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第二章 使命を探す旅
第17話 ここに来た理由
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ドルトムントの作業場には、様々な物が所狭しと積み上げられていた。土器の欠片、桶や花瓶の欠片、装飾品の欠片、もしかしなくてもこれは人骨の欠片と思われる物まで、そのほとんどは欠片で、まともに形を留めている品は少なかった。
フィオナが言う通り、残念ながらお金になりそうなものは一つも無い。金細工や宝石がはめられていたかも知れないアクセサリーはあるものの、肝心の金や宝石はとっくに抜き取られていた。宝石泥棒などに荒らされた後に残ったものばかりなのであろう。
その中に、金のメッキが剥がれた腕輪を見つけて、飛翔は手に取った。
これなら、指輪を隠しながら、身に着けておける!
「飛翔君、それ気に入った? ならあげるよ。」
ドルトムントが覗き込みながら言った。
「よろしいんですか!」
「ああ! どうせ一クルムにもならんからな」
「ありがとうございます」
懐に大切そうにしまうと、飛翔はドルトムントの前に腰をかけた。
「それじゃあ、始めようか!」
ドルトムントは地図を広げて話始めた。
「まず、今我々が暮らしている 壮国について説明しよう。壮国の今の皇帝は 玉英王。宰相が 潘氏だ。玉英王は第七十五代目の皇帝で、今三十歳。ひい爺 さんの延世王が今の広大な国土を制圧してから四代目だね」
「壮国というのは、七十五代も皇帝が続いているのですか?」
「いや、壮国の皇帝は、 古代天空国まで遡る血筋と言われているんだ。天空の祖、 神親王が、戦国五国時代の 火、 山、 海、 平、 邪を平定して、 天空国を築いた。偉大で神聖なる神親王の血筋を絶やすこと無く、代々皇帝中心の国家を守り通してきた国……と言うのが、『 天空始成紀』に書かれていることだよ。この国の成り立ちについて、書かれた、大切な国書なんだ。まあ、歴史学者が最初に学ぶ基本の書だな」
天空国!
神親王!
あいつのせいで……
飛翔の眼が冷たく光った。
戦国五国時代だと! いったい何の話だ?
青海は? 紅賀は? 聘楽は?
こんなでたらめな書が国の始まりを書いた本だというのか!
飛翔は怒りに震えた。
それに気づいたのか、気づかないのか、ドルトムントは構わずに続けた。
「けれど……ここからが大切なところだぞ!」
飛翔の顔を見つめて念を押すように言った。
「大抵の国書には、でたらめが書かれている! いや、でたらめというのは言い過ぎかもしれないが、国が作った本には、国の事実ではなくて、国の理想が書かれているんだ。国の理想なんて、生易しい言葉じゃないな。施政者にとって、都合の良い話が書かれているんだよ。なぜだかわかるかな? それは……」
「自分がその国を治めるのに都合が良いからですね」
「ご名答! 自分がその国の一番偉い人で、みんな俺様の言うことを聞け! と言い易くするために、あれやこれや手を使って、民に納得させようとしているんだよ。例えば、自分はこんなすごい人だから、みんなの代表に相応しいってね」
ドルトムントはそこで一旦区切ると、飛翔の顔を見つめてしばらく黙った。
これからもっと凄い事を話すぞーとワクワクしているような顔をして、飛翔の様子をうかがっている。
飛翔が続きを促すように頷くと、
「自分が偉大なことを成し遂げた! と自慢するだけなら、まだ本当の事が混じっているかもしれないけど、自分は神から告げられた特別な人間だーとか、正義のために戦ったとかいう話は、要注意だ! よく覚えておくといいぞ」
身振り手振りで語り続ける。
「神というのは、それぞれの信仰の話になるからね。地域によって信じる神が違っているから、その地域で信じられていない神によって任命されたと言ったって、何の信憑性も意味も無いんだよね。もう一つの正義のためって言うのも、どちらが正義かは、その立場によって違う。勝った者が正義で、負けたら悪にされてしまうんだ。だから、歴史学者の本当の仕事は、そんな人間の言葉の中から、真実を突き止めるのが仕事なんだぞ!」
ドルトムントはどうだ! とばかりに熱弁を振るった。
そういうことか!
飛翔は改めてドルトムントを見つめた。
人の良さそうな風貌で、娘に頭が上がらないドルトムントが、急に頼もしい存在に見えてくる。
この人は、歴史の真実のために戦ってくれているんだ!
この人と一緒だったら、聖杜の事も『ティアル・ナ・エストレア』のことも、これからいろいろわかるかもしれない!
だから俺はここに来たんだ!
飛翔は初めて、自分がここに来た理由を悟った。
フィオナが言う通り、残念ながらお金になりそうなものは一つも無い。金細工や宝石がはめられていたかも知れないアクセサリーはあるものの、肝心の金や宝石はとっくに抜き取られていた。宝石泥棒などに荒らされた後に残ったものばかりなのであろう。
その中に、金のメッキが剥がれた腕輪を見つけて、飛翔は手に取った。
これなら、指輪を隠しながら、身に着けておける!
「飛翔君、それ気に入った? ならあげるよ。」
ドルトムントが覗き込みながら言った。
「よろしいんですか!」
「ああ! どうせ一クルムにもならんからな」
「ありがとうございます」
懐に大切そうにしまうと、飛翔はドルトムントの前に腰をかけた。
「それじゃあ、始めようか!」
ドルトムントは地図を広げて話始めた。
「まず、今我々が暮らしている 壮国について説明しよう。壮国の今の皇帝は 玉英王。宰相が 潘氏だ。玉英王は第七十五代目の皇帝で、今三十歳。ひい爺 さんの延世王が今の広大な国土を制圧してから四代目だね」
「壮国というのは、七十五代も皇帝が続いているのですか?」
「いや、壮国の皇帝は、 古代天空国まで遡る血筋と言われているんだ。天空の祖、 神親王が、戦国五国時代の 火、 山、 海、 平、 邪を平定して、 天空国を築いた。偉大で神聖なる神親王の血筋を絶やすこと無く、代々皇帝中心の国家を守り通してきた国……と言うのが、『 天空始成紀』に書かれていることだよ。この国の成り立ちについて、書かれた、大切な国書なんだ。まあ、歴史学者が最初に学ぶ基本の書だな」
天空国!
神親王!
あいつのせいで……
飛翔の眼が冷たく光った。
戦国五国時代だと! いったい何の話だ?
青海は? 紅賀は? 聘楽は?
こんなでたらめな書が国の始まりを書いた本だというのか!
飛翔は怒りに震えた。
それに気づいたのか、気づかないのか、ドルトムントは構わずに続けた。
「けれど……ここからが大切なところだぞ!」
飛翔の顔を見つめて念を押すように言った。
「大抵の国書には、でたらめが書かれている! いや、でたらめというのは言い過ぎかもしれないが、国が作った本には、国の事実ではなくて、国の理想が書かれているんだ。国の理想なんて、生易しい言葉じゃないな。施政者にとって、都合の良い話が書かれているんだよ。なぜだかわかるかな? それは……」
「自分がその国を治めるのに都合が良いからですね」
「ご名答! 自分がその国の一番偉い人で、みんな俺様の言うことを聞け! と言い易くするために、あれやこれや手を使って、民に納得させようとしているんだよ。例えば、自分はこんなすごい人だから、みんなの代表に相応しいってね」
ドルトムントはそこで一旦区切ると、飛翔の顔を見つめてしばらく黙った。
これからもっと凄い事を話すぞーとワクワクしているような顔をして、飛翔の様子をうかがっている。
飛翔が続きを促すように頷くと、
「自分が偉大なことを成し遂げた! と自慢するだけなら、まだ本当の事が混じっているかもしれないけど、自分は神から告げられた特別な人間だーとか、正義のために戦ったとかいう話は、要注意だ! よく覚えておくといいぞ」
身振り手振りで語り続ける。
「神というのは、それぞれの信仰の話になるからね。地域によって信じる神が違っているから、その地域で信じられていない神によって任命されたと言ったって、何の信憑性も意味も無いんだよね。もう一つの正義のためって言うのも、どちらが正義かは、その立場によって違う。勝った者が正義で、負けたら悪にされてしまうんだ。だから、歴史学者の本当の仕事は、そんな人間の言葉の中から、真実を突き止めるのが仕事なんだぞ!」
ドルトムントはどうだ! とばかりに熱弁を振るった。
そういうことか!
飛翔は改めてドルトムントを見つめた。
人の良さそうな風貌で、娘に頭が上がらないドルトムントが、急に頼もしい存在に見えてくる。
この人は、歴史の真実のために戦ってくれているんだ!
この人と一緒だったら、聖杜の事も『ティアル・ナ・エストレア』のことも、これからいろいろわかるかもしれない!
だから俺はここに来たんだ!
飛翔は初めて、自分がここに来た理由を悟った。
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