父さん!」

 仁王立ちのフィオナの姿が現れる。

「飛翔をいつまで拘束するつもり! 彼はまだ病み上がりなのよ! お父さんの無駄話に付き合っていたら、いつまでたっても体力回復できないでしょ!」

「無駄じゃ無いぞ~」
 ドルトムントは小さな声で抗議したが、フィオナに睨まれてしゅんとする。

「飛翔、はっきりばっちり断っていいんだからね!」
「いや、俺が教えて欲しいと思ったからで……」
「早く体力回復してもらわないと困るのよ」
「それは……迷惑をかけて申し訳ない」

 フィオナは、はっとして、慌てて口を塞いだ。

 まずいまずい!
 ついつい本音が……
 買い物の荷物持ちとして期待しているなんて、口が裂けても言ってはいけない。

 心の中でペロッと舌を出しながら、フィオナは慌てて弁明する。

「ごめんなさい。そう言う意味で言ったわけじゃなくて、早く元気になって欲しいだけよ。だから、今日はもう寝たほうがいいわよ」
「ありがとう。そうするよ」

 ドルトムントはわざと大げさにため息をつくと、地図を片付けるフリをしながら、さり気なく飛翔の傍までやって来た。

「飛翔君、いいものを貸そう。旅行記だよ。ベッドでも読めるし、この荘国の全域を旅した人の話だから、読みやすいし分かりやすいよ」

 ドルトムントは小声でそう言うと、フィオナの目を盗むようにして、背中越しに一冊の本を押し付けてきた。

「あれ? でも天花チェンファ語は読めないか」
「大丈夫です。読めます」

 ドルトムントの顔がまたもやぱーっと嬉しそうになって、「そうか、そうか」と言いながら、今度はその本を飛翔の脇に押し込んだ。
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